40周年!早見優「Affection 3」変わらないナチュラルさと “今” の集大成  アニバーサリーアルバムDISC3はレア曲と新曲で構成!

早見優のアニバーサリーアルバム「Affection」DISC3はレア曲と新曲で構成

2022年10月12日にリリースされた早見優のデビュー40周年のアニバーサリーアイテム『Affection ~YU HAYAMI 40th Anniversary Collection~』のDISC3はレア曲と新曲で構成されている。

『Affection ~YU HAYAMI 40th Anniversary Collection~』のDISC1、DISC2には、早見優が1982年のデビュー以来発表してきた全シングル曲30曲が収められ、彼女のシンガーとしての試行錯誤と成長のヒストリーをトレースできる構成となっている。これに対して、DISC3には彼女のパブリックイメージからは見えにくい今の音楽への向き合い方が記録されているという意味で貴重なDISCと言えるだろう。

藤井隆プロデュース「Right Here,Right Now」

1曲目に収められている「Right Here, Right Now」もきわめてレアな音源だ。これは音楽にも深い造詣をもつことで知られるコメディアンの藤井隆が2014年によしもとミュージツク内に設立したレーベルSLENDERIE RECORDから発表した彼自身のプロデュースによるオムニバスアルバム『SLENDERIE ideal』(2020年)に収録されているもので、早見優のアルバムには初収録となる。

この曲は、エレクトロニクス・ディスコサウンドの先駆者であるジョルジオ・モロダーが2015年に発表した曲のカヴァー。オリジナルバージョンではヴォーカルにカイリー・ミノーグがフィーチャーされていたが、早見優もカイリーに負けないノリの良い英語ヴォーカルでノリの良いダンスナンバーを決めている。

ちなみにこの『SLENDERIE ideal』に参加しているのは、川島明(麒麟)、椿鬼奴、レイザーラモンRG、後藤輝基(フットボールアワー)といった芸人が中心で、パッと見ると、ここに早見優がいるのが不思議に思える。

「恋のブギウギトレイン」「溶けるようにkiss me」が意味するものとは?

そのあたりの事情説明にもなっているのが2曲目の「恋のブギウギトレイン」と3曲目の「溶けるようにkiss me」だ。

この2曲はどちらも2016年に発表された早見優のミニアルバム『Delicacy of Love』に収められていた曲だ。『Delicacy of Love』は、早見優のアルバムとしては『MOMENTS』(1988年)以来28年振りに発表されたもので、『Delicacy of Love』は藤井隆の全面プロデュースによってSLENDERIE RECORDからリリースされている。

ということでこの2曲は、早見優の最近の姿を伝えると同時に、彼女が『SLENDERIE ideal』に参加しているのは、SLENDERIE RECORDのレーベルメイトだからということも教えてくれているのだ。

『Delicacy of Love』の収録曲は『Affection ~YU HAYAMI 40th Anniversary Collection~』にも収められているアン・ルイスの「恋のブギウギトレイン」(作詞:吉田美奈子、作曲:山下達郎 オリジナル発表は1979年)のカバーと、作詞:早見優 、作曲:藤井隆による新曲「溶けるようにkiss me」の他は、かつてのシングル曲「誘惑光線・クラッ!」「GET UP」「Caribbean Night」「夏色のナンシー」の若手アーティストによるリミックスバージョンが収められている。

NHKみんなのうたに起用された「JOY~よろこびの国~」

早見優が作詞を手掛けたのは「溶けるようにKiss me」が初めてではないことを示しているのが「JOY~よろこびの国~」だ。これは1988年にNHKの『みんなのうた』で放映された曲で、早見優が英語と日本語を組み合わせた歌詞を手掛けている。

「JOY~よろこびの国~」は、すでにこの頃の早見優がいわゆるアイドルシンガーのイメージに収まらないシンガーであることを感じさせる佳曲で、2002年に発売された5枚組BOXアルバム『ぼくらのベスト 早見優CD-BOX 82-95』に収められていたが現在は廃盤になっており、現在聴くことができるCDはこの『Affection ~YU HAYAMI 40th Anniversary Collection~』だけだ。

自ら作詞を手掛けた「マーメイドメモリー」「A Place in my Heart」

続く「マーメイドメモリー」と「A Place in my Heart」も早見優がかなり早い時期から作詞を手掛けていることを示すレア曲だ。

「マーメイドメモリー」はNHKテレビの『ふしぎの海のナディア』(1990~1991年)の挿入曲として発表された曲で、これも『ぼくらのベスト 早見優CD-BOX 82-95』にしか収録されていなかった。

また早見優が英語で詞を書いている「A Place in my Heart」は、NHK BS1「ワールドニュース」のテーマ曲として1987年に放映されたレア曲。

ともにアイドル的ニュアンスを感じさせながらも、早見優が早くから英語と日本語をミックスさせた作詞へのアプローチを行ってきたことを再確認させてくれる曲だ。

ある意味で異色曲というか、早見優の “シンガーとしての幅” を感じさせるのがテレサ・テンのヒット曲「時の流れに身をまかせ」のカバーだ。このテイクは2021年12月に公開され、早見優も出演している映画『想い出を、ラブソングにのせて』の主題歌になっているが、実際にテレサ・テンとも親交があった早見優だけに、テレサ・テンの歌に寄せながらも、優しさと情感が込められた聴きごたえのあるテイクになっている。

本田美奈子の言葉をもとに創られた「Dear Earth」

続く「Dear Earth~Affection mix」は2005年に白血病で死去した歌手、本田美奈子の生前の言葉をもとにシンガーソングライターの半﨑美子が作詞・作曲した「地球へ」の詞を早見優が英訳したテイク。2021年11月に予定されていたチャリティコンサートで披露される予定だったが、コロナ禍でコンサートは中止となったため配信だけでリリースされていた。

本田美奈子も早見優と交流が深かっただけに、これも早見優の想いが伝わるテイクだ。

「Goodnight my angel」は、幼児期から英語に親しむことをテーマに制作された早見優の企画アルバム『Let's Sing Together!』(2004年)に収められている曲で、作詞・作曲ともに早見優が手掛けている。

本当に母親が赤ちゃんを寝かしつけるために歌っているような穏やかな歌が心地よい。元オフコースの鈴木康博がピアノの響きを生かした編曲を手掛けているのも興味深い。

早見優の音楽への取り組みがわかるナンバー

このDISC3の最後には、まさに今の早見優の音楽に向かう姿勢を示すような3曲の新曲が収められている。

早見優がふたりの娘と一緒に作詞し、一緒に歌っている「make lemonade」(作曲:山川恵津子)は、どこかバート・バカラックにも通じるようなシャレた洋楽スタンダードのテイストをもつ曲。まさに、家族との充実した暮らしのなかから生まれた曲と言えるだろう。

優しさのなかにも華やかさを感じさせる早見優のヴォーカルもステキだ。

「今が一番好き」は、あえて今のスタンスでアイドルソングにトライしたと思える曲で、早見優とともにアイドルシーンを彩ったよっちゃんこと野村義男が作詞し、松田聖子の「瑠璃色の地球」や井上陽水の「少年時代」なども手掛けている平井夏美が作曲している。

ご存じの方も多いと思うが、平井夏美は「Re:Minder」でもインタビューが紹介されているレコーディングプロデューサー川原伸司のペンネーム。川原は野村義男が1983年に結成したThe Good-byeのディレクターでもあっただけに、早見優にとっても同じ時代を過ごしてきた盟友の一人でもある。

さらに、歌唱には早見優だけではなく、親友でもある松本伊代と森口博子が参加している、まさに80年代アイドルの同窓会とでもいうべき楽曲だ。

集大成ではなく“通過点”

早見優の歌も、甘やかなアイドル的ニュアンスも彷彿とさせながら、やはり当時から印象的だった端正なさわやかさが印象的で、なんとも言えない爽快感が後味として残る。まさにそれは、アイドル時代の早見優の曲から僕が感じていたものと同じだった。

当時僕が感じていた早見優の魅力がそのまま成熟した形で現れたようなこの曲を聴いていると、「今が一番好き」というタイトルがまた強く印象に残る。

DISC3の最後に収められているのは、やはり早見優と親交の深いAnnieことアン・ルイスが作詞し、アン・ルイスの息子である美勇土が作曲した「Your Last Woman」。しっとりとしたオリエンタルムードの大人のバラードを歌う早見優には、ここから先さらにシンガーとして深さのある歌を聴かせてくれそうという可能性も感じられる。

『Affection ~YU HAYAMI 40th Anniversary Collection~』は、まさに早見優のキャリア、そして真摯に歌と向き合い続けている“今”の集大成と言えるアルバムだ。その全体、そして彼女の現在を伝えるDISC3を聴き終えて、改めて強く印象に残ったのは一貫して変わらないナチュラルさを残したままで成熟に向かっている自然体でいながら凛とした早見優の姿勢。

早見優の40周年は、けっして過去の集大成ではなく、ここから先に広がる彼女の可能性を、改めてリスナーに問いかける “通過点” なのではないか。そう感じた。

カタリベ: 前田祥丈

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