モンスターペアレンツで不眠症、病んでいく教諭…心の闇を描いた映画公開へ 忍耐が美徳?このままでは

映画「OUT ZONE」の場面シーン(提供)

 現代社会の闇を描いた映画「OUT ZONE」が14日から、埼玉県熊谷市のシネティアラ21で公開される。地元出身のピアニスト、増井めぐみさんが音楽を担当、同じく地元出身で、元劇団ニュースペーパーの桑山元さん(52)も熱演している。

 同作は、日常生活のさまざまなストレスにより精神を擦り減らしていく人々が、次第に心の闇に陥っていくさまを描いたサイコサスペンス。第42回モントリオール世界映画祭「WORLD GREATS」部門受賞。「函館港イルミナシオン映画祭」正式招待作品となっている。

 監督兼脚本家の菅乃廣さん(57)は福島県出身。前作で初めての監督作品となった「あいときぼうのまち」では、日本の原子力政策に翻弄(ほんろう)された出身地の4世代家族を通した人間ドラマが話題となった。

 「OUT ZONE」の冒頭は衝撃的なシーンから始まる。主人公の幼稚園教諭、千夏はモンスターペアレンツにより不眠症となり心を病んでいく。日常的にパワハラに合うサラリーマンは若年性認知症を患う母との葛藤も伴い「ノモフォビア」症候群となりスマホが手放せず、大罪を犯す。

 ほかにもアスペルガー症候群のコンビニ店員やミュンヒハウゼン症候群の主婦らの日常が描かれている。人間の心は簡単に壊れるガラス細工。まん延する不条理が人々の心をむしばんでいくさまが描かれている。「心が病気の人は二つの世界に生きている。妄想と結婚しているようなもの」というセリフが重く響く。

 昨年8月の日本財団の発表によると、13歳以上の2万人への調査で「4人に1人が自殺を考えたことがある」という。実際にあるたくさんの症例を基にしたという菅乃監督は「日本人は我慢に我慢を重ね、忍耐を美徳としているが、なぜそこまでするのか。ストレスをため込んでいく人が多く、このままでは日本の社会全体が病んでいく」と話す。

 キャリアコンサルタントの資格も持ちサラリーマン役を務めた桑山さんは、「この映画を見て自分と似ているなと感じたら、あるいは、症状を自負することで心の病の予防や進行を抑えることができる」と呼びかける。

 作品のためにピアノ協奏曲「U・NE・RI」を創作したという増井さん。「悲しみの中にも希望があるという、きれいごとでは済まない現実がある。そんな思いを込めた」と話す。作品冒頭とラストシーン、エンドロールに流れる美しく悲しみを含んだメロディーは見た人の心に響く。

 14~16日は上映後、菅乃監督、増井さん、桑山さんらによるトークショーが開かれる。

 上映時間の問い合わせは、シネティアラ21(電話048.599.2222)へ。

熊谷での映画公開をアピールする(左から)増井めぐみさん、菅乃廣監督、桑山元さん

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