実家を相続することになったら知っておきたい維持コストとリスク、土地の活用法も

相続は、その発生から相続税の申告までの期間が10カ月しかないため、あらかじめ相続について考えておくことは重要です。

そこで、宅地建物取引士で上級相続診断士の小島一茂 氏の著書『“負動産”にしないための実家の終活』(同文舘出版)より、一部を抜粋・編集して実家の維持コストについて解説します。


いろいろかかる!実家の維持コスト

建物の維持管理にはお金がかかる

相続した実家に自分で住むことはせず、売却も賃貸もしないというのであれば、当面は維持していくことになります。

その場合、覚悟しておきたいのは、想像以上のコストがかかるということです。

物件の種別(木造かRCか)や面積、場所により金額はさまざまですが、建物の維持には次のようなコストがかかります。

  • 固定資産税・都市計画税
  • 町会費(地域による)
  • 火災保険料
  • 光熱費(電気・ガス・水道の基本料金は、解除しない限り発生する)
  • 建物のメンテナンス・修繕費用
  • 維持を自分で行なう場合は現地までの交通費
  • 維持を業者に任せる場合は管理費(清掃、換気等で月数千円程度)
  • マンションの場合は管理費・修繕積立金ほか
  • 庭がある場合には除草・植木剪定費用

このように細々としたコストがいくつもかかってくるのが実態です。

維持管理を自分でやることもできますが、 実家が自宅から離れている場合は非常に大変 です。

現地に行くまでの交通費もかかりますし、時間も手間もかかります。

面倒になって行かなくなってしまえば、建物はどんどん劣化します。木造住宅は定期的に換気をしないと湿気がこもって傷んでいくからです。

水回りもたまに通水をしないと、悪臭や害虫侵入の原因となります。

また、庭は植木や雑草が生い茂って荒れた様子になってしまいます。

人が住まなくなって家が荒れてくると、外からゴミが投げ込まれるなどして、廃墟のようになってしまいます。

空き家をそのままにして莫大なコストがかかった例

タレントの松本明子さんは、相続した実家を空き家のまま長年維持管理した事情を著書『実家じまい終わらせました! ― 大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方』(祥伝社)で次のように語っています。

「実家を頼む」と生前の父にいわれたことを守り、25年間も維持を続けてきたことで、トータル1800万円もの維持費がかかったといいます。

父が3000万円かけて建設し、計600万円かけてリフォームした家が200万円にしかならないという評価になり、結局は県が運営する空き家バンクに登録して、どうにか希望額の600万円で売却できたそうです。

特に地方では松本さんの実家のように、広大な土地に大きな建物が建っているケースはよくあります。

そんな実家を相続すると、売るのも難しい、取り壊すにもリフォームするにも多額の費用がかかる、残して維持管理するのも大変で、どうにもならない状態が発生することになります。

相続してからそんな大変な思いをしないためにも、被相続人である親が存命のうちに準備を始めることが大切です。

空き家を放置していたらどうなるか?

空き家の放置にはデメリットしかない

では相続した空き家をきちんと維持管理せず、放置してしまったらどうなるでしょうか。空き家を放置しておくと、

  • 不審者の侵入のおそれ
  • 放火による火災のおそれ
  • ゴミ等の放置や不法投棄のおそれ
  • 建物が劣化し、通行人などにケガをさせるおそれ

などのリスクがあります。近所に迷惑がかかるばかりか、自分の空き家が原因で他人に損害を与えれば、賠償問題に発展する可能性もあります。

所有している間に次の相続が発生しないとも限りません。つまり、親から相続した物件の所有者である子が亡くなり、孫などに所有者が移るということです。すると孫に負担を押しつけることになります。

最初の相続で共同名義にしていた場合はもっと大変で、二次相続が発生した時に所有者の数が増えてしまうことになります。それが原因でトラブルになる可能性が高くなります。

放っておけば行政から指導されるおそれが

全国にそのような放置される空き家が増えたことを背景に、2015年、国は「空家等対策特別措置法」を施行しました。

自治体が空き家の管理状況を調査し、次のような状態の空き家(特定空き家)に対しては、管理や修繕の指導が出されるというものです。

【特定空き家の定義】

(次のいずれかに該当するもの)

・倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態

・著しく衛生上有害となるおそれのある状態

・適切な管理が行なわれないことにより著しく景観を損なっている状態

・その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

特定空き家に指定され、自治体から指導されたにもかかわらず従わないと、「勧告」となります。すると、 固定資産税が大きく跳ね上がる ことになります。通常、住宅が建っている土地では、更地と比較して、固定資産税が6分の1(住宅200平方メートル以下の場合。200平方メートル超は3分の1)になるという軽減措置が適用されます。この措置が解除されてしまい、 更地と同じになる ということです。

それでも放置しておくと、自治体から「命令」が出され、命令に従わないと50万円の過料が科せられることになります。

さらに命令にも従わず、空き家の状態が危険だと判断されると、行政の判断で「行政代執行」といって、はみ出しているゴミが処理されたり家屋が解体されたりします。

これを「行政が勝手に処理してくれるんだったらありがたい」などとのんきに考えるのは大間違いで、当然ながら行政代執行にかかった費用は所有者に請求されることになります。

空き家を長期間放置しておくことは、所有者にとってメリットがないどころか、さまざまなリスクにつながります。

不動産を相続した場合はこうしたリスクがあることを想定しておかなければなりません。

■「特定空き家等に対する措置」の手順

「土地の有効活用」を知らないと大損をする

土地にはいろいろな使い道がある

「相続した建物には人が住まなければならない」「土地は住宅を建てるためにある」という固定観念があると、相続後の選択肢を狭めてしまうかもしれません。

つまり、不動産には通常考えられる使い方だけでなく、幅広い活用方法があるということです。

たとえば住宅街にある土地を相続した時、住宅用地として売却するしか選択肢はないと思ってしまうかもしれませんが、実際はそれ以外にもいろいろな方法があります。

その土地のニーズや用途地域(都市計画法で定められた規制)、そして面積によりますが、次のような活用方法が考えられます。

  • 駐車場・コインパーキング・バイク駐車場
  • コインランドリー用地
  • 資材置き場
  • レンタルボックス(コンテナ)置き場
  • ガレージハウス

駅から遠いなど立地条件が悪いために、宅地としてはあまり人気のない場所であっても、右記のような物件であれば借り手が見つかる場合もあります。

もし土地を貸し出すことができれば、安定的な賃料収入を得ることが可能になり、単に売るよりもメリットが大きいこともあるのです。

建物にも意外な用途が

土地に建物が建っている場合も、選択肢はいろいろあります。

そのまま賃貸住宅として使うのではなく、飲食店・商店などに転用する方法などです。

昔ながらの古民家であれば、雰囲気のある古民家レストランになりますし、小ぎれいな現代建築が一軒家レストランとして使われることもあります。

私もレストランを開きたいというシェフに、住宅街の中にある比較的新しい一戸建てを店舗用として購入していただいたことがあります。

レストランとして使えるような建物は限られますが、可能性がありそうなら、検討してみるのもよいのではないでしょうか。

商店やレストランだけでなく意外な使い方もあります。

「カラオケを楽しんだり楽器を弾いたりしたいから、防音設備の整った離れのある家を探している」
「猫をたくさん飼いたいから、古くてもいいので、隣家と離れた広い家を借りたい」
「趣味の自動車いじりを楽しみたいから、2台停められるガレージ付きの家に住みたい」

などといったニーズは意外とあり、該当する物件は立地にかかわらず人気になることもあるのです。

貸し出すのではなく、自分で住宅以外の用途で使うという方法もあります。

たとえば私の父は、かつて三世帯で住んでいた京都風の数寄屋造りの住宅に、現在独りで住んでいますが、その家で「あんみつ屋」をやろうかという話がありました。

自分で商売をするならば、当然ながら、挑戦する前に採算が合うのかどうか精査する必要があります。

しかし、すでに定年退職して生活に余裕がある人が、自宅の一角を使って小さく商売をするというのなら、リスクはあまりなく、楽しんでできるかもしれません。

このように、土地・建物の活用方法はいろいろとあります。

「そろそろ相続が発生しそう」という段階になったら、売却する、賃貸に出すだけでなく、他の可能性を探るために地元の不動産会社にヒアリングしてみるのもいいのではないでしょうか。

著者:小島 一茂

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