夜勤明け…朝まずめの釣り、集中して竿に糸を通していたら悲劇 夜明け時に響いた叫び声【敦賀海保日誌】

事故現場の状況(2022年9月・福井県越前町)

福井県内では暑さも和らぎすっかり秋模様になりました。過ごしやすいこの季節、「○○の秋」という言葉がよく使われます。「食欲の秋」「読書の秋」「スポーツの秋」「芸術の秋」・・・みなさんは、どんな秋が思い浮かびますか?海の様子はと言うと、まさに「釣りの秋」真っ盛り!

秋は人間と同じく魚も活発になるシーズンなので、福井県沿岸の漁港や岸壁、磯などは、連日多くの釣人で賑わっています。ですが、この賑わいの反面、10月11月は年間で最も釣りにまつわる事故が多発するシーズンでもあるんです。

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9月上旬、福井県越前町の漁港で釣りに訪れた男性が夜の海に落ちる事故が発生しました。

男性はこの日夜勤の仕事を終えてから、カサゴなどの根魚を狙う穴釣りを行うため、夜明け前の午前3時半ころに1人で漁港にやってきました。 魚の活性が上がる日の出前後の「朝まずめ」と呼ばれる時間帯にあわせて午前4時半ころから釣りの準備を開始。釣り道具を防波堤の上まで運び、まずは釣竿に糸を通します。 まだ辺りは暗がりで視界もほとんどない中、手持ちのライトの明かりを頼りにして、防波堤に寝かした釣竿の穴に1つ、また1つと体を移動させながら糸を通していきます。 1つ、また1つ、あれ?足場がない!・・・ドボーーーン!!! そう、男性は竿に糸を通すことに集中していたため足元の確認が疎かになり、防波堤の切れ目に気付かず宙に足を踏み出してしまったのです。

暗い海の中に1人落ちてしまった男性。 周りの様子もよく分からず、海から防波堤に上る手立ても見つかりません。 それに男性はライフジャケットを着用しておらず、防波堤の根元に掴まりやっと体を支えられている状況。 男性は、手に持っていたライトを振り回して「助けてくれーーー!!!」と大声で叫び助けを求めました・・・。

男性の必死の叫び。落ちた防波堤の対岸で釣りをしていた別の男性に届いていました。 「ドン!という音の後に『助けてくれ』という叫び声が聞こえた」との通報を受けて駆け付けた消防署員が海の中にいる男性を発見。転落から約30分後、男性は無事に救助されたのでした。

今回、事故に遭った男性はケガもなく無事に助かりましたが、このような海中転落事故、実は非常に危険な事故形態なんです。 昨年、福井県沿岸の岸壁や磯での釣り中に海に落ちるという事故に遭遇した方は10人、そのうち死亡または行方不明となった方が5人と実に半数にも上りました。 その多くが、ライフジャケットを着用していなかったり、1人で行動されていた方々。 ライフジャケットなどの浮力が無い状態では、服を着て海の中を泳ぐのは不可能と言っても過言ではないほど体力の消耗が激しいもの。また、1人での行動はもしもの時に発見してもらえないというリスクがあります。

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そんな悲惨な事故を防ぐため敦賀海上保安部では、釣りを楽しまれるみなさんに対して、

・釣り場に適した服装や装備を着用する

 <動きづらいズボンや脱げやすいサンダルなどで事故に繋がることがあります。> ・スマホなどの連絡手段は防水パックに入れて常に身に付けておく

 <連絡手段はカバンなどに入れて置いていたのでは、いざというときに使えません。> ・できるだけ複数人で行動する

 <事故の発生をいち早く誰かに気付いてもらうことが救命率を高めます。> ・足場が良い場所でも必ずライフジャケットを着用する

 <海辺で遊ぶうえでライフジャケットは、文字通り命を守る装備です。>

ということを強く呼び掛けています。

⇒釣り、マリンスポーツ中の思わぬ事故、連載「敦賀海保日誌」を読む

秋と言えば衣替えの季節。 釣り中にライフジャケット(救命胴衣)を着ていないそこのあなた!そろそろ衣替えしませんか? みなさんの「○○の秋」が「悲劇の秋」となってしまわないように。(敦賀海上保安部・うみまる)

 

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