「BSL4早期稼働目指す」 長崎大感染症研究出島特区長 森田教授に聞く

「BSL4の早期稼働を目指す」と語る森田特区長=長崎大坂本キャンパス

 長崎大は本年度、国産ワクチン開発を目指す組織「感染症研究出島特区」と、「バイオセーフティーレベル(BSL)4」施設を備えた高度感染症研究センターを始動した。特区長の森田公一教授に、取り組みについて聞いた。

 -特区とセンターの意義は。
 BSL4は感染症研究拠点となるために不可欠。稼働により、あらゆる病原体に対応できる日本唯一の場となる。特区はセンターなど5部局の研究者百数十人を中心に横につなぐ組織。感染症流行の有事には迅速にワクチン開発に当たる。
 8月、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のワクチン開発シナジー拠点に採択された。公募の予算規模は5年間で上限38億円。金額はまだ明らかにできないが、研究費が減らされつつある中で、安定した予算が付き研究できるのはありがたい。

 -新型コロナウイルスのような感染症の流行は今後も起こり得るか。
 起こり得る。ここ20年をみても、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)など新しい感染症が出てきては世界に影響を与えた。次はBSL4が必要な病原体が流行するかもしれない。

 -完成したBSL4の現状は。
 試運転の段階。研究者が専用の防護服を着て訓練しつつ、マニュアル作りに取り組んでいる。未経験の研究者なら最低1~2年かかる。厚生労働省の審査を受け、一種病原体の保有許可をもらう必要もあり、すぐ稼働できるわけではない。早期稼働を目指しているが、時期の明言は難しい。

 -BSL4では危険な病原体を扱う。生物兵器の研究と紙一重ではないか。
 その通り。(民生、軍事の両面で利用可能な)デュアルユース技術の問題は科学界で長く議論されてきた。悪意のある人が困った行動をしないよう監視する研究手順やシステムが大事で、今は規則を整備中だ。本学では軍事研究はしないと学長が宣言している。

 -真理を探究する学問の府である大学が、国策に組み込まれてその一部を担うのは好ましいといえるか。
 ワクチン開発は国が求めているのではなく国民が求めている。税金を使い研究しているのだから社会貢献は必要。ヘルスに関する分野は工学系や法律の分野とは異なり(国の意に添う)“御用研究”という批判の対象にはなりづらいと思う。

 -BSL4建設に異議を唱える地域住民とのやりとりは10年余り続いた。そこから大学が学んだことは。
 地域とコミュニケーションする新たな文化が大学に根付いた。最初は大学と住民がお互い言いたいことを言うだけだったが、地域連絡協議会を重ねる過程で聞く姿勢が深まっていった。BSL4は造って終わりではない。これからもコミュニケーションは続く。


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