24年ぶり為替介入は予想外ではなかった…予告していた財務官の発言とは

2022年9月22日(木)に、何と1998年6月以来、24年ぶりに政府・日銀による米ドル売り・円買い介入が行われました。これは「予想外」と受け止めた方が多かったようです。その上で、効果のない無駄な行為といった否定的な見方も少なくなかったようです。

ただ、どちらも「間違い」の可能性があるのではないかということを、今回は説明してみたいと思います。


「予告」されていた為替介入

9月22日(木)、米ドル/円がそれまでの米ドル高値を更新し、ついに区切りのいい145円も突破したところで、日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入が行われ、これを受けて米ドル/円は145円台から一時は140円割れに迫るまで急反落となりました(図表1参照)。後で、財務省が公表したところによると、この日の円買い介入額は3兆円近くにも達したようでした。さすがに、約5円もの米ドル急落となったことから、損失を被った投資家もいたことでしょう。

この介入に対しては、「やっても効果がないのでやらないのではないか」との見方が多かったことから、予想外と受け止められたようでした。ただ、実は日本の通貨当局は、介入の実施を「予告」していた可能性があったのです。

9月上旬に、財務省と日銀、金融庁の三者会合が開かれました。この会合の後、為替介入政策の実質的な責任者である財務省の神田財務官は、「あらゆる措置を排除せず、為替市場において必要な対応を取る準備がある」などと述べたと報道されました。

ところでこの三者会合は、前回は6月に開かれていたのですが、この時は共同声明が発表され、その中には「各国通貨当局と緊密な意思疎通を図りつつ、必要な場合には適切な対応をとる」との文章がありました。また、会合終了後の神田財務官の発言は、「あらゆるものを含めて適切な対応をとる」というものでした。

この2つの神田財務官の発言はとてもよく似ていますが、細かく見ると「違い」があります。それは、6月には「適切な対応をとる」となっていたところが、9月は「為替市場において必要な対応を取る」といった具合に、「為替市場において」という表現が追加されたということです。同じ観点で6月の共同声明を見ても、「必要な場合には適切な対応をとる」となっており、「為替市場において」とはなっていません。「為替市場において必要な対応」とは、まさに為替市場介入のこと。

以上からすると、6月と9月の神田財務官の発言の違いは偶然ではなく、意図的なものだった可能性が高いでしょう。つまり、6月時点ではなかった関係者の間での介入を行うことへの合意が、9月には合意成立となったことから、それを暗に示唆したということでしょう。

いつ介入してもおかしくない段階だった

そもそも介入は、過去の経験からするといつあってもおかしくない段階に入っていた可能性がありました。足元の140円を大きく上回る米ドル高・円安は、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を3割程度も上回るものでした。今回のように、5年MAからのかい離率がプラスマイナス2割以上に拡大したケースは、財務省が為替介入実績を公表している1990年以降で4回ありましたが、そのうち3回は介入が行われていました(図表2参照)。

確かに、過去5年の平均値から一定期間内に2割以上もかい離する為替相場の動きは「急過ぎる」ものであり、企業などもそれに対して事業計画の修正で対応するのは大変でしょう。そういった観点で見ると、今回の介入は「急過ぎる」為替相場の変化に対して、これまでのパターン通りに対応したもので、むしろこれまでよりは遅かったとも言えそうです。

以上を整理すると、過去の経験から、「急過ぎる」円安の動きに対してはすでにいつ介入してもおかしくない段階となっており、それに対して9月に入り通貨当局がいよいよ決断したというのが、今回の事実関係だったのではないでしょうか。その意味では、今回の介入は、事実関係をある程度確認していたら、決して「予想外の介入」とはならなかったと思います。

米ドル売り介入の「メリット」

それにしても、最近にかけての米ドル高・円安は、米インフレ対策の利上げが主導しているものなので、日本の為替介入で止められるものではない。その意味では介入は無駄な行為だといった意見はあるようですが、これも本当でしょうか?

今回の米ドル売り介入は、日本の通貨当局がこれまで円高阻止の米ドルなど外貨買い介入で取得した分から使用されています。ところでそんな米ドルは、大半が120円以下、最安値では70円台で購入したものでした(図表3参照)。

その意味では、米ドル/円が140円まで上昇したことで、保有している米ドルなど外貨の含み益は巨額に拡大している可能性があるでしょう。ということは、米ドル売り介入は、含み益の実現化ということになりますから、無駄ということではないでしょう。


今回の私の説明はいかがでしたか? 「そんなの後講釈だ」という批判があるかもしれませんが、為替介入が行われる相場においては、ご紹介した情報が判断材料の一つになることはご理解いただけたのではないかと思います。今回うまく立ち回れず、為替取引で損失を被るといった「間違ってしまった人」も、ぜひ次の局面では参考にしていただければと思います。

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