吉野北人の“詩心”を秘めた演技に注目!『HiGH&LOW THE WORST X』でも存在感を放つシルキーヴォイス

『HiGH&LOW THE WORST X』©2022「HiGH&LOW THE WORST X」製作委員会 ©髙橋ヒロシ(秋田書店) HI-AX

『ハイロー』最新作から吉野北人を掘り下げる

LDH(EXILE TRIBE)が、グループ全体で日本のエンターテイメント最大のシネマティック・ユニヴァースを形成する『HiGH&LOW』シリーズ(2015年~、以下『ハイロー』)。これまで数々のクロスオーヴァー作品を生み出してきた同シリーズに、髙橋ヒロシの人気漫画「クローズ」「WORST」とコラボした映画『HiGH&LOW THE WORST X』が全国公開中だ。

劇場版としては『HiGH&LOW THE WORST』(2019年)の続編にあたり、SWORD地区での新たな覇権争いを描く本作。鬼邪高校の頭・花岡楓士雄(川村壱馬)の前に、極悪強豪校・瀬ノ門工業高校が仕切る三校連合の脅威が立ちはだかる。

瀬ノ門の頭・天下井公平を演じる<BE:FIRST>の三山凌輝の他、天下井の右腕・須嵜亮役に<NCT 127>の中本悠太など豪華な若手陣が揃うが、本作でも楓士雄と兄弟分の絆を確かめ合う“高城司”の存在から目が離せない。

そこで、THE RAMPAGE from EXILE TRIBE(以下、THE RAMPAGE)のリードヴォーカルである吉野北人が扮する高城司について、前作を振り返りながら人情味あふれるそのキャラクター性を紐解きたい。

『THE WORST』のはじまりを告げたモノローグ

「いつからだろう。誰に言われるわけでもなく、無理という二文字だけで、自分の限界を勝手に決めてしまうようになったのは。そう、限界なんて自分の頭の中にしかないんだよ」

白昼に降り注ぐ雨の中、『THE WORST』の物語は、こんなモノローグから始まった(『HiGH&LOW THE WORST EPISODE.0』[2019年])。筋金入りの不良たちが集う鬼邪高校では、SWORD地区を代表するワルになろうと、若武者たちがしのぎを削っている。全日制と定時制を合わせるとSWORD地区最大勢力ながら、彼らが共闘することはなく、ほとんどシヴィルウォー的な状況だ。そのぶん、そこには誰もが頭を張るに十分な逸材というか、ツワモノたちがひしめいている。

冒頭のモノローグの語り手であり、鬼邪高・全日制のダークホース的な存在、高城司(吉野北人)もそのひとり。彼は屋上を陣地にして、黒いソファにどっかりと座るのが基本スタイルだ。太陽の光を受け、眉間が眩しい。右手は背もたれにだらりと伸びる。こんなふてぶてしい彼が、心の中ではあんな自問自答を繰り広げているのだから驚きだが、しかしその自問自答は、彼の兄弟分である花岡楓士雄への拳で解決(自己完結)されることになるのだが。

可愛らしさと仁義を持ち合わせたキャラクター性

だがこの高城司という人物、ただふてぶてしいだけではない。彼はヤクザ映画さながらの義侠心をモットーに生きている。義侠心には、義理と人情がある。身内の一派を命がけで守り筋を通す義理と、兄弟に情けをかけようとする人情。特に人情に厚い司は、頭を張るにはその優しさが足を引っ張ることになる。

そんな司を演じるのが、シルキーヴォイスで知られる吉野北人なのだから、このキャラクターにはさらに化学反応が生じる。吉野の王道とも言える“王子様”的ビジュアルには、敵もつい油断してしまうかもしれない。吉野が義侠心のある強面を演じることにそもそも無理があるとかは別として、ここでは強面ではなく、あえて彼が持つ可愛さを滲ませることでキャラクターに破綻はなく、活き活きと躍動する。つまり、可愛さらしと仁義を持ち合わせたところに、高城司の特筆すべきキャラクター性があるのだ。

シルキーヴォイスを持つ吉野の“詩心”を秘めた演技フロー

可愛さと仁義を持ち合わせていると言っても、それを実際に演技として両立させることは難しいだろう。そこで吉野が演技のギミックに活用するのが、THE RAMPAGEのリードヴォーカルとしてのシンガー的な振る舞いである。例えば、彼の演技の間合い。屋上で意を決する瞬間の眼力など、合間合間でブレスして、息を長く、感情をコントロールしながら演じているように見える。

彼はが眉間に皺をきつく寄せれば、その後に発せられる台詞も緊張感と凄みを帯びる。シルキーヴォイスと称される彼の声色が、歌詞の言葉を噛みしめ、メロディの中に配置されるように『ハイロー』シリーズにおける吉野北人の演技にもまた同じようなフローがある。

作中で「眠れる獅子」の異名を取る司は、こうした“詩心”を内に秘めている。歌手であり、俳優でもある吉野がそれを演じるから、司のエモーションがすごく詩的に発散されることになる。様々なキャラクターがひしめく中で唯一、詩心を持った司にしか、あの印象的なモノローグは残すことは出来なかったのだ。

純白のタンクトップの汚れと額の絆創膏が何よりの勲章

さて、ここまではあくまで前作までの話題だったが、ではシリーズ最新作『HiGH&LOW THE WORST X』での吉野=司は、スクリーンにどう映るのか。LDH・シネマティック・ユニヴァースとも言える本シリーズの自由な世界観の中では、LDH所属アーティストそれぞれが輝ける場所が配役されている。THE RAMPAGEのリードヴォーカルを分け合う川村が主演ではあるが、吉野の見せ場は十分光る。河川敷などの大乱闘場面では、さすがの存在感だ。

最強番長・ラオウ(三上ヘンリー大智)が率いる鈴蘭男子高校を訪ねるシーンでは、強豪校の生徒たちを相手に多勢に無勢でひとはしゃぎする楓士雄に対して、無駄な戦いを好まない司のスマートな調査方法が清々しい。ラオウに次ぐ鈴蘭ナンバー2、マーシー(時任勇気)のアパートに押しかけて聞き込みする司が、ドアの隙間に静かに佇んで顔を覗かせる表情! 楓士雄の暑苦しい逞しさより、ここは司のクールな凛々しさに軍配を上げたい。

学年が上がり身体もひと回り大きくなっている司は、一戦繰り広げて敵を一網打尽にすると、「だりーな」なんて余裕の言葉まで発するようにもなった。冒頭で引用したモノローグの華奢な印象が嘘のようだが、天下井を頭とする瀬ノ門の連中に連れ去られた司を救出するために、鬼邪高全体が結束するのは、義理と人情の秤が、司が重んじる人情の方にぐっと傾いたからだろう。

司が着る純白のタンクトップの汚れと額の絆創膏は何よりの勲章であり、またそれは、雨の中、泥だらけになりながら楓士雄と拳を付き合わせたあのモノローグの記憶に遡るように、自然と帰結していくのだ。

文:加賀谷健

『HiGH&LOW THE WORST X』は全国公開中

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