<社説>介護保険の見直し 負担増は理解得られない

 3年に1度の介護保険制度の見直しに向けて政府の議論が始まった。利用者の自己負担増が焦点だ。前回は見送られた原則2割負担が採用されれば県内での影響は甚大で、関係者からは「受診控えが増加する」と懸念が噴出する。負担増は見送るべきだ。 介護保険制度は2000年の発足以来、自己負担は原則1割。ただ「高所得者には相応の負担を」との考えに基づき、15年からは一部を2割に。18年からは現役並みに所得のある人は3割となった。

 財務省は1割負担対象の一部を2割に引き上げることや、原則2割とするよう提言。19年の前回見直しの際にも議論されたが、生活への深刻な影響があるとして見送られた経緯がある。

 今回はケアプラン作成に利用者負担を導入することや要介護1、2の生活援助サービスを市町村に移行する案も取りざたされる。要介護認定を受けている人のうち1割負担が90%以上を占め、影響は多大だ。

 物価高騰の中、食品などの値上げも相次ぎ、電気料金の値上げも見込まれる。24年度以降に向けた議論であるとはいえ、介護サービスの自己負担を増やす状況にはない。

 医療費も当事者負担が増している。一定の所得がある75歳以上については10月、窓口負担が1割から2割に引き上げられた。単身世帯で年金を含む年収が200万円(夫婦世帯は320万円)以上の約370万人が対象だ。

 決して余裕があるとは言えない世帯も含まれる。負担を抑える経過措置も25年中までの時限措置だ。狙いは現役世代の負担軽減だが、効果には疑問符が付く。今回の窓口負担増による軽減効果は現役世代1人当たり年800円程度にとどまる。

 介護費用は高齢化の進展で年々増加し、20年度は10兆7783億円だった。制度維持について議論は必要だ。ただ、財源を含め国民の理解があってのことである。

 物価高で生活が苦しく、給与は伸び悩む。一方で、国の21年度の税収は前年度比で約10%増の67兆379億円。2年連続の過去最高だ。輸出好調などを背景に法人税収が増えたことなどがある。

 さらに政府は防衛費の大幅増を打ち出す。過去最大の5兆5947億円の概算要求には金額を明示しない事項要求が多数あり、最終的には7兆円を超えるとの指摘もある。23年度からの5年間総額を40兆円超とし、最終年度は本年度の2倍の10兆円を見込む。

 こちらは必要性や実効性についての議論は深まらないまま、抑止力の名の下に大幅増ありきである。「つなぎ国債」で賄うというが、そうなれば増税が前提だ。

 税収が過去最高となっても歳出の半分も賄えない国家財政の健全化に向けた方策や、増える一方の社会保障について、その将来像を示すことこそ必要だ。

© 株式会社琉球新報社