S.S.ラージャマウリ監督『RRR』超濃厚インタビュー!「NTR Jr.とラーム・チャランありきで始まった」【前編】

S.S.ラージャマウリ監督

ラージャマウリ監督「超」インタビュー

2017年末の『バーフバリ 王の凱旋』日本公開から約4年10カ月、長い長い待ちの末に、S.S.ラージャマウリ監督の新作『RRR』が2022年10月21日よりついに公開。しかも、2人の主演ヒーロー=NTR Jr.ラーム・チャランという超特大のお土産を携えての来日も予定されている。

現在は、米国アカデミー賞への本作の出品も噂される(その後、正式に発表)中、北米を中心に各地で舞台挨拶やトークショーなどに精力的に出演を続けるラージャマウリ監督だが、その多忙の合間に日本のメディア各社のインタビューにも答えてくれた。以下は<BANGER!!!>独自のQ&Aである。

「マルチスター映画が先にあり、ストーリーは後から」

―実際には接点のない2人の実在の英雄を組ませた理由は何でしょうか?

どう説明したらいいでしょうか。私はハリウッド映画『イングロリアス・バスターズ』(2009年)を観たのですが、素晴らしい作品ですよね。あの作品の中ではヒトラーがマシンガンで殺されるんです。もちろん、これは実際に起きたことではない。でもこのプロットは素晴らしく、私にとっては目から鱗でした。あの作品は観客の誰もがフィクションだと分かっているストーリーです。つまり我々は歴史的事実にこだわることなく、高揚する瞬間を語ることができるし、そうしたいのです。そして観客は、その至福の瞬間を味わって映画を楽しめます。これは本当に“啓示”だったのです。

そこで私は2人の歴史的人物を思い描き、実際には相まみえることのなかった彼らを、映画の中で出合わせるということを思いついたのです。これは目覚ましい発想でした。『イングロリアス・バスターズ』の製作者たちの自信に励まされて、私もこの考えを映画にしたのです。

―本作の構想の初期段階で、NTR Jr.とラーム・チャランをキャスティングすることは決まっていたのでしょうか? あるいは彼らのキャスティングが先にあって、2人のためにストーリーが書かれたのでしょうか。また、以前の監督作品ではどうでしたか?

『RRR』に関しては、どちらの要因もありましたが、核となったのは「マルチスター映画を撮る」ということで、「マルチスター映画ならばラーム・チャランとNTR Jr.がいい」と続きました。ストーリーには幾つかオプションがありましたが、2人の歴史的キャラクターの物語ということで固まり、2人がめぐり合うということも決めました。

だからどちらが先かという話ならば、「NTR Jr.とラーム・チャランと共に仕事をする」というのがまずあり、ストーリーは後からでした。これまでの作品に関しても同じです。私の頭の中には様々なアイディアやストーリーがいつも渦巻いているんです。誰であれ主人公を演じるメインのスターが決まると、その頭の中のストーリーの一つが浮上してきて訴えかける、そんな感じです。

神話からの引用と印象的なサウンドデザイン

―本作では、ヒンドゥー教神話からの様々な形での引用がなされています。監督自身が神話に慣れ親しんで育ったと、色々なインタビュー記事で読みました。子供の頃にヒンドゥー教の神話に触れたのは、どのようなメディアを通してだったのでしょうか? 本、映画、コミック、演劇、お年寄りからの口伝など色々あると思いますが、一番影響力があったのはどのメディアでしょうか。

子供の頃から神話の物語が頭の中にありました。それらを知ったのは、コミック、年長者の語り、小説、映画などを通してでした。そして今、頭の中でひしめき合っているそれらを逐次参照する必要もないほどなのです。自分でも困惑するほどに、それらはいちいち紐解く必要すらなく、ストーリーを書き始めると勝手に出てくるのです。つまり、全てが混ざり合っているんです。

―本作のサウンドデザインは、非常に巧みに高揚感を演出しています。たとえばビームと猛獣たちのシーン、BGMと猛獣の唸り声、人々の叫び声などが合わさり、沸騰するようです。サウンド・デザインのラグナート・ケミシェッティとBGM作曲のM・M・キーラヴァーニに対して、どのような指示・依頼をしたのでしょうか?

あれは大きな山場で、猛獣たちがビームを先頭にしてトラックから躍り出てくる、空前の映像です。作曲のキーラヴァーニは大家で、私はあまり細かい注文をしませんでした。あのシーンの開始から10分間には、ある種のチャント(呪術的詠唱)のようなおどろおどろしいBGMが必要でした。そこで起きるすべての出来事に添える必要はないけれど、何かトランス・ミュージックのようなものが欲しい、と。私が頼んだのはそれだけで、キーラヴァーニはあのBGMを作り上げたのです。

あのシーンのサウンドを評価してくれてありがとうございます。とても見事な曲ですよね。私は映像抜きで何度も音楽を聴きます。音楽自体が素晴らしいエモーションを持っているからです。サウンドデザインについても、私はあまり細かく指示を出しませんでした。彼らはプロで、何をなすべきかを分かっています。そして彼らは実際にそれを作って私に聴かせ、私が修正を頼んだのはごくマイナーな箇所に関してのみでした。

「最初にあるのは“たった1つのイメージ”です」

―『バーフバリ』に続き、本作も目を奪うアクションシーンの連続ですが、こうしたアクションはどのように着想されたのでしょうか。例えばラーマとビームの出会いのシーンですが、監督ご自身がコンテを描いたりしたのでしょうか?

たしかに私の頭の中にはイメージが先行してあります。そのイメージと共に、かなりざっくりとしたシーンのアイディアもありますが、それはまだ完成形とは一致しません。そこから最初に行うのはコンセプト・アーティストと一緒に座って、彼/彼女たちにスケッチを描いてもらうことです。私が口で説明して、紙の上に描いてもらうんです。

最初にあるのはたった1つのイメージで、そのシーンの中で最良のカットです。そして異なったカメラ・アングルからも。それらの中から1つを選びます。そして照明を決め、画面のテクスチャーについても詰めます。最終的な見た目に近づけていくのです。ともかく1つ、シーン全体の中からただ1つの「ヒロイック・フレーム」を決めるのです。時にそれは2~3のシーンを統合するものになるかもしれません。我々はそれを「ヒーロー・モーメント」とも呼びます。

ひとたびヒロイック・フレームが決まったら、私はプロダクション・デザイナーや撮影監督と膝を突き合わせて話し、また照明やセットなど、あらゆることを手配していきます。こうして我々は仕上がりのイメージを共有し、次には絵コンテを切ってそれを定着させ、スタントについても絵にしていき、その他もろもろを取り決めます。ともかく最初に“これぞ”というヒロイック・フレームを持たなければなりません。

出会いのシーンに登場する“あの旗”は?

―本作中には、現在のインド国旗の前身で、1906年に制定されたロータス・フラッグが印象的に使われていますが、敢えてこの映画の設定年代と異なる時代の旗を使った理由は何でしょう?

私たちは『RRR』のストーリーを構想するにあたり、主人公たちの人生の中の1922年から1923年あたりを取り上げることにしました。その2年半ほどのスパンは、歴史的に実在した彼らの消息がよく分からない時期なのです。彼らの住みかや、郷里を出た彼らが旅した先などは不明なのです。そして1923年に、彼らはそれぞれの故郷に戻っていきました。この空白の時期こそ私たちが取り上げるべきものだったのです。

この時期、今日のインド国旗はまだ生まれておらず、違うデザインの旗が幾つもありました。19世紀末から始まり、20世紀にかけて、国内のさまざまな地域でさまざまな旗が用いられたのです。特定の旗が特定の期間にのみ用いられ、次のものに即座に交代したということではなく、かなりの旗が時期的に重なって用いられていました。ですから、私たちが描こうとした時代にも掲げられていた幾つかの旗を調べたのです。それらは1920年代になってもまだ用いられていました。映像として一番映えるものを選んだということなのです。

筆者注:ラーマとビームの出会いのシーン、およびエンディングソングに現れるカラフルな旗は、まだイギリスからの独立を達成していない1906年に、「国旗」として独立運動家の間で使われたもの。中央には「ヴァンデー・マータラム(母なる国を讃えます)」の文字。その後、何種類ものデザインの変遷を経て、1947年の独立に際して今日のデザインのものが正式な国旗となった。

取材・文:安宅直子

参考:Flag Foundation Of India

『RRR』は2022年10月21日(金)より全国公開

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