大マゼラン雲と小マゼラン雲を包んで保護する「銀河コロナ」ハッブル等の観測データで確認

【▲ 大マゼラン雲と小マゼラン雲を取り囲む銀河コロナ(紫)と、その観測方法を示した図。背景のクエーサーから銀河コロナを通過しつつ地球へ届いた紫外線を分析することで、その存在が確認された(Credit: STScI, Leah Hustak)】

コロラド大学のDhanesh Krishnarao教授を筆頭とする研究チームは、「ハッブル」宇宙望遠鏡などによる観測データを分析した結果、天の川銀河の伴銀河(衛星銀河)である「大マゼラン雲(LMC)」と「小マゼラン雲(SMC)」(※)を取り囲む銀河コロナ(Galactic corona)の存在を確認したとする研究成果を発表しました。

銀河コロナとは、銀河の最も外側の部分である銀河ハローを構成する、高温の電離したガス成分を指す言葉です。研究チームによると、今回存在が確認された銀河コロナは、大小マゼラン雲から星形成に必要なガスが失われるのを防ぐシールドのような役割を果たしている可能性があるようです。

※…LMC:Large Magellanic Cloud、SMC:Small Magellanic Cloud。大マゼラン銀河、小マゼラン銀河とも。

■遠方のクエーサーから届いた光を分析して大小マゼラン雲の銀河コロナを確認

【▲ 数値シミュレーションをもとに作成された、夜空に浮かび上がるマゼラニックストリームのイメージ図(Credit: Colin Legg / Scott Lucchini)】

天の川銀河に引き寄せられつつ互いに周回してる大マゼラン雲と小マゼラン雲からは、マゼラニックストリーム(マゼラン雲流)と呼ばれる中性水素ガスでできた細長い構造が伸びています。アメリカ航空宇宙局(NASA)は、重力を介した相互作用によってほつれるようにガス状の破片を残してきた大小マゼラン雲が、数十億年に渡って“危険な旅”を続けてきたと表現しています。

そのいっぽうで、大マゼラン雲と小マゼラン雲では活発な星形成活動が進んでいることも知られています。たとえば大マゼラン雲にある輝線星雲「かじき座30(30 Doradus)」、別名「タランチュラ星雲(Tarantula Nebula)」星形成領域のひとつであり、その中心には質量が太陽の150倍以上という大質量星が幾つも存在するといいます。

星はガスや塵を材料として形成されますが、相互作用によって銀河からガスが失われれば、星形成活動にも影響があるはずです。Krishnaraoさんは、大小マゼラン雲から伸びるガスのストリームがどうやってそこに存在するのかについて、多くの研究者が説明に苦労してきたと語ります。「これらの銀河(※大小マゼラン雲)からガスが取り除かれたのなら、どうすれば星を形成し続けられるのでしょうか」(Krishnaraoさん)

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)を使って撮影されたタランチュラ星雲(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Webb ERO Production Team)】

関連:ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した大マゼラン雲の「タランチュラ星雲」

ガスの流出と星形成活動の継続が両立する大小マゼラン雲の状況を説明するために、天文学者たちは数年前に銀河コロナの存在を予測しました。銀河コロナは何十億年も前に崩壊して銀河を形成した、原初のガス雲の残骸ではないかと考えられています。研究に参加したウィスコンシン大学マディソン校のElena D'Onghiaさんによると、大マゼラン雲には銀河コロナを持つのに十分な質量があり、天の川銀河へ落下する大小マゼラン雲のシミュレーションで銀河コロナを考慮したところ、引き出されたガスの質量を初めて説明することができたのだといいます。

銀河コロナは大小マゼラン雲から10万光年先まで、地球から見れば南天の大部分を覆うように広がっているようです。問題は、直接観測して確かめるには銀河コロナが暗すぎることでした。そこで研究チームは、銀河コロナの向こう側に見える「クエーサー」(※)に着目しました。銀河コロナそのものは見えなくても、クエーサーを発した光の一部を隠したり吸収したりする、一種の霧のような存在として検出できるはずだと考えたのです。

※…クエーサー:銀河中心の狭い領域から強い電磁波が放射されている活動銀河核(AGN:Active Galactic Nucleus)の一種で、活動銀河核のなかでも特に明るいタイプ。

研究チームはハッブル宇宙望遠鏡と、1999年から2007年まで運用されていた遠紫外線分光探査機「FUSE」(ヒューズ、Far Ultraviolet Spectroscopic Explorer)の観測データをもとに、28個のクエーサーから届いた紫外線を分析。その結果、大マゼラン雲と小マゼラン雲を取り囲む高温ガスが確認されました。ガスはとても拡散しているものの、その量は大マゼラン雲の中心から遠ざかるにつれて少なくなっていることがわかったといいます。Krishnaraoさんはこの発見について、大小マゼラン雲を包み保護している銀河コロナが本当に存在する明確な証拠だと指摘しています。

分析された紫外線のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)には、炭素・酸素・ケイ素といった、銀河を取り囲む高温プラズマのハローを構成する物質の痕跡が認められたといいます。また、大小マゼラン雲を包むガスにはマゼラニックストリームや天の川銀河に由来するガスも混ざり合っているようです。Krishnaraoさんによると、大小マゼラン雲の銀河コロナは衝突時の衝撃を吸収するとともに、ガスの一部を失うことと引き換えに大小マゼラン雲からガスが失われるのを防ぐことで、星形成活動を維持する役割を果たしていることが考えられるとのことです。

関連:マゼラン雲が生み出したマゼラニックストリーム 5000万年後に天の川と合流か?

Source

  • Image Credit: STScI, Leah Hustak
  • NASA \- Hubble Detects Protective Shield Defending a Pair of Dwarf Galaxies
  • STScI \- Hubble Detects Protective Shield Defending a Pair of Dwarf Galaxies
  • Krishnarao et al. \- Observations of a Magellanic Corona

文/松村武宏

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