「思想教育で離婚を撲滅せよ」という北朝鮮の的はずれな政策

北朝鮮では、地方を中心に労働力不足が深刻化していると伝えられている。具体的な数字は一切公表されないので、その深刻度を正確に測ることはできないが、国営の朝鮮中央通信は今年8月、「これまでの1年間、全国的に5300人余りの青年たちが炭田と田野、島の村の分校などに志願」したと報じている。いわゆる「嘆願事業」で、名目上は嘆願ながら、実際は半強制だ。

だが、定着率は必ずしも高いとは言えないようで、送り込まれた先から若者が次々に逃げ出していると報じられている。

労働力不足のそもそもの原因は、貧困から抜け出すために農村や炭鉱から逃げ出す人が増えていることと、晩婚化、非婚化、少子化、それに離婚する夫婦の増加だ。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、最近は離婚が急増し、昨年比で3倍になったと伝えている。金正恩総書記は今年3月、「離婚する者は社会の混乱を招き、社会主義生活様式に反する者とみなせ」と指摘したと伝えられている。

離婚を社会悪と考える北朝鮮当局は、件数を減らそうとあらゆる手を尽くしているものの、さほど効果はないようだ。当局は、思想教育で離婚を防ごうとしているが、北朝鮮国民からは嘲笑されている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、最近、離婚する夫婦が増え続けている現象と関連し、朝鮮労働党中央委員会から、離婚件数を減らすための内部指示文が党組織、行政、司法機関に下されたと報じた。その内容とは、住民教養と思想闘争を強化せよというものだ。また、離婚は社会主義制度の優越性を乱す行為として、離婚をなくすために党と行政が総力を集中させよとしている。

具体的には党組織、勤労団体、裁判所が、離婚を申し立てた夫婦から具体的な状況を聞き出し、教養事業(思想教育)を行った上で、婚姻を維持するように積極的に指導せよというものだ。

例えば、朝鮮社会主義女性同盟(女盟)は、離婚を申し立てた女性に「女性は母として、また妻として、自らの本分を尽くし、家庭と社会に対して道徳的義務と責任を果たさなければならない」と教育せよといった具合だ。

両江道(リャンガンド)の情報筋も、現地に同様の指示が下されたと伝え、「離婚する現象を徹底的になくし、社会の細胞である家庭を仲睦まじいものにしよう」という解説談話資料と各機関、企業所、司法機関、洞事務所(末端の行政機関)、人民班(町内会)に配布し、それに基づいた講演を行っている。

「明確な理由もなく、漠然とした口実」で離婚を申し立てる者には、組織別に生活総和と思想闘争を行うよう指示を下した。つまり、吊し上げにせよということだ。また、離婚する人を出した地域、機関の責任者は、連帯責任を取らせるとの内容も含まれている。

情報筋は「多くの人は、生活が苦しいから離婚するのだ」として、的はずれな当局の離婚対策を批判している。

当局は昨年、離婚を申し立てたある男性に対して、6カ月の労働鍛錬刑(懲役刑)を下すという厳しい処分を行っている。それ以外にも、離婚を防ぐために様々な施策が取られているが、すべて裏目に出る結果となっている。

離婚が難しいからという理由で、結婚しない若いカップルが増えているのだ。また、生活苦でマイホームが手に入れられないというのも、結婚しない理由になっている。

北朝鮮当局は「男性は産業や国防の現場を守り、女性は家庭を守る」という旧態依然とした家族観を捨てきれずにいるが、女性が市場で商売をして現金収入を得て、家族を食べさせ、男性はろくに給料ももらえない職場に出勤を余儀なくされるのが実情だ。

北朝鮮の現実は、ジェンダー平等には程遠いが、「社会主義的に望ましい家庭」から「市場主義に適応した家庭」の方が、女性の地位が高いというのは、当局の家族観が時代についていけていないことを示している。

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