穏やかな瀬戸内海に面した倉敷市児島地区。
その児島に、海を利用したボートレース場があります。
鷲羽山のふもとにある広大なボートレース場ですが、現地へ行ったことはあるでしょうか。
筆者は倉敷市出身で何度もボートレース児島の前を通るものの、施設内へは足を踏みいれたことがありませんでした。
賭け事をしたことがない自分には縁のない場所と思っていたからです。
そんな筆者にとって、未開の地だったボートレース児島へ足を踏みいれる機会がやってきました。
「施設情報がインターネット上に少なくて、行きづらい状況。まずはみんなに知ってもらいたい」と話しをもらったからです。
話しの相手はなんと市役所のひと!
そう、ここは市役所の職場のひとつなのです。
知らないことだらけの施設に、わくわくしながら取材に行きました。
施設内は他のお客さんが映らなければ撮影可能。水面を撮影するには許可が必要
ボートレース場について
全国には24のボートレース場があります。
ボートレースは、6艇のボートでゴールを競う公営競技です。
スタートから3周、トータル1,800メートルを走ることは全国共通ですが、レース場の形状が異なります。
そのためターンの角度が変わるので、レース場ごとに調整が必要だそうです。
海や湖の一角を区切ったり専用のプールを作ったりと、レース場が異なるので、水の状態も異なります。
海の場合は、潮(しお)の満ち引きも考慮してレースに挑まなければなりません。
ボートレース児島は海を利用しています。
瀬戸内海の一部なので比較的水面は穏やかですが、満潮時と干潮時でレースの戦略が変わるのだとか。
ボートレース児島の施設
広大な敷地と大きな建物のボートレース児島は倉敷市の管轄。
駐車場は2,500台駐められ、観戦者がいるスタンド棟には約7,000席あります。
新型コロナウイル感染症拡大対策で席数を減らしているので、実際の席数より少なくなっています。
建物には一体何があるのか気になりますよね。
それでは紹介しましょう。
無料バス
ボートレース児島は、レースがある日に無料バスの運行をしています。
7つのルートがあり、もっとも遠いのは福山便。
車がなくても来場できる仕組みです。
▼7つのルート
- 児島駅便
- 倉敷駅便(塩生経由)
- 倉敷駅便(天城経由)
- 総社便
- 天満屋便
- 福山便
- 金光駅(新倉敷駅経由)便
入場門
ボート場に向かうにはまず入場門を通ります。
駅の改札口で切符をいれる要領で、100円硬貨を投入して入場です。
100円がなくても、両替機があるのでご安心を。
インフォメーション
入場門のすぐ横にインフォメーション(案内所)があります。
案内カウンターの反対側はグッズ売り場です。
6艇のカラーグッズやガァ~コグッズなどを販売しています。
舟券の買いかたを教えてくれたり、場内の案内もしてくれたりします。
奥にはボートレースを体感できる「BOAT RACE スプラッシュバトルVR」があります。
売店
売店は計3つ、それぞれ3階の入り口・まんなか・奥側に。
ロングセラーのお菓子が並んでいて、値段は手書き。
駄菓子屋にいるような気分になりました。
食堂
食堂は7つあります。
店によってテイクアウトできる店もあるので、眺めがよいスタンド席などで食べるのもいいかもしれません。
短い時間でささっと食べられる立ち食いスタイルの店は3店舗です。
定食も含め、まるで学生食堂並みのお手頃価格。
たとえば食堂「カトレア」の冷やしうどんは350円(税込)、牛丼は550円(税込)です。
一般席
1階と3階に一般席があります。
1階は屋外、3階は屋内です。
屋外は夏でも海風が吹き、日陰になっているので心地がよさそう。
レース場のもっとも近くに設けられているので、間近で激闘を観戦できます。
指定席
4階は指定席のみ。
予想紙と食堂500円チケット付きで、1,000円です。
予想紙とは、ボートレースの予想新聞のことで、出走表に載っていないデータが書かれています
グループ席もあるので、快適に過ごせます。
上からレースをゆったり観てぜいたく気分が味わえそうです。
ロイヤルルーム
有料会員用のリッチな観覧席、ロイヤルルーム。
専用駐車場、モニター付きシート、ドリンクサービスがある点が一般席と異なります。
ソファ席もあり、くつろげそう。
5階にあるので、眺めも格別です。
▼レース用ボートと瀬戸内海を走るボートの並走写真が撮れました。
児島ガァ~コピア
スタンド棟とは別に、「児島ガァ~コピア」と呼ばれる、ボートレース児島以外の全国の舟券が買える建物があります。
入場料不要で、全国のボートレース場のレースを扱う施設です。
ボートレース以外の楽しみかた
ボートレース場に行ったことがないひとには意外かもしれませんが、入場すると必ず賭け事をしなければならないルールはありません。
賭け事をする、しないは自由です。
つまり、施設にはボートレース以外の楽しみかたもありますよ。
VR体験
インフォメーション内にある、ボートレースを無料で体感できる「BOAT RACE スプラッシュバトルVR」。
VR(Virtual Reality)は仮想現実を意味し、ゴーグルを装着すると360度立体的な、現実に近い映像を見られます。
せっかくなので、体験しました。
実際のボートに近い作りで、選手と同様に正座してハンドル操作をします。
映像でお届けできないのが残念ですが、実際に海のうえにいるような臨場感ある体験でした。
まったく上手にターンができず、「わぁー!」と叫びながらのレース。
あまりにもリアルで、少し船酔いしました。
選手の疑似体験をできると同時に、操作の難しさを知れます。
水上はもっと操作が難しいはずなので、レースに出場するには、たゆまぬ努力と経験が必要なんでしょうね。
キッズスペース
室内と屋外に子どもが遊べるスペースもあります。
▼屋外の「ガァ~コランド」。マスコットキャラクターのガァ~コをあしらった滑り台があります。
▼期間限定(2022年7月20日~9月4日)で設けられているボルダリングウォールでは、子どもたちが楽しそうに壁を登っていました。
子ども向けのイベントも夏休みや冬休みなどの期間中や大型連休の際には、開かれています。
元Jリーガーやオリンピック選手から学べる、とても貴重なスポーツ教室も。
はたらくくるまランドや恐竜が来るイベントもあったようです。
グルメ
岡山名物デミカツ丼やバラずしを提供する店、地元の食材を使った麺メニューがあるところなど。
7つある食堂はそれぞれメニューが異なります。
どこに行こうか迷ったらインフォメーションや掲示板に掲示されているグルメ一覧を見ましょう。
店の特徴とイチオシ!メニューがあるので店選びに便利です。
眺め
場内から見える瀬戸内海の美しい景色は必見。
行き交う船、穏やかな海、小さな島々が連なる風景は見ているだけで癒されますよ。
風景を楽しむなら、屋外席がおすすめ。
海風を感じながらゆったりと腰かけてみては。
▼4階の指定席からの景色も見事でした。
レトロ探し
古いところは1979年に建てられた施設なので、昭和レトロ感が漂っています。
個人差がありますが、レトロ好きはわくわくするのではないでしょうか。
▼カタツムリのイラストが描かれたメモ台。
▼レトロな色といっていいのでしょうか。このような色の案内板は初めて見ました。
レトロ好きな筆者にとって、見るものすべてが新鮮なのでわくわくが止まりません。
機械化されて今は使われていない投票所もレトロです。
昔は窓口の向こうにひとがいて、舟券を取り扱っていました。
5階のロイヤルルーム入り口にある、かわいいテレフォンボックス。
なかを覗くと公衆電話はありませんでした。
よくよく見るとガラスには「携帯電話専用」の文字。
扉が開くので、なかで電話できますが、使うにはちょっと勇気がいりそう。
実は、スタンド棟は建て替え・改修工事されるので、これらのレトロポイントを見つけるのは今のうち。
令和8年度に施設は生まれ変わるそうです。
市の施設のボートレース児島。
訪れてみると、広大な敷地のなかにはボートレース以外の魅力もありました。
市役所の仕事のなかでは特殊なボートレース児島で働く職員、倉敷市ボートレース事業局の横田裕子(よこた ゆうこ)さんと、小野和貴子(おの わきこ)さんに話を聞きました。
横田裕子さんと小野和貴子さんへインタビュー
青い海が目の前に広がるボートレース児島。
ときおりレースの実況が聞こえ、職場としても仕事内容としても特殊な存在です。
ボートレース児島で働く市の職員、開催運営課の横田裕子(よこた ゆうこ)さんと経営管理課の小野和貴子(おの わきこ)さんに話を聞きました。
仕事内容
ボートレース事務局
ボートレース事業局は課が2つあり、さらに各課は2つの係で構成されています。
- 経営管理課は、「経営企画係」と「施設管理係」
- 開催運営課は、「ファンサービス係」と「開催業務係」
経営管理課の仕事
──小野さんの仕事内容を教えてください。
小野(敬称略)──
私は経営管理課 経営企画係に所属しています。
私の仕事は予算、経理で内部のお金の処理がメインです。
変わった仕事で言えば、来賓の対応でしょうか。
招待して来ていただくこともあれば、視察で来られることもあります。
基本的には場内を案内するのですが、先日珍しく「ジーンズストリート」の視察の要望があり、アテンドすることもありました。
別の係の施設管理係の仕事は、建物や設備などの維持管理です。
修理や点検、今後行われる施設の改修などが担当で、専門職が多いですね。
敷地が広くて移動に自転車を使っている職員がいます。
私なんて基本事務所にいるのに、それでも3,000歩いきます。
ちょっとそこまでが「ちょっと」じゃないんですよ。
横田(敬称略)──
私は事務所から出ないときは1,000歩、ふだんは3,000歩、イベントなどある時は10,000歩(笑)。
開催運営課の仕事
──横田さんの仕事内容を教えてください。
横田──
私の部署はファンサービス係です。
昔から来てもらっているボートファンのかたがたや最近興味を持ったかたをはじめ、ボートレース場に初めて足を向けてくれる新たなファン獲得のためのファンサービスに取り組んでいます。
広報や来場者へのプレゼントの用意、来てくれるためのイベント開催ですね。
職員やJLCなどの関係する事業者が発案して、来場者様向けのサービスをしています。
JLCとは、日本レジャーチャンネルの略。ボートレースの情報をテレビ放映によってリアルタイムに伝える放送局です。
プレゼントは倉敷市の企業から、倉敷ならではの品物の購入を。
髙田織物さんの畳縁コースターや、カモ井加工紙のマスキングテープなどですね。
広報では、倉敷ケーブルテレビさんと番組や動画を作っています。
レース情報が載っている出走表を作るのも、私たちファンサービス係の仕事です。
小野──
横田さんがいる開催運営課は、外部のかたとのやりとりがメインなので、ほとんど席にいないんですよ。
電話の問い合わせを私たちの課が代わりに受けるんですけど、開催運営課が担当の内容も聞かれるので、焦ることも。
開催運営課はレース自体に直結している部署です。
他にも場内の警備についても担当しています。
横田──
職場はとても雰囲気がいいんですよ。
みんなおもしろいし、やさしいし、一生懸命。
上司もいいかたで、一日に何回も褒めてくれるんです。
提案したことに「いいね!やってみよう」と言ってくれますね。
ボートレース場のイメージを変えたい
──ボートレース児島を訪れるまで勝手にマイナスなイメージを抱いていました。実際訪れると、開放的な空間で海もきれいで驚きました。
横田──
ボートレースって正直あまりよい印象を持ってもらえていないのが現状です。
私もここに配属されるまで施設に入ったことすらありませんでした。
でも来てみると、きれいだし、広いし、なにより海、景色がきれいだし。
いつも景色に癒されています。
実はすばらしい場所なんだと知ってほしいですね。
小野──
そもそも「なぜボートレースを公営競技として市が運営しているか」ですが、賭け事なのであまりよいイメージはないかもしれません。
昔は遊びが少なくて、そのなかで遊びを提供しつつ、そこで得た収益金を使って、地元に還元・貢献することが大前提にあります。
でも、その収益金が何に使われているか今まで積極的に宣伝してこなかったんですよね。
楽しみながら社会貢献ができていると知ってもらえたら、さらにボートに対するイメージが改善されるんじゃないかと。
横田──
収益金の一部は倉敷市の一般会計に繰り出しています。
一般会計に入れられるので、さまざまなことに使われているんですけどね。
小野──
PR不足もあって、最近は使途がわかっているものは「これに使っています」と、告知としています。
横田──
たとえば新しいほう(下り)の、古城池トンネルの開通工事に収益金が使われました。
平成30年7月豪雨のときには、真備に災害公営住宅の整備やまきびの里保育園の復旧などにも収益金が使われました。
西阿知小学校のグラウンド整備や、はしご車の購入にも使っています。
小野──
ほかには新型コロナウイルス感染症の対策にも。幅広く使われています。
施設整備で地域に拓かれた場所にしたい
──倉敷市のホームページによると、建物の改修の予定があるのですか?
横田──
はい、今年度(令和4年度)に設計に取りかかり、完成は令和8年度を予定しています。
お客様が観覧する建物は、増築して今の形になりました。今はひと続きですが、第2期・3期・4期と建てられた時期が違うんです。
計画では第2・3・4期のスタンド棟を変えます。
2期が一番古い建物で、入り口手前から真ん中までの部分です。
2期は壊して建て替えます。
イベントホールや子どもが遊べる施設を作って幅広い世代が楽しめるエリアに。
3と4期は壊さないんですけど、なかの改装をします。
完成をお楽しみに!
小野──
今では来場者数に対して施設が広いんです。
最盛期は多くのお客様が直接来場していたから広い施設が必要だったんですけど、今は舟券を買える場所や方法が増えたこともあり、来場者が少なくて。
建物を整備して、ボートレースを楽しむひとだけでなく、それ以外のひとも楽しめる施設にしていこうと。
今はお子さまが来られても一部の狭いスペースでしか遊べません。
でも今後は地域に拓かれた場所、ふだんから子どもが遊べる場所に、という基本構想を元に生まれ変わる予定です。
ボートレース場に対する想い
──今後ボートレース児島は、どのように変わってほしいですか。
横田──
観光のパンフレットに載って、観光地のひとつとして認識されたいですね。
私自身、今まで観光地と認識していませんでした。
鷲羽山に向かうときに、前は通るけど素通り。
今後はジーンズストリート行く?ボート行く?という選択肢のひとつになれば。
子どもを遊ばせたり、ごはんを食べに来たりとボートレース以外の目的でも訪れるようにしたいです。
誰もが訪れ、快適な時間を過ごせる拓かれたボートレース場にしたいと思っています。
小野──
今は「ボート好きじゃないと行ってはいけない」ようなイメージがありませんか。
それを取り除きたいなぁと。
横田──
みんなが楽しんでいただけるイベントをして収益金を還元し、ボート以外でも楽しんでいただく。
改修して、毎日楽しめる施設にしたいです。
美しい景色も楽しんでいただきたいですね。
この景色は他場にも負けないというお声をいただいています。
まずは賭け事なしに来て、見てほしいです。
それで目の前で繰り広げられるレースを見ているうちに興味を持っていただければ。
熾烈(しれつ)な秒単位の争いを見ているのは迫力がありますし、おもしろいですよ。
おわりに
「賭け事をしないひとは行ってはいけない場所」だと思い込んでいた筆者ですが、取材をとおしてボートレース以外の楽しみかたもあると知れました。
掃除が行き渡り清潔で、景色が美しく、ボートレース場に対する勝手な思い込みがガラッと変わり「また行きたい」と思うように。
同時に、この場所をもっと多くのひとに知ってもらい、訪れてほしいとも思いました。
今後、ガラリと生まれ変わる予定のボートレース児島。
みんなが楽しめる場所、観光地のひとつになる日が楽しみです。