マドンナ初来日公演!後楽園球場の「フーズ・ザット・ガール」ツアーから35年!  主演映画サントラも大人気!ナマで聴いて実感したボーカリストとしての凄み

マドンナは、今もマドンナ

マドンナの初来日から35年も経ったなんて、にわかには信じられない。そのような事実を突きつけられると、歳取るわけだなあ…… と思う秋の夜。

歳をとることを “劣化” と表現するのは好きではないが、あれから35年を経た自分の姿を鏡で見ると、「あー、確かに劣化だなあ……」と枯れた気分になったりする。今のマドンナの画像を観ると、速度は遅いが劣化していないとは言い難い。しかし、決して枯れていない。マドンナは、今もマドンナだ。

35年前の1987年、大学生なら猫も杓子も村上春樹の小説を読んでいた時期。肌もピチピチで、髪の毛もフサフサだった大学2年のマナブはUKロックにドはまりしていた。が、それでもマドンナを無視できなくなったのは、当時つきあっていた女子がマドンナのファンだったから。

主演映画サントラ「フーズ・ザット・ガール」に併せたワールドツアー

1983年にアルバム『バーニング・アップ』で日本デビューを果たしたマドンナは翌84年の『ライク・ア・ヴァージン』で大ブレイクを果たし、86年の『トゥルー・ブルー』も売れに売れて、マイケル・ジャクソンに引けをとらないスーパースターとなっていた。87年にはマイケル・ジャクソンも来日公演を果たしたが、この2大アーティストの相次ぐ来日公演をメディアは “MM旋風” と呼び、盛り上げていた。

マイケルの来日は9月だったが、マドンナはそれに先立つ6月。主演映画のサントラ『フーズ・ザット・ガール』のリリースに併せてのワールドツアーだ。後楽園球場での3回公演。正直あまり興味はなかったし、「ふーん」と受け流す程度に硬派ではあったが、彼女に「行きたいなあ」と言われると、「いいね、行こうか」と言ってしまうほどに軟派でもあった。

「行こうか」と言ったはいいが、なにしろスーパースターの初来日公演だ。チケットの争奪戦は避けられない。呼び屋がウドーなら徹夜して整理券を取れば、なんとかなる…… くらいの知恵はついていたが、プロモーターは違うところだった。はっきりとは覚えていないが、キョードー東京だったような……。

いずれにしても、このときのチケット発売は、ちょっと特殊だった。というのも抽選制で、当選者のみが買える…… というシステム。まあ、当たれば彼女も喜ぶし、ハズレたらハズレたで貧乏学生の生活費に余裕ができる。とりあえず応募だけでもしてみよう。

凄まじいショーマン、マドンナ

そして運良く当選したが、当日、水道橋の駅から人波に流されつつ後楽園球場に行ってみると、席は三塁側・上段のかぎりなく外野寄り。バックスクリーン前方にステージが置かれているので、ステージをほぼ真横から見ることになった。その手前にはPAらしきものが詰まれているので、マドンナ様の御姿を見られるのは、ステージ前方に姿を現わした時のみ。「ヒデえ席だなあ……」と思ったものの、それでも同行した彼女は高揚している様子で、ひと安心。

で、肝心のライブはというと、これが予想以上に楽しかった。まず、プレイされる楽曲はほぼほぼUSトップ40にチャートインした曲なので、聴いたことのある曲が多い。オープニングの「オープン・ユア・ハート」から本編最後の「イントゥ・ザ・グルーヴ」、アンコールの「フーズ・ザット・ガール」まで「あー、これ、あの曲だ」と思いながら聴き入ってしまった。

「リヴ・トゥ・テル」のような落ち着いた曲ではボーカリストとしての凄みを感じた。隣の席の彼女を目で追うと、ちょっと涙ぐんでいるように見えた。それはともかくも頻繁にステージ前方に出てきてはオーディエンスをあおるパフォーマンスを含めて、マドンナは凄まじくショーマンであった。

10月31日、主演映画が日本で劇場公開

夏が過ぎて秋になり、相変わらず貧乏学生だったマナブは下高井戸の学生街にあるレンタルビデオ店でバイトの仕事にありついた。マドンナのこのときの来日公演は日本でVHSソフト化され、この店にも置いてあった。シフトは夜だったので、ビデオを借りに来るお客様は、週末以外はほとんどいない。店内のモニターで、このビデオを流しっぱなしにして、ぼーっと眺めている。それが日課となったが、「リヴ・トゥ・テル」が流れると、ちょっと切なくなる。

同年10月31日、アメリカから遅れること3か月弱、映画『フーズ・ザット・ガール』が日本でも公開された。マナブは渋谷の東急文化会館にある映画館で、ひとりでこれを観た。4か月前に一緒にライブを見た彼女とは夏に別れた。映画で「あの娘はだれ?」というマドンナの歌声を聴くと、条件反射的に切なくなってしまった。

35年経った今、当時の彼女がどこで何をしているのかは、わからない。後楽園球場も今はなくなり、跡地には東京ドームがどーんと構えている。渋谷の東急文化会館もなくなったし、あの頃バイトしていたレンタルビデオ店ももちろん今は存在していない。時とともに、さまざまなものが消えていくが、消えない記憶もある。枯れない何かが心の中にある。

生きるとは、つまりそういうことだ…… と村上春樹風に締めてみましょうか。

カタリベ: ソウママナブ

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