<社説>全国旅行支援始まる 第8波への対応を怠るな

 観光需要を喚起する政府の「全国旅行支援」が始まった。 新型コロナウイルス禍で縮小した観光業にとって期待が高まるが、人手不足が課題だ。

 冬場に懸念される第8波はこれまで以上の規模になることも懸念される。水際対策を大幅に緩和するなら政府は感染対策に万全を期してもらいたい。

 全国旅行支援は、宿泊代などの割引とクーポンの配布で、1人1泊当たり最大1万1千円を国が補助する。事業主体の都道府県が実施期間などを決め、独自財源で支援を手厚くすることも可能だ。

 沖縄県は「おきなわ彩発見NEXT」という名称でキャンペーンを始めた。全国旅行支援に合わせた独自の措置は予定していないが、8月から開始している県内の公共交通機関が最大30%引きになる「のりとくチケットキャンペーン」との併用が可能だ。県民を対象に、アクティビティなどを割引する「おきなわ体験最大50%オフキャンペーン」は期限を2月末まで延長しており、11日から県外客も利用できるようになった。

 沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)は10月と11月の国内からの入域観光客数が、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年同月を上回る見通しだと発表した。20年2月以降初めて19年同月比で上回ると予想している。

 県文化観光スポーツ部の宮城嗣吉部長は県議会で「約300万人泊、672億円の誘発効果を見込んでいる」と答弁した。

 一方で、観光客数の増加に伴い県内のレンタカーや貸し切りバスの車両、運転手やガイド、ホテルスタッフなどの人手が不足して供給が追いついていない状況があり、受け入れ態勢の整備が急務になっている。

 全国の宿泊施設へ人材派遣・紹介事業を行う「ダイブ」の実態調査によると、約9割が人手不足と回答した。

 人手不足の背景に賃金の低さが挙げられる。国税庁の統計(21年発表)によると、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与を業種別にみると、最も低いのは「宿泊業・飲食サービス業」となっている。人手不足の解消には賃金の引き上げが必要だ。

 過去2年間、いずれも年末年始に新型コロナ感染の波が到来した。政府は流行の第8波に備えるため10月から11月にかけて、接種券の配布、会場確保など、1日100万回を超えるペースの体制を整備してワクチン接種を加速する。県内のワクチン接種率の向上も課題だろう。

 3日召集された臨時国会で岸田文雄首相は訪日外国人の旅行消費額「年間5兆円超」を目指すとして経済再生に意欲を示した。過去に「GoToトラベル」が感染拡大の一因となったと批判されるように、経済を優先するあまり感染拡大防止をおろそかにしてはならない。

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