海自の最新潜水艦たいげい型3番艦「じんげい」が命名・進水 旧海軍の潜水母艦「迅鯨」に由来

By Kosuke Takahashi

海自の最新潜水艦たいげい型3番艦「じんげい」が命名・進水(高橋浩祐撮影)

海上自衛隊の最新鋭潜水艦の命名・進水式が10月12日、三菱重工業神戸造船所で行われた。「じんげい」と名付けられた。同造船所での潜水艦の進水式は2020年10月の「たいげい」以来で戦後30隻目。

海上幕僚監部広報室によると、艦名の「じんげい」は漢字では「迅鯨」と書き、海の王者たる鯨が波をけたてて疾走するさまを意味する。この名を受け継いだ日本の艦艇としては、旧海軍の外輪船で御召艦「迅鯨」、潜水母艦「迅鯨」に続き、3代目となる。艦名は海自の部隊などから募集し、各種検討を踏まえた結果、浜田靖一防衛相が決定した。

日本を取り巻く安全保障環境を見渡せば、中国や北朝鮮、ロシアが軍拡している。台湾有事も現実味を増す中、海自の潜水艦が担う作戦任務と海域は拡大している。

じんげいは、日本の主力潜水艦そうりゅう型の後継艦となる最新鋭たいげい型潜水艦の3番艦だ。全長84メートルと全幅9.1メートルは、そうりゅう型と同じだが、深さは10.4メートルとなり、そうりゅう型より0.1メートル大きい。これは海自最大の潜水艦となる。基準排水量も3000トンとなり、そうりゅう型より50トン多い。建造費は699億円。乗員は約70人。軸出力は6000馬力。水中速力は20ノット。

1番艦たいげい、2番艦はくげいと同様、女性乗員最大6人のための専用の居住エリアを就役時から初めてあらかじめ設ける。

令和元(2019)年度計画潜水艦であるじんげいは2020年4月に起工された。今後、内装工事や性能試験を実施し、2024年3月に海上自衛隊に引き渡される。海上幕僚監部は「配備先は未定」と説明する。

●じんげいもリチウムイオン蓄電池搭載

そうりゅう型はディーゼル潜水艦で、低振動で静粛性に優れ、世界有数の高性能艦として知られてきたが、たいげい型は、その性能向上型となる。そうりゅう型に比べ、探知性能や被探知防止性能が向上した。

具体的には光ファイバー技術を用いた新型の高性能ソナーシステムを装備して探知能力が向上した。また、船殻から甲板を浮かせる「浮甲板構造」を採用したことで艦内で発生した振動を吸収。外部に放射される雑音を減らすとともに、外部からの衝撃を緩和して艦内の隊員や機器を保護することが可能となっている。浮甲板構造はアメリカ原子力潜水艦では当然のものとなっている。

たいげい型は、そうりゅう型11番艦おうりゅう、12番艦とうりゅうに続き、GSユアサが開発したリチウムイオン蓄電池を搭載し、ディーゼル電気推進方式の通常動力型潜水艦となる。従来の鉛電池に換わるリチウムイオン蓄電池の採用で、ディーゼル潜水艦特有のシュノーケル(吸排気装置)による充電時間の短縮化が図られている。電池担当乗員の負担も大幅に減った。

潜水艦たいげいの概要図。たいげい型は同じ(三菱重工業資料より)

たいげい型は高性能シュノーケル一式を擁し、潜水艦に重要な隠密性を高めた。主機関に川崎12V25/25SB型ディーゼル機関2基を採用している。

また、そうりゅう型8番艦のせきりゅうから導入された潜水艦魚雷防御システム(TCM)も装備している。これは、敵潜水艦から発射された魚雷を探知した時に、艦のスクリュー音を模擬したブイやおとりを発射し、魚雷が自艦に向かってくることを回避するための装置だ。

●対艦ミサイル「UGM-84Lハープーン・ブロック2」搭載

たいげい型は、89式魚雷の後継である最新の18式魚雷を装備する。533ミリ魚雷発射管6門を艦首先端上部に搭載している。この魚雷発射管からは、海上標的に向けて水中発射する対艦ミサイル「UGM-84Lハープーン・ブロック2」も搭載できる。国際軍事情報グループの英ジェーンズによると、このミサイルの射程は248キロとされ、地上への攻撃も接近すれば可能とみられる。反撃能力(敵基地攻撃能力)の1つにもなり得る。

アメリカ国防安全保障協力局(DSCA)は2015年5月、国務省が日本へこのUGM-84Lハープーン・ブロック2ミサイルと関連機器、部品、サポートなどを対外有償軍事援助(FMS)で輸出することを承認した。日本政府がUGM-84Lハープーン・ブロック2ミサイル48基とコンテナ、予備部品、支援機器、技術資料、訓練、各種サポートなどを要求し、推定コストは1.99億ドル(290億円)と試算された。

日本の潜水艦は三菱重工業神戸造船所と川崎重工業神戸工場が隔年で交互に建造している。現在、三菱重工業神戸造船所でたいげい型5番艦、川崎重工業神戸工場で4番艦がそれぞれすでに建造中だ。2019年度予算ではその3番艦建造費として698億円、2020年度予算では4番艦建造費として702億円、2021年度予算では5番艦建造費として684億円、2022年度予算では6番艦建造費として736億円がそれぞれ計上された。さらに、今年8月末に公表された2023年度予算の概算要求では、7番艦建造費として805億円が示された。資材費の高騰など物価高の影響をもろに受けた格好だ。

海上幕僚監部広報室は、たいげい型が合計で何隻建造されるかは決まっていないと説明した。しかし、旧型の「おやしお型」9隻が順次退役していくことから、今後もそれを補完する形で年に1隻の建造ペースで調達していくとみられる。

三菱重工業の潜水艦建造実績。海自潜水艦はこれまで「○○しお(潮)」から「○○りゅう(龍)」へ、そして「○○げい(鯨)」へと変化した(同社資料より)

防衛省・海上自衛隊は今年3月のたいげいの就役で、2018年12月の防衛大綱でも定められた潜水艦22隻体制(=そうりゅう型12隻+おやしお型9隻+たいげい型1隻)を確立した。そもそも日本は1976(昭和51)年に閣議決定された「51大綱」から2010(平成22)年の「22大綱」前まで長らく潜水艦16隻体制を維持していた。

海自の最新潜水艦たいげい型3番艦「じんげい」命名・進水式記念はがき(三菱重工業提供)

(関連記事)

海自の最新型潜水艦「たいげい」就役――潜水艦22隻体制が完成

海上自衛隊の最新鋭3000トン型潜水艦「はくげい」が進水――旧日本海軍での命名実績なし

護衛艦「いずも」と「かが」の軽空母化、F35B搭載の改修費36億円を概算要求 「事項要求」で上積みも

海上自衛隊の最新鋭もがみ型護衛艦5番艦「やはぎ」進水 艦名は矢作川に由来

© 高橋浩祐