<社説>平和賞に1氏2団体 「戦火終結」世界の意思だ

 今年のノーベル平和賞はウクライナ、ロシアの人権団体とベラルーシの人権活動家に贈られた。ロシアのウクライナ侵攻により、当事者ともいえる三国の関係者に授与されることは「戦火を止めねばならない」という世界の意思を具現化したといえる。 同時に強権的な政府による人権侵害や権力の乱用に対する強い警告でもある。平和賞を契機に、欧州の安定が取り戻されることを強く願う。

 平和賞を授与されるのは、ロシア侵攻後、戦争犯罪の記録に取り組むウクライナの「市民自由センター」(CCL)。プーチン大統領の強権体制に抵抗して人権活動を続け、解散させられたロシアの「メモリアル」。ベラルーシで人権団体の代表として、独裁的なルカシェンコ大統領に抵抗して民主化運動を展開するアレシ・ビャリャツキ氏だ。

 CCLの活動がなければ、ロシアがウクライナ侵攻後に起こした多数の民間人殺害は隠された可能性がある。証言を集め、映像や写真で事実を積み重ねる活動は戦地での人権侵害を明らかにした。戦争に大義はなく、犠牲を強いられるのは市民であるという事実を改めて示した。沖縄戦の教訓とも通じるものがある。

 メモリアルはスターリン時代に迫害された無実の人々の名誉回復を目的に、犠牲者の記録を残している。今年4月にロシア最高裁の命令で解散させられた。権力側に不都合な事実を継承することが、いかに困難かがうかがえる。

 今回のウクライナ侵攻で攻撃拠点となったベラルーシは「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ氏が28年も政権を握る。プーチン氏とも同盟関係にある。ビャリャツキ氏は当局から繰り返し嫌がらせを受けた。現在は脱税容疑をかけられ、無実を訴えたが拘束されている。

 今回の平和賞授与に対し、ロシアやベラルーシでは「政治的だ」という批判もあるという。だが間違いないのは、それぞれの国で市民の人権が制限され、危機的状況にあるということだ。さらに現在の欧州で問題となっている原点は、武力による変更や市民の抑圧といったプーチン、ルカシェンコ両氏の政治姿勢にこそある。

 平和賞に政治的意図はあるのか。ノルウェー・ノーベル賞委員会のレイスアンデルセン委員長は「政治権力を正しい方向に向かわせるために重要だ。権威主義国家が戦争に突き進むのを阻むことにつながる」と語る。そこにあるのは平和を希求する精神である。

 市民の権利を制限し、政権の意のままに操ろうとする体制は内部から崩壊する。動員令を忌避するため、数十万人が出国した現在のロシアがそうだ。一方で体制と闘う市民の後ろ盾は、共に平和を願う国際世論である。

 大義なき侵略を止め、市民の人権が回復されるまで、平和賞を支援や連帯をさらに深める契機としたい。

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