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その名を検索したら即「死」
その名を検索した人間の首がスパっと刈られる。しかも秒で。とてもシンプルで無茶苦茶な都市伝説をネタに殺りたい放題、殺ってのける映画。それが『オカムロさん』だ。
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冒頭、キャンプ場ではしゃぐ若者たち。スマホを使って悪ふざけで「オカムロさん」と検索した彼らは、『13日の金曜日』(1980年)等を彷彿とさせるベタな演出で次々とオカムロさんに首を刈られていく。
唯一“寝ていて”生き残った少女すず(吉田伶香)は、オカムロ事件のトラウマを抱えて生きていくことになる。だが世の中はそれどころではなかった。検索すればいつでも参上し、首を飛ばすオカムロに翻弄される世界、“アフターオカムロ”の時代がやってきたのだ!
混沌の中、すずは家族をオカムロに殺され復讐に燃える綾子(伊澤彩織)と出会い、オカムロ退治を画策するが……。
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冒頭から約30分、とにかく人が死ぬ。死にすぎる。死体が山積みである。「こんな無茶な調子で、この先一体どうするんだ?」と思っていた矢先に叫ばれる言葉が、
「アフターオカムロ」である。
血とジョークの飛沫に唖然とするしかない。そこにガチのアクション俳優、伊澤彩織の登場で物語はゴアホラーからシフトチェンジ、一気にアクションホラーへと変貌していくのだ。
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この常軌を逸した物語を紡ぎ出したのは、松野友喜人監督。カナザワ映画祭で上映された短編『全身犯罪者』はホラーファンに歓迎されるとともに、タブー満載の内容で賛否を呼んだ。
「やっぱりちょっと変な人なのかな?」――不安ととにも取材に挑んだ筆者だったが……筆者を迎えたのは満面の笑みを浮かべた松野監督。ほっとしたのもつかの間、飄々と様子のおかしいことを口にする清々しいまでの狂気を孕んだインタビューとなった。
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「28人じゃキリが悪いから、あと2人殺そう」
―冒頭から殺りすぎましたね。まずは、これだけ首を飛ばした感想を伺いたく……。
とにかく首は数を飛ばしたくてですね! 最初に脚本を映倫さんに持って行ったときに、「28。これ何の数字か分かりますか?」と言われまして……。
―ああ、それは首を飛ばした数ですか?
そうです。人が死ぬ箇所に赤線が入っていて。「これだとR18+になるかもしれません」と。ちょっと殺りすぎたかなと思ったのですが、帰り道で本作のプロデューサーから「キリが悪いから、あと2人殺そう」って言われて(笑)。
―73分の映画なので、賞味2分に一人は死んでますね。
“首刈り映画”ってことで、殺りすぎくらいがちょうどいいかと。
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―そもそも首刈り映画という発想、おかしくないですか?
そもそもカナザワで『全身犯罪者』を上映して観客賞を頂いた後、(映画制作会社の)エクストリームさんから「“おかむろ”さんという妖怪の映画を撮りませんか?」と言われて(注:朝里樹 著「日本現代怪異事典」によれば、元はひらがな表記である)。
―その「おかむろ」も、そんなに有名じゃないと思うのですが……。
はい。私も全然聞いたことなくて。でも、逆にそこからイメージを膨らませることができるなと。
―調べると「笠を被って黒い服を着ている。夜に訪ねてきて、姿を見ると死ぬ」程度の情報しかなくて。虚無僧とか、よく思いつきましたね。
私の中でイメージはあったので、細かいところは造形デザイナーの百武朋さんと協力しながら作り上げていきました。
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「もはや『オカムロさん』の脚本自体が都市伝説です」
―前半のオカムロさんの暴走場面、後半の“アフターオカムロ”では全く別の映画になってしまっていますが、コロナ禍と結びつけたのは何か意図があったのでしょうか?
いや、最初はコロナの話は全く取り入れてなくて。改版を進めていくうちに「やっぱり避けては通れないかな?」と思って。
―「オカムロさんはただの風邪です!」のあたりは単純に面白かったです。
実際に駅前で叫んでいる方々を見かけて、ああいうエピソードを入れたら面白いかな? と(笑)。もちろん私は「コロナはただの風邪だ!」なんていう考えはないですよ!
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―『オカムロさん』に漂う“軽薄さ”が僕は気に入ってますよ! ところで「検索したら死ぬ」というアイディアはどこから?
それが「どこからそういう設定になったんだっけ?」と調べてみても、分からないんですよ。
―え、企画書に書いてあるのでは?
ないんです。どこからでてきたのかなって。いつの間にか入り込んだ設定ですね。
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(エクストリームの担当さん):私も全然、覚えてないです。最初の段階では「オカムロさんの話をしているとやってくる。で、殺される」までです。首を刈る、も気がついたら入ってました。
―首を刈る、も知らぬ間にですか?
そうですね。もはや『オカムロさん』の脚本自体が都市伝説ですよ。
―ちょっとちょっと、 大丈夫ですか!? それ怖くないですか???
大丈夫です! 根拠はないですけど……。
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「アクションシーンは伊澤彩織さんに合わせて構築しています」
―アフターオカムロからは、ある種の世紀末感/終末感が漂います。これは意図されたのでしょうか?
それは意識してました。それこそモヒカンの男たちが針金バットを持ってウロウロしているような感じも出したかったのですが、さすがにそれは違うだろうと(笑)。なので、生首がその辺に転がっていることしました。伊澤さん演じる綾子が一人で体を鍛えていたりするのは、プレッパー(終末に備えて準備をしている人々の呼称)をイメージしています。
―伊澤さんのアクションは見事でしたが、長編1作目でこれはかなり苦労されたのでは?
伊澤さんの出演が決まってからは、ほとんど伊澤さんに合わせたアクションをイメージするようにしました。アクションの構築やアクションシーン自体は、『ベイビーわるきゅーれ』(2021年)でも伊澤さんと組んでいたアクション監督の三元(雅芸)さんにお願いして、私は細かな表情等の指示出しをしていましたね。
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―吉田さんをキャスティングした決め手は?
オーディションをしたのですが、当日、吉田さんだけ笑っていたんですよね。他の方は緊張した面持ちだったり脚本の読み込みをしていたりしてるのに、一人だけ周りを見ながらニコニコしてる。もうこの人しかいないなって思いました。
―吉田さんも激しいアクションをキメていましたが、実際どうでしたか?
三元さんに見ていただいたら、才能があるとおっしゃってました。
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―アクションもそうですが、全体を包み込むコメディ要素、そして猟奇ホラー。沢山の要素が詰まっています。このミクスチャー要素は当初から考えていましたか?
初稿の時から、ホラーに偏らないエンターテインメント映画を目指していました。とにかくお客さんに沢山楽しんで欲しいという気持ちがありましたね。特に編集をトコトン追い込みました。会社も休みまくりです。
―まだ映画監督が本業ではない?
あ! そうそう、今日付けで会社を退職しまして、フリーになりました。首切り映画を撮っていたら、自分のクビが飛びましたよ。
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―ちょっと!(笑)。初めての長編となると、多くの映画監督はカットを上手く切れず、長尺になりがちです。しかし『オカムロさん』は73分と思い切った長さにまとめられていますが……。
最初は90分あったのですが、とにかくテンポを重視しまして、切れるだけ切りました。今でもちょっと長いかな? と思うくらいです。
―独特のリズムはそこから生まれたのですね。前半の殺戮数が異常ですよ。
アレは、リメイク版『13日の金曜日』(2009年)のオープニングシークエンスを意識したんです。
―リメイク版とは! それは世代的に?
いえいえ、オリジナルを観た上で、ですよ! リメイク版はジェイソン誕生のくだりをものすごい勢いで消化していくでしょう? あんな感じにしたかったんです。
―なるほど! やっぱりこれからもホラー映画を撮っていきたいですか?
ホラーも好きなのですが、ヒーロー物とかドラマとか、まだまだやりたいことが沢山あります。
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「バーンズ勇気さんの大汗は本物。キャストのお坊さんも本物です」
―『オカムロさん』で一番苦労したことは?
全部大変でした(笑)。でも、ホラー映画らしいコワいエピソードがあってですね……。
―なにがありましたか!?
とある人物の拳が血まみれになる場面があるのですが、撮影直前に役者さんの手が本当に切れてしまいまして。
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―どこかにぶつけたとか……?
本人も分からなかったみたいで。血糊を乗せようとしたら、メイクさんが「あれ、もう血がでてるじゃないですか?」って。まあ首じゃなくて良かったですけど。
―……そういえば劇中、バーンズ勇気さんが大量に汗をかく場面がありますが、あれは?
信じられないかもしれませんが、あれは天然の汗なんですよ。霧吹き、使ってないんです。
―ふぇ!? いや、涙はどうにでもなりますよ。でも汗は無理じゃないですか?
いや、バーンズさんは自在なんですよ。
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―なんとまあ。ずいぶん濃い役者さんが集まったんですね。
それからお坊さん役の内田寛崇、彼は本物のお坊さんなんです。
―まさか劇中で使われるお寺は彼の実家だとか言いませんよね?
もちろん、彼の実家です(笑)。護摩炊きとかお経とか全部、本物なんですよ。衣装も彼だけシチュエーションに合わせて4着くらい変えてます。
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―お寺的に大丈夫なんですか?
問題ないみたいですよ。逆にお坊さんからすると「本物じゃん!(笑)」とウケるみたいです。しかもラストバトルの廃墟CGも内田が作ってるんです。彼は何でも屋のお坊さんです。
―濃い、濃すぎる……。奇跡の映画じゃないですか。
そうですね、この調子で監督を続けられればいいのですが、さっきも言いましたが首切り映画でクビを切られたばかりなので、どうなることやら(笑)。
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―したたか、かつ飄々と奇妙なことを口走るエキセントリックな松野監督。ぶっ壊れているのにしっかりと映画になっている『オカムロさん』を仕上げた器を持つ、これからが楽しみな監督である。
まずは『オカムロさん』で、特濃の血液を全身に浴びてみてほしい。
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取材・文:氏家譲寿(ナマニク)
『オカムロさん』は2022年10月14日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほか全国公開