2つの事例にみる「相続トラブル」を招かないために決めておくべきこと

もし実家を相続する可能性がある場合、トラブルを防ぐためにできることはあるのでしょうか?

宅地建物取引士で上級相続診断士の小島一茂 氏の著書『“負動産”にしないための実家の終活』(同文舘出版)より、一部を抜粋・編集して相続トラブルを防ぐための準備について解説します。


相続トラブルを招かないために「実家」「自分の家」の未来を考えよう!

不動産の割合が高い相続は問題になりやすい

実家を相続する可能性のある人が、将来起こり得るトラブルを未然に防ぐにはどうすればいいのかを考えていきます。

まず、私の周辺で実際にあった事例を紹介します。

300坪の土地を長男と弟が共有し、住んでいました。

長男は前面道路に面した側を使い、弟は奥側を利用。弟の住む土地は道路に面していませんが、長男側の土地を通路として使って道路に出ていました(下記図参照)。

その後、長男が亡くなり、長男の土地は妻(弟から見て兄嫁)が相続することに。

すると、もともと弟と反りが合わなかった兄嫁は、弟が自分の土地を通路として使っていることに文句をいい始めます。さらに、実家のそばに転居していた兄嫁は、相続した土地を建売業者に売却したいといい出しました。

そうなると、そこに住んでいる弟としてはたまったものではありません。

双方の主張が衝突してすったもんだした揚げ句、弟は兄嫁の土地の一部を通路分として買うことになりましたが、決着がつくまでに2年以上かかってしまいました。

■共有の土地がトラブルに発展したケース

親からの相続で所有した共有の土地の持ち分は、長男が66.88%、弟が33.12%でした。区画を設けることもなくあいまいなまま兄弟で活用し、二次相続が発生したことでトラブルに発展した例です。

核家族化が進み、親戚関係も希薄になっている現代、このような相続争いは非常に増えています。

昔は長男が親のすべての財産を相続する「家督相続」という制度がありましたが、戦後に廃止され、現在では各相続人が平等に相続財産を分割する制度になりました。その結果、相続財産をどうやってうまく分割するかという問題が起こるようになっています。

特に不動産は、現金などと違って簡単に分割することができず、評価の算出方法も難しい財産です。「ひとまず、兄弟姉妹の共有名義にしておこう」などと考えがちですが、それが将来的に問題を発生させる可能性があります。

今は兄弟姉妹の仲が円満でも、今後はどうなるかわかりません。また、自分たちが亡くなった時に、子どもたち(つまりいとこ同士)が良好な関係を続けられるとも限りません。
共有名義の土地を相続することは、下の世代に迷惑をかける可能性を残します から、共有で相続するのは避けるべきだと思います。

介護を巡るトラブルは多い

親の介護が絡んでくるケースも、不動産の相続トラブルの要因になりがちです。

私の周りでこんなケースがありました。

2人姉妹で、長女は結婚して家を出て、次女は家に残って父親と暮らしていました。

ある時、父が家の将来のことを考え、長女の子(父親にとっては孫)と父親が養子縁組をして、一緒に住むことになりました。しかし、どういうわけか孫は途中で一緒に住むのをやめ、長女の家に戻っていってしまいました。

そんな状況で父親が亡くなり、相続が発生。相続人になったのは、長女、次女、養子である孫の3人です。

そして長女と孫は、父親の生前ほとんど何の世話もしていないのに、3分の1の均等相続を主張してきました。

ずっと世話をしてきた次女は納得がいかず、裁判に発展し、泥沼の争いに。

このようなケースは今後も増えていくのではないでしょうか。

相続財産が実家の土地・建物のみで、現金はほとんどないといったケースも問題になりがちです。

そのような実家に、たとえば長男が同居していたら、その分割方法に悩むことになります。もし長男が独身なら、相続発生後に実家を売却して、そのお金をきょうだいで分割して、自分は他に住むところを探すといった身軽な選択ができるかもしれません。しかし家族と一緒に住んでいたらそうはいきません。

売却して自宅をすぐに探すのは難しいので、自分が土地・建物を相続する代わりに、きょうだいには現金を渡す方法(=代償分割)が第一に考えられます。しかし、現金の持ち合わせがなければそれもできません。

また、長男が親の介護をしていたとなれば、相応の手間や費用がかかっていることになるため、その分、多めに財産をほしいと考えるはずです。そうすると分け前をどれくらいにするかできょうだいと揉める可能性があります。

協議がまとまらない場合は家庭裁判所の判断に委ねることになり、時間やコストがかかりストレスも溜まります。

フランクに話し合う場を設ける

相続トラブルを未然に防ぐために重要なことは、やはり 被相続人が相続人に対して自分の思いを明確に示しておくこと です。

元気で判断力があるうちに、何らかの形で相続の方法を伝えておく必要があります。亡くなってしまった後では何も伝えることはできないのです。

具体的な方法としては、遺言書があります。遺言書はちょっとハードルが高いと感じるようなら、エンディングノートでもかまいません。

いずれにしても、被相続人が相続人に対して、自分の思いを伝える機会が必要です。

親が住んでいる実家がどうなるのか、親が相続についてどう考えているのかが心配なら、 親と話し合う場を設けてください

親が「自分が死んだ後は子どもたちにこの家を使ってほしい」と思っていても、子どもは「実家の不動産に興味がない」という場合もあります。話さなければ双方の胸の内はわかりません。

そうこうしているうちに、親が認知症になってしまう可能性もあります。また、永遠のお別れが来て、本当の思いを聞けなかった……と後悔することも考えられます。

そうなる前に、親と話すきっかけをつくるようにしましょう。

普段、親と離れて暮らしていたとしても、正月やお盆などに帰った時、お墓参りに行った時、親戚の法事があった時など、家族が集まる機会は年に何度かはあるはずです。

ただ、法定相続人となる子どもたちが全員集合して「さあ、家族会議をしよう」と意気込んで詰め寄れば、親は「財産を狙われているのか?」とあらぬ疑いを持ち、話しにくい雰囲気になってしまうかもしれません。

昔話を聞くような雰囲気で、実家を建てた頃の話などをして、「将来的にはどうしようと思っているの?」とやわらかく切り出してみるのがいいのではないでしょうか。話を聞いてあげることは親孝行にもつながります。

その際、エンディングノートを買って渡してあげるのもいいですね。できるところから、少しずつ始めてもらうようにしましょう。

準備が9割! 「負動産」にしないために、いつからどんなことを決めておく?

親がいつまでも元気とは限らない

相続をスムーズに行なうには、準備が大切です。

特に、相続財産のなかに実家の不動産が含まれている場合は、それを将来的に「負動産」にしないためにも、早いうちから対策をスタートさせておきましょう。

いつぐらいから始めればいいのかと疑問に思うかもしれませんが、これについて明確な答えはありません。

少なくとも親や自分の年齢が目安になることはないでしょう。今は元気に見える親も、いつまで健康でいられるかはわからないからです。

私の母は54歳という若さで亡くなりました。私が28歳の時です。まさかそのような年で亡くなるとは思っていませんでしたが、一般的には特別珍しいこととはいえません。

厚生労働省「簡易生命表(令和2年)」を元に算出すると、主な年齢の死亡率(1年の間に亡くなる確率)は次のようになります。

  • 50歳男性の死亡率 0.245%
  • 50歳女性の死亡率 0.145%
  • 60歳男性の死亡率 0.623%
  • 60歳女性の死亡率 0.281%
  • 70歳男性の死亡率 1.676%
  • 70歳女性の死亡率 0.679%

たとえば60歳男性なら160人に1人、60歳女性なら355人に1人が、1年以内に亡くなるということです。

これを多いととるか少ないととるか、感じ方は人それぞれです。ただ、死亡率は年とともに徐々に上がっていきます。自分の親がいつまでも元気とは限りません。

そう考えると、相続について考え始めた今が、準備をするスタートラインと思ってもいいかもしれません。

一次相続が発生した時がいい機会

とりわけ真剣に考え始めるのに適したタイミングは、 両親のどちらかが亡くなり、片親になった時(一次相続) です。

たとえば父親が亡くなり、母親が残されたとします。この場合、母親と自分たち子どもが法定相続人になります。

この時は、否が応でも家族で財産について話し合わなければなりません。

多くの家庭で、母親がまだまだ元気なうちは、とりあえずは母親が、今後の生活のために全部の遺産を相続するという結論になることが多いでしょう。

そこで「自分たちは面倒な相続手続きから逃れられた」などと考えてはいけません。

いつ母親が亡くなり、二度目の相続(二次相続)が発生するとも限らないからです。

親の問題ではありますが、自分の問題でもあるのです。

だからこそ、 一次相続によって偶然発生した話し合いの機会を逃してはいけません 。この機会に、将来発生する相続についても話し合っておくことが大切です。

「お母さんは将来的にどうしたいの?」「もし介護が必要になって1人で家に住めなくなったらどうする?」というふうに、要望を引き出すようにしてください。

そのついでにエンディングノートや遺言書の作成もお願いしてみるとよいでしょう。

一方、親にとっても、自分の配偶者が亡くなった時は、子どもたちへの相続を考える一つのきっかけになります。

自分のことですから、主導権を握って話し合いを進めやすいはずです。子どもたちを集めて、自分の思いを伝えてください。また、子どもたちの考え(自宅を残してほしいかなど)も聞いてみるようにしましょう。

著者:小島 一茂

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