【インタビュー】栃木SCのU-21日本代表DF、鈴木海音が明かした“悔しさ” 「あのメキシコ戦を忘れない」

今シーズン、J1のジュビロ磐田からJ2の栃木SCに期限付き移籍中のDF鈴木海音。

U-15日本代表時代から世代別代表のセンターバック(CB)を務める彼は現在、パリ五輪出場を目指すU-21代表に定着している。

先日の欧州遠征ではイタリア戦(1-1)にフル出場。セリエAで主力を張る選手も多い同世代の猛者たちと鎬を削った。

現地メディア『トゥット・メルカート』でも「6.0、最終ラインを指揮。イタリアの攻撃陣を可能な限り食い止めた」と寸評を交えて評価されている。

そんな鈴木海音に、栃木SCでの現状やジュビロ磐田への想い、2019年の『FIFA U-17ワールドカップ』での経験。そして、DFとしてプレーする楽しさや自身の将来について訊いた。

多岐に渡るインタビューで真摯な彼の声に耳を傾けて欲しい。

取材・文/新垣 博之(取材日:2022年9月15日、写真提供:栃木SC)

――もう栃木には慣れましたか?

「毎日のようにご飯を食べに行く場所も見つけたので慣れました。アスリートとしてはそれが最も重要です。栃木に来られたらレモン牛乳を1度飲んでみてください(笑)」

今季、期限付き移籍した栃木SCで開幕から主力に定着している20歳の鈴木海音(写真提供:栃木SC)

【栃木SC】「試合に出続けることで判断がスムーズに」

取材時、栃木は22チームで戦う明治安田生命J2リーグで35試合を戦い、9勝13分13敗の勝点40で18位。

下位に沈んでいるものの、33失点はリーグで3番目に少ない。昨シーズン主将を務めたDF柳育崇(ファジアーノ岡山)が抜けた最終ラインで、鈴木海音が奮闘している。

――上位陣との惜しい試合が続いています。特に横浜FC戦(0-0)は海音選手の惜しいヘディングシュートもあり、小川航基選手とのユニフォーム交換も話題になりました。

「勝ちたかった試合でした。航基くんには僕からユニフォーム交換をお願いしました。ジュビロでチームメイトだっただけでなく、ピッチ外でも一緒にご飯を食べに行ったり、釣りに行ったりもしていました。今年も航基くんの家に遊びに行ったりしていて、普段から仲良くさせてもらっています。」

――チームはここまで18位に低迷していますが、リーグで3番目に少ない33失点。1試合1失点以下に抑えているのは、手応えもあるのでは?

「チーム全体として守備の意識が高くなった時にはゴールを最優先に守れています。ただ、失点こそ少なくても、まだまだボールを奪いに行ける場面が多いという課題を感じているところです。

今の戦い方(※[3-4-2-1]のシステムを採用)だと、ウィングバック(WB)の選手が前に出れなくなると5バックになってしまいます。自分たちはその形で守れる自信もあるんですけど、それを長い時間やってしまうと、自分たちの攻撃の時間が作れずに相手の攻撃を受け続けるだけになってしまいます。

そこはスコアや時間帯を考えながら、前からプレスで奪いにいく回数を増やしたりすることを、もっとチーム全体として共有していかなければいけないと感じています」

――今季はレンタル移籍でプレーすることを決断されました。数あるオファーの中から栃木SCを選んだ理由は?

「1番必要としてもらっている熱意を感じて、『このチームでやってみたい』と思いました。そして、その気持ちに応えたいと思ったからです。

(3バックは?)自分がこれからもっと成長するためには4バックのCBを経験しなければいけないと思っていました。ジュビロで3バックは慣れていたので、そこは移籍先を選ぶのには気にしていませんでしたね」

――ジュビロで試合に出られなかったことはどう捉えていますか?

「監督に直接その理由を聞いたことはないのですが、プレーの質や90分間を通したパフォーマンスで、自分が試合に出ていた選手よりも劣っていたと感じています。そこはまだまだ力不足ですね」

――試合に出続けることで成長を感じる部分は?

「1試合1試合、自分の中で課題が出てきます。反面、今まで出来なかったことが出来るようにもなります。試合に出続けることで自分のプレーの“幅”も拡がっていると思います。それは日々の練習中から常に高い意識を毎日積み上げられているからだと考えています。

練習中の1つの場面を切り取っても、試合をイメージしながらできるようになったことで選択肢に迷わなくなり、『こうした方が良い』という判断の部分がスムーズになりました」

――試合に出続けていると『あれ?これは対策されているな』と感じることもありますよね?逆に自分でも相手チームの試合を観ることもあるのですか?

「ありますね。そういうのも試合に出続けているからこその経験です。自分では相手チームの直近の試合を90分フルで観て、その前の2試合も要点を絞って観ています。相手チームのオーガナイズの部分や自分が直接マッチアップするだろう選手の特徴を把握するために使います」

――現代サッカーではCBにも攻撃力を求められます。栃木はボール支配率では下から3番目(42.3%)に入るチームですが、DFから攻撃を組み立てることは少なくありません。右CBの海音選手と右WB黒崎隼人のホットラインは主要な攻撃パターンになっていますね。

「黒崎選手は爆発的なスプリント能力を持っているので、それを最大限活かしたいと思って取り組んでいます。ただ、パターンや決め事は特にありません。やはり、『相手を見てプレーする』ことが大切なので、普段の練習からお互いに良いコミュニケーションを取りながら信頼関係を築けていることが今に繋がっているのだと思います。

コミュニケーションに関して言うと、3バックの中央に入るカルロス(・グティエレス、スペイン人DF)は日本語で話しかけてくれるので助かっています。日本語が出てこない時は自分も頑張って英語でコンタクトをとっているんですけどね(笑)」

――CBにビルドアップ能力が必須になる中、必然的にFWの守備力も高くなっています。日々のトレーニングから海外経験もある元日本代表FW矢野貴章選手とマッチアップする機会が多いのは経験値として大きいのでは?

「貴章さんはDFを背負った状態のコンタクトプレーや競り合いが強い選手です。自分がビルドアップする側の時もそうですし、貴章さんとマッチアップした時に『自分がどうやったらボールを奪えるのか?どれくらい距離を寄せたら良いのか?』など、練習から攻守における具体的な距離感を測ることが出来ることが大きいと思います。そして、僕の地元である静岡県浜松市出身の大先輩ですから!」

――残りのシーズン、栃木での目標を聞かせてください。

「開幕前はJ1昇格という目標を掲げてやってきたので、今の順位には全く納得できていません。個人としても自分はまだゴールを取れていないので、『自分で点を取って、ゼロで抑えて、チームを勝たせる試合』をしたいです」

【U-17W杯】「メキシコに負けた試合は今も鮮明に覚えている」

2019年にブラジルで開催されたU-17ワールドカップ、日本は初戦で欧州王者のオランダを3-0と一蹴。その後もアメリカとのスコアレスドローを経て、セネガルを1-0で下した。グループステージを2勝1分の首位、大会唯一の無失点で勝ち上がった。

森山佳郎監督(現U-16日本代表監督)が率いた当時のU-17日本代表は、攻撃ではポゼッションとカウンター、守備は前線からのハイプレスや中盤でのミドルプレス、自陣に引くリトリートを全て高いレベルで備えていた。ジャンケンのグー・チョキ・パーを揃え、それらを「相手を見て」使い分けられる大人なチームだった。

快調な戦いぶりからU-17年代で史上最高のベスト8超えが期待されたが、一転して決勝トーナメント1回戦ではメキシコを相手に0-2で敗戦。鈴木海音自身もCBとして全4試合にフルタイム出場したが、ベスト16で大会を後にした。

「サッカーの戦術的な部分もそうですし、選手のキャラクターの部分でもバランスが良く、笑顔が絶えない良い雰囲気のチームでした。それだけに敗退が決まった時には、歯がゆさも残った大会です」

――ラウンド16のメキシコ戦、相手は格上、それ以上に確固たるスタイルを持っているチーム。それが露骨に守備を固めて引いて来ました。

「正直、メキシコに自分達がリスペクトされたのはビックリしました。でも、自分たちの前線にスピードがある強烈なFW(※若月大和、湘南ベルマーレ)がいたので、前線のスペースを消す選択は当然なのかなとも思います。試合中は『前にスペースがないなら、後ろで作って行こう』と話していたんですが、相手の戦略通りにやられてしまいました」

――メキシコ戦はCBコンビを組んでいた主将のDF半田陸選手(モンテディオ山形)が欠場し、海音選手がキャプテンマークを巻きました。

「陸の存在が大きかったのは事実ですけど、1人抜けたから崩れるようではダメです。だからこそ、あのメキシコ戦に懸ける思いは強かったんです。あの悔しさは今も鮮明に覚えています。でも、あの借りは国際舞台でしか返せないので、今も心にとめて頑張っています」

≪明日8日の後編に続く≫

© 株式会社ファッションニュース通信社