村神様

 野球で長打力自慢の強打者を指していう「スラッガー」の語源は英単語の「SLUG」で、日本語では「強くたたく」。思い切りのいいフルスイングが印象的な彼にぴったりの呼称だ。そんな彼なのに55本目の本塁打から60打席、快音がぱたりと止まってしまった▲“お待たせ弾”が飛び出したのはシーズンを締めくくる最終試合の最後の打席。内角高めの速球を完璧に捉えると、打った瞬間にそれと分かる打球がファンの待つ右翼席の上段へ。何度見返しても気持ちのいい一打だ▲プロ野球・ヤクルトの22歳、村上宗隆選手が1964年の王貞治さんの記録を抜いて日本選手ではシーズン最多となる56号本塁打を放ち、首位打者、打点王と併せ令和初の三冠王に輝いた▲最終戦の成績は内野ゴロ、適時打、内野ゴロ、本塁打の4打数2安打だった。記念の一撃を浴びれば野球の歴史に名前が残ってしまう。それでも勝負を逃げなかった対戦相手の投手陣にも拍手▲村上選手は本県の隣の熊本県の出身。同郷の大先輩で「打撃の神様」と称された元巨人の川上哲治さんが「ボールが止まって見えた」の名言を発したのは円熟期の30歳の時▲三冠王は完成の証しか、はたまた進化は途上か。“村神様”はどんなサイズの足跡を球史に刻むのだろう。今は想像もつかない。(智)


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