カネミ油症事件発覚54年 「活動の原動力は五島」 支援センター設立20年、続くサポート

次世代被害者の調査資料を手に山本博司厚労副大臣(当時、右から3人目)と面談するYSCメンバーら=2020年12月3日、厚労省(YSC提供)

 カネミ油症事件の発覚から10日で54年。市民グループのカネミ油症被害者支援センター(東京、YSC)は、長崎県などに多い被害者の救済に尽力してきた。2002年の設立から20年。「活動の原点は五島」と代表者は語る。子や孫ら次世代の救済など課題が残る事件の被害者に、今も寄り添いながらサポートを続ける。

 東京の市民団体「止めよう!ダイオキシン汚染 関東ネットワーク(関東ネット)」などが設立母体。油症の主因がダイオキシン類と分かってきたことから、油症事件の全面解決などを国に求めていく方針でYSCを立ち上げた。
 「活動の原動力は五島」。共同代表の一人、大久保貞利さん(73)=千葉県=は強調する。関東ネット時代の00年、油症被害の実態を調べる自主検診のため、水俣病研究の第一人者で医師の原田正純氏(故人)らと五島市を訪れた時のこと。
 「何でいまさら来たんだ。見せ物じゃない」。ある住家で高齢男性に激しく怒鳴られ、追い出された。男性の妻は「主人を許してください」と泣いてわびた。男性は元々、丈夫な体で働いていたが、カネミ油を摂取後は病気で苦しんできたという。妻も被害者で、肌が色素沈着した「黒い赤ちゃん」を出産していた。国などの責任を訴えた一連の民事訴訟は既に終結していたが、原告の被害者たちは国からいったんは支払われた仮払金の返還を迫られていた。中には自殺する人も。高齢男性については、苦労して全額を返還した後だった。
 国が被害者を追い詰めていた。「強烈なパンチを食らった気分だった」と大久保さん。その後、五島市などの被害者団体と一緒に与野党の国会議員の協力を取り付けるなど奔走。07年に返還免除特例法が成立した。
 12年、被害者救済法が成立。同居認定の導入など一定の救済にこぎ着けた。20年には、被害者の協力を得て次世代へのYSC独自の健康実態調査を実施。同年12月、当時の厚生労働副大臣に次世代の実態把握を求め翌21年、全国油症治療研究班(事務局・九州大)の本格的な調査が始まった。
 カネミ油症被害者五島市の会会長の旭梶山英臣さん(71)は「YSCの独自調査で(次世代被害が見えてきて)、研究班の調査につながった。被害者救済の重要な役割を果たしている」とする。
 事件発覚当初、全国で被害を届け出たのは約1万4千人だが、油症認定は2363人(3月末)。今なお未認定問題、支援策の拡充など課題は多い。大久保さんは「やることはまだたくさんある。新たなメンバーも加えながら地道に支援を続けていく」と語る。


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