原田知世が歌う極上の映画主題歌「天国にいちばん近い島」作詞作曲は康珍化と林哲司!  ニューカレドニア観光局のブランドにもなった名作

原作は森村桂。1966年に出版された「天国にいちばん近い島」

「海をね、丸木舟を漕いで、ずうっとずうっと行くんだ。するとね、地球の、もう先っぽのところに、まっ白な、サンゴで出来た小さな島が一つあるんだよ。それは、神さまのいる天国から、いちばん近い島なんだ~」

―― この文は、今から56年前の1966年に作家の森村桂さんが書いた旅行記『天国にいちばん近い島』の冒頭の一節である。私がこの本に出会ったのは中学校の図書館で、1980年か81年だったと思う。

「天国にいちばん近い島って、一体どこだろう?」私はタイトルにひかれて手に取り、パラパラと頁をめくった。どうやらこの本は、子供の頃に父から聞いた冒頭の話を確かめようと20代の女性が外国の島を訪れた旅行記らしい。

結局、中学生の私はこの本を読まなかったが、冒頭の一節と、舞台が南太平洋のニューカレドニアということだけは、頭に刻まれた。

そして1984年。高校3年になった私は、意外な形でこのタイトルに再会する。原田知世が主演する角川映画と、その主題歌である。

監督は大林宣彦、主演は原田知世

この映画は、原田知世が扮する女子高生の桂木万里が、父親から聞いた「天国にいちばん近い島」を探しにニューカレドニアを旅する物語である。監督は『時をかける少女』を撮影した大林宣彦。原作とは設定が異なるが、主人公が島を探すという大筋は同じ。原作者の森村桂とおぼしきエッセイストも脇役で登場する(時間軸を合わせ20年ぶりに島を訪れるという設定に、原作へのリスペクトを感じる)。原田にとっては、前作『愛情物語』に続き3作目の主演映画だ。

中学の時に読み損ねた旅行記の映画化、ニューカレドニアでのロケ、しかも主演は(世間的にも個人的にも)人気が過熱していた原田知世。普通なら速攻で観に行くはずだが、大学受験を目前に控えた高3の私にその余裕はなく、数年後にレンタルビデオでやっと視聴した。

それから30年以上が経ち、映画の記憶も薄れたが、原田知世が歌う主題歌だけは別。高3で出会って以来、美しいメロディーに今も魅了されている。

ヒットメーカー林哲司が紡ぐ同名主題歌

原田知世6枚目のシングル「天国にいちばん近い島」は、映画公開より2カ月以上早い1984年の10月10日に発売された。作詞・作曲は康珍化と林哲司の両氏。言わずと知れた80年代歌謡のヒットメーカーで、この年も中森明菜の「北ウイング」、杉山清貴&オメガトライブ「気のハートはマリンブルー」をヒットさせていた。知世の前作「愛情物語」も彼らの作品で、CBSソニー(当時)の吉田格ディレクターによれば、当時、映画主題歌の作詞・作曲家は角川側が決めていたらしい。

その吉田氏は、ソニー内では絶対的存在だったと言われる萩田光雄氏に、編曲を依頼。豪華布陣による「天国にいちばん近い島」は、アイドル歌謡の中でもメロディーの美しさが際立つ一曲となった。

萩田氏らしい南国風で優しいギターのイントロから入り、Cメジャーから入るAメロ、高音から低音へと大きく触れるBメロ、そしてサビでは短調へ転調し、林氏が得意とする哀愁漂う “泣きのメロディー” が奏でられる。サビの歌詞を引用する。

 Love 平凡な Love ささやきが
 あなたのくちびる 宝石に変える
 Love Let's Stay Together
 Love だれよりも
 天国にあなたいちばん近い島

康氏の詞に林氏のメロディーが載ると、日本から遠く離れた南国の島の風景が目に浮かぶ。宝石、自分だけの神さま、星が降る、といった言葉も、メロディーと調和して切なさをかきたてる。特に ”宝石に変える” の半音下がる部分(ソの#)が絶品で、何度聴いても胸をうたれる。

萩田氏は林氏が作る曲を「明るい部分と哀愁メロディーが混在していて、泣きのメロディが必ず入り、そこがグッとくる」と評しているが、これはその典型。林氏も「アイドルに提供した曲中で優れたものの一つ」と自賛していたとか。天国にいちばん近い島を想像して作曲するうちに、天国からこぼれ出るようにメロディーが生まれたのかもしれない。原田知世の透明で少したどたどしい歌声も、曲の世界にハマっている。

ニューカレドニア観光局の新ブランドに!時代を超えて語り継がれる作品

この「天国にいちばん近い島」は、オリコンで初登場1位を記録する。大ヒットした「時をかける少女」も2位止まりだったので、知世にとっては初の首位。そして、唯一の首位獲得曲となった。

一方で映画は、海外旅行が一般化した昭和50年代後半の日本人に、ニューカレドニア=天国にいちばん近い島―― という印象を植え付けた。そして、多くの日本人が新婚旅行や観光でこの島を訪れ、ブームを巻き起こす。

それから35年後の2019年、ニューカレドニア観光局は「天国に一番近い島 ニューカレドニア」という新ブランドを発表。再びこのタイトルが脚光を浴びた。それを知った私は原作を読み、映画を観返した。そして、天国にいちばん近い島はニューカレドニア本島ではない事実に驚き、表現上の問題で原作が絶版になっていることに、さらに驚いた。

それにしても、56年前に出版された旅行記が映画になり、美しい主題歌を生み、観光用のブランドになったことに、“時代を超えた言葉の力” を感じる。私もいつか(天国に行く前に)天国にいちばん近い島に行き、星が降る砂浜に寝転びながら、極上のこの歌を聴いてみたい。

参考文献
ヒットソングを創った男たち~歌謡曲黄金時代の仕掛人 / 濱口英樹(シンコーミュージック 2018年)
ヒット曲の料理人 編曲家・萩田光雄の時代 / ・萩田光雄(リットーミュージック 2018年)

※2021年11月28日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 松林建

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