「スマート畜産」に先鞭 豚の咳で異変可視化 厚木・養豚農家がシステム導入、生産性向上に期待 

天井の梁(はり)からつるされ、咳音をモニタリングし赤黄緑で異変を示す「サウンドトークス」(臼井農産提供)

 工場やハウスで日照や温度などを制御して野菜などを育てるスマート農業が盛んになる中、養豚を手がける臼井農産(厚木市飯山)がスマート畜産に先鞭(せんべん)をつけている。豚の咳(せき)数を検知して呼吸器系の異変を可視化する欧州発のシステムを導入、検証を始めた。赤黄緑のランプを遠隔で監視しデータ化もできることから、豚舎の出入りを減らせ感染症対策にも有効という。臼井欽一社長(59)は、生産性の向上に期待を寄せている。

 きっかけは、数年前に他県で豚などが盗まれる被害を知り、監視カメラを導入するのに併せて、豚舎の中の豚の状態もモニタリングできないかと思ったことだった。その際、接点のあったNTT東日本神奈川事業部(横浜市中区)から、音によるモニタリングシステムを紹介されたという。

 ドイツの大手製薬会社傘下の日本法人べーリンガーインゲルハイム・アニマルヘルス・ジャパン(東京都)が手がける、「サウンドトークス」と呼ばれるシステム。日本での先駆けとして、同社やNTTがサポートして運用を開始した。

 豚舎の中は豚の鳴き声や給餌機のモーター音などさまざまな音が交錯するが、そうした音を検知し、咳の回数のほか、温湿度なども併せて人工知能(AI)で解析して呼吸器の状態を可視化。ランプの点灯をカメラを使い遠隔のパソコンやスマートフォン上で目視できるほか、24時間のデータをグラフ化して見ることが可能。すでに15カ国で販売実績があるという。

 臼井農産は昨年11月、15棟の豚舎のうち、外気とカーテンで仕切る開放型豚舎2棟に8台を設置。最も重要な離乳舎1棟には8月、5台の導入にこぎ着けた。

 離乳して間もない子豚は体温調節がうまくできず、風邪などにかかりやすい。このため空調を制御できる密閉型豚舎で育てるが、壁や窓で仕切られており、通信環境の確保が困難だった。

 ただし、密閉型豚舎でも異変を察知できれば、不調に見える子豚を隔離したり、獣医師に診てもらったりして、予防や早期発見・早期治療につなげられる。病気によって発育が遅れ、肉質が落ちて出荷できなくなることも避けられるのだ。

 同社の場合、離乳舎が事務所から70メートル以上離れている点も課題として浮上。解決に向け、北海道で実績のあるNTTグループのビオストック社も大きな役割を果たしたという。

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