探査機の衝突で小惑星の公転周期が短くなったことを確認! NASA「DART」ミッション続報

【▲ ASIの小型探査機「LICIACube」が撮影したディモルフォスへのDART探査機衝突時の様子(Credit: ASI/NASA)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)は日本時間10月12日未明、ジョンズ・ホプキンス大学の応用物理学研究所(APL)が主導するNASAのミッション「DART」について、探査機を衝突させた小惑星の公転周期が実際に変化したことを確認したと発表しました。

■DART探査機の衝突でディモルフォスの公転周期は32分短縮された

2013年2月にロシア上空で爆発して1000名以上を負傷させた小惑星のように、地球への天体衝突は現実の脅威です。地球に接近する軌道を描く「地球接近天体」(NEO:Near Earth Object、地球接近小惑星)と呼ばれている小惑星のうち、特に衝突の危険性が高いものは「潜在的に危険な小惑星」(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)に分類されていて、将来の衝突リスクを評価するために追跡観測が行われています。

ある小惑星が地球に衝突する確率が高いと判断された場合、事前に衝突体(インパクター)を体当たりさせて小惑星の軌道を変えることで、甚大な被害をもたらす小惑星の衝突を回避できるかもしれません。DART(Double Asteroid Redirection Test、二重小惑星方向転換試験の略)は惑星防衛(プラネタリーディフェンス※)の一環として、「キネティックインパクト」(kinetic impact)と呼ばれるこの手法を初めて実証するミッションです。

※…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組みのこと。

【▲ DARTのミッションを解説したイラスト。DARTが衝突することで、ディディモス(Didymos)を周回するディモルフォス(Dimorphos)の軌道が変化する(白→青)と予想されている(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)】

ミッションのターゲットは、小惑星「ディディモス」(65803 Didymos、直径780m)とその衛星「ディモルフォス」(Dimorphos、直径160m)からなる二重小惑星です。ディディモスは約2.1年周期で太陽を公転するアポロ群の小惑星で、探査機衝突前のディモルフォスはディディモスを11時間55分周期で公転していました。

DART探査機は日本時間2022年9月27日8時14分に、衛星であるディモルフォスへ秒速約6kmの相対速度で衝突することに成功しました。衝突によって噴出物(イジェクタ)が広がっていく様子は、DART探査機に搭載されていたイタリア宇宙機関(ASI)の小型探査機「LICIACube」をはじめ、「ハッブル」宇宙望遠鏡や「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡、地上の望遠鏡からも撮影されています。

【▲ NASAの探査機「DART」の光学カメラ「DRACO」で撮影された小惑星ディモルフォス。衝突の11秒前、68km手前から撮影されたもので、ディモルフォスの全体を捉えた最後の画像(Credit: NASA/Johns Hopkins APL)】

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NASAによると、9月27日の衝突後にディモルフォスの公転周期を測定したところ、11時間23分(不確かさは±2分)に短縮されたことが確認されました。DART探査機の衝突によって、ディモルフォスの公転周期は32分短くなったことになります。成功と判断される最小値は73秒だったといいますから、その26倍も変化したことが示されたわけです。

地球から見たディモルフォスはディディモスの手前を通過したり、ディディモスの裏側へ隠れたりするように公転しているため、二重小惑星であるディディモス系の明るさは規則的に変化します。その様子を観測することで、ディモルフォスの公転周期を知ることができるのです。DART探査機はたしかにディモルフォスへ衝突したものの、実際にどれくらい軌道が変化したのかは、公転周期をもとに確認されるのを待っている状態でした。

現在の焦点は、DART探査機の衝突にともなう運動量の伝達効率を測定することに移っているようです。NASAによれば、衝突の際にディモルフォスから放出された噴出物は何トンにも達するとみられています。この噴出物放出時の反動も、ディモルフォスの軌道変化に影響したと考えられています。

【▲ LICIACubeのディモルフォス最接近前後に撮影された画像をもとに作成されたアニメーション。DART探査機の衝突直後、衝突地点から噴出物が広がるディモルフォス(下)とディディモス(上)が写っている(Credit: ASI/NASA)】

噴出物の影響を正しく理解するにはディモルフォスの物理的な特性を詳しく知らなければならないため、調査が続けられています。衝突の15日前にDART探査機から放出されたLICIACubeは、衝突直後の様子を間近で撮影しました。LICIACubeはDART探査機が撮影できなかった衝突地点の裏側も撮影することに成功しており、ディモルフォスの形状や密度を知る上で役立てることができます。ASIによれば、LICIACubeは合計627枚の画像を撮影しており、今後も分析が続けられます。

また、数年後には欧州宇宙機関(ESA)の小惑星探査機「Hera(ヘラ)」によるディモルフォスの衝突クレーター観測も計画されています。Heraは2024年10月の打ち上げ・2026年12月のディディモス系到着が予定されています。

【▲ 欧州宇宙機関の二重小惑星探査ミッション「Hera」のイメージ図。Hera探査機(中央)と小型探査機「Milani」(右下)および「Juventas」(右上)が描かれている(Credit: ESA/Science Office)】

関連:NASA探査機衝突後の小惑星を観測するESAのミッション「Hera」

ディディモスとディモルフォスの観測は、米国だけでなく世界中の観測所で今も継続的に実施されています。NASA本部の惑星科学部門長を務めるLori Glazeさんは今回の公転周期の測定結果について、DARTミッションによるディディモスへの影響を完全に理解するための第一歩であり、毎日得られる新たなデータをもとに、将来の惑星防衛ミッションを適切に評価できるようになるだろうとコメントしています。

Source

  • Image Credit: ASI/NASA, NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben, NASA/Johns Hopkins APL, ESA/Science Office
  • NASA \- NASA Confirms DART Mission Impact Changed Asteroid’s Motion in Space
  • ASI \- Presentate le ultime immagini di LICIACube durante la conferenza stampa NASA sugli ultimi aggiornamenti della missione DART

文/松村武宏

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