<社説>中城湾港で共同訓練 民間地使用は許されない

 自衛隊が11月に米軍との共同統合演習で県管理の中城湾港を使用し、105ミリ砲を搭載した最新鋭の装輪装甲車「16式機動戦闘車」(MCV)や、敵のミサイルを迎撃する地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を県外から輸送する計画を立てたことが判明した。県内から反発が予想されることからMCVなどの輸送は断念する可能性もある。 日米共同訓練の最中に中城湾港を使う自衛隊の計画は、県内のあらゆる民間港を使えるようにする環境づくりの一環で、民間施設の利用が拡大する恐れがある。

 自衛隊による民間地での訓練は住民生活を脅かす。その上、台湾有事をにらんだ南西諸島での戦闘を想定した訓練は、中国を一層刺激し、沖縄本島が攻撃の標的にされる恐れを増す。住民にとって、そのような訓練は許されない。即刻計画を断念すべきだ。

 防衛省は2021年の演習でもMCVを中城湾港から県内に持ち込む計画を立てたが、反発を警戒して計画を変更し、MCVを含まない陸自車両約80台を搬入した。この年の自衛隊統合演習で石垣市の石垣港や与那国町の祖納港など民間港を使って県内の反発を招いた経緯がある。

 今回はMCVなどの輸送計画を断念した場合でも中城湾港を使う見通しで、民間チャーター船で県外から装備や人員を輸送する予定だ。

 MCVは県内に配備されていない。市街地での走行に適しているとされており、訓練は沖縄本島での地上戦を想定して素早く県外から運び込む体制を整えたい考えがあるとみられる。

 自衛隊は昨年の統合演習で初めて県内の民間港を使用したが、今回はさらに米側との共同訓練の一環に位置付けている。有事の日米共同対処の中でも民間港の使用が想定されているからだ。今回も訓練を実施し「実績」を重ねることで、自衛隊による民間港利用を既成事実化する狙いもあるとみられる。 

 自衛隊の「南西シフト」によって南西諸島の新たな要塞化が進んでいる。防衛省は16年に与那国島に陸自駐屯地と沿岸監視隊を創設、19年には宮古島と鹿児島県の奄美大島に駐屯地を開設した。今後も石垣島で整備中の陸自駐屯地を22年度に開設し、23年度をめどにうるま市の勝連分屯地に地対艦ミサイル部隊を配備する計画だ。

 今まで、種子島や奄美大島が南西シフト下での実戦演習の場だったが、沖縄本島や先島が演習場として本格的に位置付けられるようになった。

 その中で中城湾港を使用する訓練は、沖縄を戦場にする危機的状況が迫っている証しとみるべきである。台湾を巡る緊張が高まっている中、沖縄を再び戦場にさせない取り組みが一層求められる。自治体には住民の命や生活を守る責務がある。県や沖縄市などは訓練実施の断念を求めていくべきだ。

© 株式会社琉球新報社