ケーブルカーの車内でイケメン・イケボが民話を朗読 筑波観光鉄道が初めてのイベント列車を運行【レポート】

宮脇駅を発車する「もみじ号」。ケーブルカー宮脇駅は筑波山神社に隣接します。「お宮の脇の駅」が名の由来です

国の需要喚起策「全国旅行支援」がスタートし、2022年10月の日本はコロナ禍からの回復ムード一色。鉄道業界にも、観光・イベント関連のニュースがあふれます。観光列車は大手だけじゃない。乗車時間片道わずか8分間のケーブルカーも、知恵を絞ればイベント列車に変身させられます。

茨城県つくば市の筑波観光鉄道は紅葉シーズンに向け2022年10月13日から、初のイベント列車「バラのアートトレイン・ストーリーテラー’s レールウェイ」の運行を開始。11月10日までの期間限定イベントでは、筑波山を登り下りするケーブルカーの車内で、イケメン・イケボの俳優・声優が民話や神話をナマ朗読します。2022年10月12日の試乗会に参加しました。

関東エリアで2番目に古いケーブルカー

筑波山ケーブルカーは、山ろくの宮脇駅と筑波山頂駅を結ぶ1.6キロの鋼索鉄道。高低差495メートルで、大正年間の1925年に開業しました(戦後一時休止)。関東エリアでは箱根登山ケーブルカーに次ぐ、2番目に長い歴史を持ち、運営会社の筑波観光鉄道は京成グループです。

「西の富士、東の筑波」と称される美しい山容の筑波山には、西側の男体山(871メートル)と東側の女体山(877メートル)の2つの峰があり、ケーブルカーが登るのは男体山。女体山へは、同じ筑波観光鉄道の筑波山ロープウェイで登れます。

ケーブルカーで男体山へ、女体山に30分間ほど縦走してロープウェイで下山するのが一般的な観光登山スタイル。ケーブルカーの最近の利用客は年間30万人ほどで、ピーク時に比べ4割程度減少。コロナ禍による不振ばん回の狙いも込め、観光庁の助成を活用してナマ朗読列車を考案しました。

茨城の県花で車内をデコレーション

もう1両の車両「わかば号」。車体色が異なるだけで「もみじ号」と同形です

筑波山ケーブルカーは、赤色の「もみじ号」、緑色の「わかば号」の2両が交互に行き来します。イベント列車に変身するのはもみじ号。車内の床や天井を、県花のバラで埋めます。バラは、つくば市の北隣の石岡市にある「いばらきフラワーパーク」から直送しました。

そもそも茨城の地名は、「茨(イバラ)で城の守りを固めた」の伝承に由来するとか。ケーブルカーはイベント期間限定で、バラと車両をあしらったヘッドマークを付けます。

暗闇にうごめく化け物に挑みかかる

車内の天井からはパラが下がり、民話・神話の世界にいざないます

ストーリーテラー列車で語り手を務めるのは、菊田千瑛さん、小谷真矢さん、齋藤克弥さんら若手俳優や声優。プロの脚本家が、茨城の民話や、ギリシャ神話をアレンジした3本のストーリーを用意しました。

「しっぺいたろう」は、地元・つくばの伝説が原作。ある日、村の役人が泣いている両親と娘に遭遇。聞けば、娘を化け物のいけにえに差し出さねばならないという。化け物退治の大役を仰せつかったのが、霊犬「しっぺいたろう」。たろうは暗闇にうごめく化け物に、敢然と挑みかかる――。

イベント列車の運行期間は2022年11月10日までの土日祝日。11~14時台に発車する「もみじ号」すべて上下12本にストーリーテラーが乗り込み、物語を朗読します。

「つくば市の観光価値向上」(三輪社長)

もみじ号横でフォトセッションする三輪社長(前列左)と飯野副市長(同右)。後列はストーリーテラーの3人

試乗会では、筑波観光鉄道の三輪武士社長が「筑波山にきたことのない方が、来山するきっかけになれば……。イベント列車で、つくば市の観光価値を向上させたい」とあいさつ。つくば市の飯野哲雄副市長も、〝観光・つくば〟をアピールしました。

三輪社長によると、筑波山ロープウェイのイベント列車は今回がファーストケース。同じ京成グループの「京成バラ園」(千葉県八千代市)と情報交換する中で、ストーリーテラー列車の発想が生まれたそうです。

筑波観光鉄道は、イベントにあわせて期間限定デザインのきっぷも発売。券面に「しっぺいたろう」のほか、「弁慶七戻り」、「ガマの油」といった筑波山の伝説・名物をあしらいます。さらに、1日1枚程度の割合で「当たりチケット」もアトランダムに取り混ぜ、ゲーム感覚も楽しんでもらいます。

東京方面から筑波山へは、つくばエクスプレス(TX)と関東鉄道のバスを乗り継いで向かいます。イベントには、TXを運行する首都圏新都市鉄道と、関鉄が共催の形で名を連ねます。

記事:上里夏生

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