路上生活を経験した実業家が証言「日本はホームレスに冷たい」不動産屋20件回っても部屋借りられず

住居を失い、路上生活者となることは決して他人事ではない。ジャーナリストの深月ユリア氏は、ホームレス生活を経験した実業家に取材し、たとえ収入を得て新たに部屋を借りようとしても、住所不定で保証人もいないと契約できない…といった現実を聞き出した。

◇ ◇ ◇

経済不況、物価高が進む中、世界的に貧困が進み、ホームレスとなる人が増加しているという。ただ、日本ではホームレスになる理由とは「貧困」のみではない。厚生労働省の2019年の調査によると、「ホームレスになった理由」としては、倒産や失業が37%、「人間関係がうまくいかなくて仕事を辞めた」と「家庭内のいざこざ」がいずれも同じ25・9%、「家賃が払えなくなった」が14・8%である。

そこで、03年に3カ月間、ホームレス生活を経験し、現在はIT実業家、平和活動家、ミュージシャンなど幅広く活動するニッキー・マツモト氏にインタビューした。

-ホームレスになったきっかけについて教えてください。

「アメリカで音楽活動をしていまして、1996年に日本に帰国してから、音楽の配信サービスを開業しようとしていていた時、一緒に事業をやろうとしていたパートナーと同居していたのですが、(さまざまな理由や出来事を経て)家出をして、都内でのホームレス生活が始まりました」

-ホームレス生活で困ったことはありましたか?

「しばらくはカプセルホテルや漫画喫茶で寝泊まりして、お金が尽きると路上に寝たりもしましたが、冬の寒さはつらいですね。そんな時に、警察署に泊めて欲しいとお願いしても1時間しか休ませてくれませんでした」

-どうやってホームレス状態から抜け出したのですか?

「長く続けるつもりはなかったので、まず秋葉原で格安のパソコン買って、なんとか仕事をしました。ブロードバンド事業が新しい技術だったのでありがたくも軌道にのり、大使館と年間の専属契約をとり、年間の報酬が支払われたタイミングで、ホームレスを抜け出そうと不動産屋さんを回りました。しかし、20件くらい回りましたが、住所不定で保証人もいないと契約を断られてしまいました。ある時、個人事業でやっている都内の不動産屋さんに話をしたら、とても良い方で『あなたは信頼できる人間なので信用します』とおっしゃっていただけて、ホームレス状態から抜け出しました」

-よかったですね!それにしても、日本の不動産屋はホームレスに冷たいですね。

「不動産屋さんのみならず日本社会は欧米に比べホームレスに冷たいと思います。公園のベンチにホームレスが寝ないように仕切りが置かれたりしますし。ドイツにはホームレスのためのシェルターがある、アメリカでは支援する教会が充実していますが、日本は政府の支援制度も民間の支援団体もまだまだ少ないですね」

自身も困窮した経験から、同氏は現在、「子供の貧困問題」を支援しようと、経営するスポーツ&ミュージックバー「Wild Pitch(ワイルド・ピッチ)」(東京・飯田橋)で「こども食堂」を開催しているそうだ。昨今の日本社会は「自己責任論」が根強く、社会的弱者に冷たくなっているようにも筆者には感じられるが、このような民間の支援活動はますます重要性を増すのかもしれない。

(ジャーナリスト・深月ユリア)

© 株式会社神戸新聞社