「レペゼン母」で小説現代新人賞 すさみ在住の宇野碧さんに聞く

宇野碧さんのデビュー作「レペゼン母」(講談社)

 和歌山県すさみ町在住の小説家、宇野碧(うの・あおい)さん(39)のデビュー作「レペゼン母」(講談社)が、第16回小説現代長編新人賞を受賞した。梅農家の母が、離婚、借金を繰り返す一人息子とラップバトルで本音をぶつけ合う、痛快でありながら、親子関係の複雑さや正解のない人生の奥深さなどを描いた作品だ。宇野さんにこの作品を書いたきっかけなどについて話を聞いた。

 宇野さんは神戸市生まれ。大学卒業後、いったんは就職したが、半年で退職し、国内外で転々と暮らした。「人がすごく親切で居心地が良い」とすさみ町で暮らし約5年になる。

 子どもの頃から本を読んだり、文章を書いたりするのが好きで、20代半ばから小説を書き始めた。小説家としては、顔や本名を公表せずに活動している。

 「レペゼン母」は、女性ラッパーがラップバトルで対戦相手から差別を受けたというニュースを見て、どうすれば女性がラップで勝てるのかを考えたところ、「おかんなら勝てるかも」と思ったことがきっかけで書き始めたという。

 ラップを題材に小説を書くと決めたが、ラップやヒップホップの知識がほぼなかったため、動画やDVDを見て一から勉強。完成までに約2年かかった。

 作品は、韻を踏む歌詞の完成度が高く、ラップバトルの舞台裏の描写がリアルで、読者にラップ経験者が書いたと思わせる内容となっている。実際に作品を読んだプロのラッパーも驚いていたという。

 個性の強い登場人物たちはみんな、実在するようなリアリティーさがあるが、実在するモデルがいるわけではなく、これまでにさまざまな土地で出会った人たちや、本に登場した人物をミックスし、頭の中で創り出した。

 登場人物の名前や作品の舞台となっている土地の風景など、紀伊半島南部に住む人にとっては、なじみ深いものとなっている。「実際に梅畑の仕事は手伝った経験がある。今、住んでいる土地を作品に生かしたいという意識があった」

 すでに次回作に着手しており、「料理」と「癒やし」をテーマにした連作短編集になる予定。その先の作品の構想も五つほどある。

 好きな小説家は、梨木香歩、ガルシア・マルケスなどを挙げる。「この本が、本に興味を持つきっかけになってくれたり、小説を読む楽しさを知るきっかけになってくれたりしたらうれしい」と話した。

© 株式会社紀伊民報