党大会直前、異常事態続く中国共産党

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・9月30日、中国烈士記念行事には習近平主席をはじめとする政治局常務委員7名全員が出席した。

・中国共産党がいきなり「ノーマスク」へと舵を切り、式典に参加する数百人が誰もマスクをつけない姿で登場した。

・9月下旬以降、李首相は習主席の好まない「改革・開放」を内外へ向かって繰り返し主張。9月中旬から下旬にかけて共産党内で大きな変化があった可能性高い。

今年(2022年)9月30日、中国烈士記念行事には習近平主席をはじめとする政治局常務委員7名全員が出席した(a)。

中学校の生徒が歌を歌い、その後、9つの大きな花籠が軍人によって人民英雄記念碑に運ばれた。習主席らは記念碑に登り、籠のリボンを整え、ゆっくりと歩いた(式典は20分ほどで終了)。

コロナの発生から3年目にして初めて、式典に参加する数百人が誰もマスクをつけない姿で登場した。突然の習主席及び中国共産党幹部らの「ノーマスク」は不思議な光景である。9月27日、習主席は10日ぶりに姿を現したが、その時はまだマスクを付けていた。ところが、その3日後、中国共産党はいきなり「ノーマスク」へと舵を切ったのである。

第20回党大会以降ならともかく、習主席は、次期党大会での3選を目指し、これまで「ゼロコロナ政策」を掲げて突っ走って来たのではないだろうか。なぜ、突如、習主席は自らの“看板政策”を下したのか。

9月14日、習主席は、外遊に出た際、ずっとマスクを着けていた(カザフスタン側は習主席に気を遣って、全員マスク着用で応対している)。ウズベクスタンのサマルカンドで「上海協力機構」が行われたが、晩餐会で、各国首脳は全員「ノーマスク」だった。そのせいもあってか、習主席は晩餐会に出席せず、急遽、北京へ戻っている(習主席が予定を変更したのは、北京で“不穏な動き”があったからかもしれない)。

つまり、9月中旬から下旬にかけて、中国共産党内で大きな変化があった可能性が高い。そうでなければ、次に述べるような奇妙な出来事も起こらないはずである。

9月30日夜、国務院主催の「国慶節」(翌10月1日)のレセプションが人民大会堂で開催され、約500人が招待された(b)。その際に撮影された1枚の写真が、様々な憶測を呼んでいる。

それは、習主席と李克強首相が、(乾杯の)グラスを合わせようとした瞬間だった。上位の習主席は、グラスを下位の李首相より高く掲げていた。

けれども、李首相は、グラスを持った“右手の人差し指”をまっすぐに伸ばして、習主席へ向けている。これは、明らかにテーブルマナー違反であり、失礼な行為ではないか。

また、習主席は、唇をぎゅっと噛み締めて、李首相を睨みつけ、あたかも首相に挑むかのような表情を浮かべている。一方、李首相は、余裕の笑みを浮かべ、穏やかに習主席を見ていた。まるで、主従関係が逆転したような雰囲気が醸し出されている。

さて、9月下旬以降、李首相が、習主席の好まない(というよりも+唾棄すべき)「改革・開放」を内外へ向かって繰り返し主張している。実は、最近、習主席は「鎖国論」を展開し、「改革・開放」を“牽制” (c)していた。

第1に、9月22日、李首相は、中南海の紫光閣で日本経済界代表とビデオ対話を行った。その際、李首相は「『改革・開放』は前途の様々な挑戦に対応する重要な鍵であり、今後、中国発展の重要な原動力となる」と語った。

第2に、9月30日午後、李首相は受賞歴のある海外の専門家と会談した際、「今後も揺るぎなく『改革』を深化させ、『開放』を拡大し、持続的発展に強い原動力を注入して行く」と述べた。

第3に、同日、李首相は、新任の特使や42ヶ国・機関の代表との会談でも、「『改革・開放』という国家の基本方針を堅持する。・・・国際情勢の変化にかかわらず、中国の『開放』は拡大し続けるしかない」と明言した。

第4に、同日夜の国慶節レセプションで李首相は、「『改革・開放』を堅持し、市場プレイヤーを育成し、法の運用を遵守し、市場志向、法治主義、国際的なビジネス環境を構築し、市場の活力と社会の創造性を一層喚起する」と言及した。

以上の状況から判断して、9月16日深夜、外遊先から戻った習主席の身に何かが起きた事は、ほぼ間違いないだろう。

ところで、9月12日、日中戦争・「国共内戦」での軍歴を持つ宋平・元政治局常務委員(105歳)が、唐突に「改革・開放」を唱えて世間を驚かした。他方、直近では、今年夏、江沢民元主席(96歳)の誕生日祝いの写真が出回っている(d)。なぜ、このデリケートな時期に、江元主席夫妻の写真がクローズアップされるのか、理由は定かではない。

〔注〕

(a)『FRA』「習近平が政治局常務委員を率いて花輪を捧げる 第20回党大会前、天安門広場周辺の地下鉄駅を閉鎖」(2022年9月30日付)

习近平率常委献花 二十大前天安门周边地铁站先封

(b)『中国瞭望』「習近平・李克強乾杯の写真で怪しさ露呈? 李克強は繰り返し改革開放に言及」(2022年10月2日付)

习李碰杯照透出诡异?李克强一再提改革开放- 万维读者网

(c)『遠見』「国際週報》第20回党大会前夜、中国共産党はなぜ明・清時代の『鎖国』を擁護しようと躍起になったのだろうか」(2022年9月8日付)

國際週報》 20大前夕,中共急為明清「鎖國」辯護為哪樁? | 林士蕙 | 遠見雜誌

(d)『中国瞭望』「第20回党大会を前にして権力闘争のクライマックスか? 江沢民夫妻が姿を現す」(2022年10月3日付)

20大前权斗高潮?江泽民夫妇露面- 万维读者网

トップ写真:中国北京の人民大会堂で行われた第13期全国人民代表大会第5期第2回全体会議で演説する中国共産党政治局常務委員の李璋修氏。(2022年3月8日) 出典:Photo by Andrea Verdelli/Getty Images

© 株式会社安倍宏行