秋葉原無差別殺傷、死刑執行された加藤智大元死刑囚が最後に残した絵とは 死刑囚16人の作品を展示した表現展、東京で14~16日開催

加藤智大元死刑囚が描いた絵の一部分

 死刑囚が描いた絵画などを展示する「死刑囚表現展 2022」が14~16日、東京都中央区の松本治一郎記念会館で開かれている。7月26日に死刑を執行された東京・秋葉原無差別殺傷事件(2008年)の加藤智大元死刑囚や、2016年に相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が死傷した事件の植松聖死刑囚ら、16人の絵画と文章作品計約250点を展示する。
 作品を通して、死刑囚の心境やどんな人間なのかを垣間見ることができるかもしれない。(共同通信編集委員=竹田昌弘)

 ▽「抑止力としても、懲罰としても死刑は虚(むな)しい」
 加藤元死刑囚の絵画は計81点。作品と一緒に事務局へ届いた手紙によると、総合タイトルとして「画面内外における情報の量および質がヌードの猥褻(わいせつ)性に与える影響に関する断片的な実験あるいは色鉛筆の代替品として導入されたカラーシャープでも自由な表現は不可能ではない事実の証明」と書かれ、それぞれの作品には小題、概要などが記されている。
 総合タイトルの中にある「色鉛筆の代替品として導入されたカラーシャープ」は、法務省の訓令が変更され、昨年2月から刑事施設で色鉛筆と鉛筆削りを購入できず、代わりにカラーのシャープペンシルを使っていることを指している。

加藤智大元死刑囚が描いた絵の一部分

 全体として裸の女性を描いた絵が多い。このうち、手錠姿の女性がフェイドアウトし、右側に「ありがとう」という小さな文字が記載されている絵が最後の作品と位置づけられている。死刑の執行を予感していたのではなく、今回応募した最後の作品なので、こうした内容にしたとみられる。
 「たった47秒でわかる秋葉原事件」という概要が付けられた作品では、問いに答えて進む形式で、事件を起こすまでの心の動きを書いている。
 手紙の中では絵画の制作動機について、こんなことをつづっている。「社会から隔絶されている現状では、死刑囚表現展への応募は唯一の『生きる意味』であるという重要な動機が、大前提です。表現する機会を与えていただけることに深く感謝します」「私は『抑止力としても懲罰としても、死刑は虚(むな)しい』ということを表現したいと考えています」

 

植松聖死刑囚の絵

 ▽再審への思いを詠む文章作品も
 植松死刑囚の絵画は2点。うち「覚悟」とタイトルが付けられた作品は色鮮やかで、頭蓋骨が爆発したような絵柄の中に「PEACE WORKER」の文字が見える。
 堀慶末死刑囚は、海の風景を描いた「島影」など絵画11点を応募した。堀死刑囚2007年、いわゆる闇サイトで知り合った男たちと名古屋市の女性会社員を殺害したとして無期懲役となり、その後に愛知県碧南市の夫婦が殺された強盗殺人事件(1998年)で死刑が確定している。

堀慶末死刑囚の絵

 東京都多摩市のパチンコ店で従業員3人が刺殺され、売上金を奪われた強盗殺人事件(1992年)の何力死刑囚(中国籍)は、石油缶の中に「法無省」の看板が沈んでいく絵の両側に「われら外人の苦情無視するばかり」などと書かれた「法無省」など絵画3点が展示される。

何力死刑囚の絵

 

井上孝紘死刑囚の作品

 福岡県大牟田市の母子ら4人殺害事件(2004年)の井上孝紘死刑囚が寄せた「鯉幟(こいのぼり) 太郎節句」は、絵が書かれた封筒を事務局で貼り合わせて完成する作品だった。

 1993年の埼玉愛犬家ら連続殺人事件で死刑が確定し、再審請求を続けている風間博子死刑囚は「獄の風 春夏秋冬 28句プラス(6枚) 2021年夏から2022年春」と題する文章作品で「待春やため息すらも吸ひこんで」「焦燥に焼き焦がされつ獄に生く」と再審への思いを詠んでいる。
 後ろ手に縛られたり、足かせを付けられたりしている場面と地球、月が描かれた「弐〇弐弐の壱」など絵画も3点ある。
 

 

金川一死刑囚の絵

 同様に再審請求中の金川一死刑囚は「猫を絵にしたハリ絵ふう」など絵画4点を送ってきた。熊本県免田町(現あさぎり町)で1979年、女性が殺害された事件で死刑が確定したが、無実を訴えている。

 

 ▽2005年から開催
 死刑囚表現展は2005年から続いている。連続企業爆破事件で死刑が確定した大道寺将司元死刑囚(2017年に病死)の母で、死刑廃止運動に取り組んだ幸子さんが2004年5月に亡くなり、残したお金を表現展の開催などに使うことに。島田事件で死刑とされ、再審で無罪が確定した赤堀政夫さんからも2014年に資金の提供があり、現在の主催は「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」となっている。
 

風間博子死刑囚の絵

 「死刑囚表現展 2022」は14日午後1~7時、15日午前11時~午後6時、16日午前11時~午後5時。松本治一郎記念会館会場は東京都中央区入船1―7―1。5階の会議室が会場となっている。問い合わせは、共催の「死刑廃止国際条約の批准を求めるFORUM90」(電話03―3585―2331、港合同法律事務所)

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