「ジャズ・ギター」(1957年、パシフィック・ジャズ)「ドラムレス」で明快に 平戸祐介のJAZZ COMBO・19

「ジャズ・ギター」(1957年、パシフィック・ジャズ)

 長崎くんち奉納踊りが3年連続中止となり残念ですが、良い音楽に触れ実り多い秋にしていただきたいです。今回は心身共にリラックスできてBGMにも良し、鑑賞用としても良し-。そんな好盤を紹介します。
 ジャズ・ギタリスト、ジム・ホールの初リーダー作品「ジャズ・ギター」(1957年、パシフィック・ジャズ)です。この時代としては珍しくドラムレスの編成。西海岸ジャズの重要人物2人が参加しています。
 ピアノは左手に障害がありながら抜群の存在感をみせる名手カール・パーキンス。ベースは西海岸ジャズシーンで数々の名盤に名を刻むレッド・ミッチェル。気心知れた3人の、心温まるセッションが記録されています。スタンダード中心に凝ったアレンジもなく、実に明快なジャズを展開。身構えることなく聴けば、あなたの大切なコレクションの一枚になりうるのではないかと思います。
 非常にリラックスした音作りは、メンバーの関係性はもちろん「ドラムレス」の編成が大きく関わっています。1950年代に入るとドラムはジャズシーンで重要なポジションを担うようになります。リズムを支えるドラムがいないと表現は広がる一方、各アーティストの技量にかかる負担も増します。ホール自身、相当の覚悟でレコーディングに臨んだでしょうし、このアルバムが発表された価値や意義の大きさが推測できます。
 しかし当時若いながらも百戦錬磨の3人が、実に楽しみながら演奏している等身大の姿が捉えられています。ホールの初リーダー作品でありながら「控えめ」「静けさ」という彼の音楽性を決定づけた1枚としても聴き逃せません。60年代にますます輝きを放ち、サックスの巨人、ソニー・ロリンズ、ピアノの詩人、ビル・エヴァンスらとの共演で確固たる地位を確立しました。
 実は私がNYニュースクール大在学中、ホールが教授として在籍していました。直接教えを受けた訳ではありませんが、彼のアンサンブルの講義を受けたことは私の財産となりました。物腰が柔らかく、生徒にも丁寧。その姿勢が彼の音楽人生の礎にもなっていたのではと思います。「アーティストの真の音楽性はデビューアルバムにあり」。通説はあながち間違いではなく、人間愛も音楽に大切な要素だと改めて感じさせる1枚です。秋深まる季節、ホールの心温まるフレージングに耳を傾けてみませんか。(ジャズピアニスト・長崎市出身)

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