スーパーGTドライバー勝手にお悩み相談ショッキング Vol.34 安田裕信さん

 ファンのために熱いレースを展開してくれるスーパーGTドライバーたち。SNS等でも散見されますが、所属するチームやメーカーによって差はあれど、多くのドライバーが“繋がり”をもっています。そんなGTドライバーたちの横の繋がりから、お悩みを聞くことでドライバーの知られざる“素の表情”を探りだす企画をお届けしております。今回はNDDP RACINGの千代勝正選手から、GAINERの安田裕信選手に繋がりました。

 しばしばSNS等でも見られる、気になる2ショット。「へえ、あのドライバーたち、仲良いんだ」とファンの皆さんも驚くこともあるのでは。そんなGTドライバーの繋がりをたどりつつ、ドライバーたちの“素”を探るリレートークがこの企画です。これまでの連載は、まとめページを作りましたのでぜひご参照ください。

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 前回、千代選手からモータースポーツ全体を考えるアツい相談が出てきたこのコーナー。「もっと若い人たちにもモータースポーツを知ってほしいし、ドライバーだけではなく若手に入ってきて欲しい」という相談を、PONOS HIROTEX RACINGとしてレーシングカートチームを運営する、安田裕信選手に持ちかけてみました。

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■2009年から始めたカートチーム

──そんなこんなでよろしくお願いします! オートスポーツwebで『スーパーGTドライバー勝手にお悩み相談ショッキング』という企画を連載しておりまして。ご存知ですか?
安田裕信さん(以下、安田さん):知ってますよ!

──今回、安田くんには千代くんからお悩みを預かってきました。まず千代くんのお悩み相談に乗っていただければと思うんですが、これがかなり壮大なテーマでして。
安田さん:壮大!? 怖いねんけど(笑)。

──千代くんとしては『スーパーGTやモータースポーツをもっと盛り上げるためにいろいろなことをしてみたい』ということで、それこそもっとモータースポーツの人気が出るようにSNSをうまく使ったり、テレビ放送ももっと良くしたいとか、もっと若い人に知ってほしいということを言っていました。
安田さん:その悩みをなんで自分に!?

──という話から、モータースポーツにもっと若い人がどんどんと入ってきてほしいという結論になりました。なのでPONOS HIROTEX RACINGで若手育成も熱心にされている安田くんに、そのあたりどう思っているかを聞いて欲しいと。そもそも安田さんがカートチームを始めたのはいつくらいでしたっけ?
安田さん:自分がGT500に上がって、プロドライバーになったときです。2009年ですかね。GT300でチャンピオンを獲った次の年です。

──そう考えるとけっこう長いですね。
安田さん:長いですよ。一度も止めていませんし、全日本選手権もずっとやり続けています。

──おそらく読者のなかにはカートに詳しくない人も多いと思うので、主なチーム卒業生を教えてください。
安田さん:チームを立ち上げたときは藤波(清斗)、そこから菅波(冬悟)、小高(一斗)、牧野(任祐)、野中(誠太)、平良(響)、もちろん(大草)りきもいましたし、スポット参戦だったら角田(裕毅)もいました。あとは……忘れていた人がいたらかわいそうやな(苦笑)。もう長すぎてぜんぶ出てこないですよ。

■牧野任祐から変わったマインド

──カートチームを作ろうと思ったきっかけは?
安田さん:自分がカートが好きで父親にやらせてもらっていて、自分がプロになったときには、自分に関わってるスタッフに信頼があったので『やってみたい』と思って始めたんですよね。やってみたいと言っても、若いときのレースはお金がかかるし、自分も四輪に乗るときにお金で苦労した部分もあったので、信頼できるスタッフさんや、助けていただけるメーカーさんや企業の方など、そういった話をうまくして、『これはできるんじゃないかな』と思ってスタートしました。 若いときはチーム運営がどれだけ大変なことか分からなかったです。でもKONDO RACINGでスーパーGTに乗せてもらったときに近藤(真彦)さんからもいろいろと話を聞いたりしました。近藤さんはスポンサー活動などもうまくマネージメントされていて、それを見ながら、自分も勉強をしながらやりたいなと思って始めました。自分ひとりの力では絶対にチームはできないですし、スポンサーがいないとできない話でもあります。スタートはそこからです。

──といってもかなり大変じゃなかったですか?
安田さん:クルマを作ったりエンジンを作ったりしているスタッフの人たちがいちばん大変ですけど、僕もいろいろと契約ごとなどもやりました。揉めたことはないですけど、たしかに人を乗せて(レースを)するということはけっこう大変でしたね。

──自分もドライバーをやりながら、その大変なことをしていることは千代くんの答えにもなるかと思うんですが、やはり根底には『若手を育てたい』という思いがあるのでしょうか?
安田さん:正直、はじめは『若手をどうにかしてあげられたら』という思いはありませんでした。でも、任祐が家庭の事情でレースを止めるということになったときに『なんでこんなに才能のある子がレースを止めないといけないんだろう』と思いました。年齢も分かっていましたし、同じ関西の子だったので『カートのお金はウチが全部出すからレースを止めるな』と。カートに乗っていればいろいろな人の助けもくるし、一生懸命やっていたら何かが絶対あるからと。 それで任祐を乗せて、次の年にFIA-F4でチャンピオン争いをしたとき『自分はこういった役目をする、しないといけない立場なのかな』と、そのとき思いました。カートから四輪へは、カートで速くて四輪を練習して、メーカーのオーディションを受けてという流れが日本では多いです。でも、見えないところでけっこう大変な部分もあり、速い子がレースを止めてしまうということが嫌でした。それで、若い子がステップアップする架け橋になれればいいなと思いずっとやっています。たしかにチームをやりたかったのですが、今は『しっかりとドライバーを育てたい』という風に変わりました。

■レーシングドライバーをもっとメジャーに

──なるほど。この業界全体を盛り上げるために、それこそドライバーやメカニックもそうですし、メディアもそうで、やはり若い人がなかなか入ってこない部分がある。そういった意味ではドライバーは数こそ多くないとはいえ、若手が入ってくる方だと思うんですよ。
安田さん:ドライバーは若い人がいちばん入ってきます。ただ、速いだけで走っていても、あまり変わり映えはしない。そのドライバーのキャラや、有名な大きなスポンサーがついてスター性があるなど、そういった風になっていければいいかなとは思います。例えば『何億円でこの企業が誰々選手と契約!』とか、何かそういったことも欲しいかもしれない。金額が表に出てしまうけど夢があるといいますか、僕はそういう風になって欲しいと思います。 あと、ドライバーの移籍がもっとあった方が良いと思うんですよ。メーカーで固まりすぎてしまっていると思うんです。シーズンオフでも話題なりますし、F1なんて大きな移籍があって話題になるじゃないですか。業界としては、移籍があった方が面白いですよね。

──そういった意味では、夢がある業界にするというのはけっこう重要ですね。
安田さん:ただ『乗らせて下さい!』ではなく、難しいけど、どこかの企業が本当に若くて才能のありそうな選手と一緒にモータースポーツを盛り上げたいなど、そういったことは今自分にできる力はないですけど、そうなって欲しいという思いは正直ありますね。

──それこそ例えば、『自分に投資をしたら、5年後にはスポンサーさんにすごい恩返しができますよ』とかね。
安田さん:そう。有名になってからスポンサーになることは、誰でもと言ったら変ですけど、まだありえる話じゃないですか。ただ、まわりがスター選手を作るという、本当に才能のある子はそれでもいいかもしれない。例えば格闘技の試合などでも、すごいスター選手同士が戦ったりしています。このあいだ僕も観にいったんですけど、やっぱり盛り上がりはすごいんですよ。観ている人の年齢層も幅広いです。でもそれの何がすごいと言ったら、スター性ですよね。ふだんの選手のSNSにしろ、スポンサーについている企業などもそうです。……こういうこと言っていいんですかね(笑)? 正直なところ、やはりレーシングドライバーの知名度はまだまだ低いと思います。F1ドライバーだったらまだ違いますけど、レーシングドライバーは、こんなに人気があるスポーツですけど、そんなに街にいても声をかけられないし、日本のトップになっても正直あまりテレビCMもない。僕はその部分だと思っていて、誰かがひとりドーンと目立ってしまえば、それを目指す子もいるし、何億円の契約などもあるかもしれない。やはりそういったことは欲しいかなと思います。もちろんレースにもお金がかかってしまいますけど、何かはやりたいですね。

■スーパースターを作りたい

──盛り上げにはやはりそういったことが大事ですね。
安田さん:大事だと思います。そうなれば『僕もこういう選手を目指したい・なりたい』と若い子ももっと真剣になると思うので、千代の言っていることはすごくわかります。GT500に乗れた、スーパーフォーミュラに乗れたので成功ではなく、もっと変えていきたいという思いは確かにあります。でもこの質問は難しいよ! いろいろなことも絡みますし、自動車メーカーさんもたくさんお金を使っていて、すごくモータースポーツに還元はしているじゃないですか。でも、それでも知名度が少ないというのは誰が悪いという話ではないですけど、本当に僕は頑張って日本人の若いスター選手を上げていくところは結構本当にしています。 ダメなところは注意しますし、絶対にトップレーサーになるという気持ちで取り組まないといけないということも言っていますし、若いときからスポンサー営業の仕方も全部教育しています。やってはいますけど、ただグーンと上がるようなスター選手は本当に難しいです。僕は最近サッカー選手の三浦知良さんと会ったりしているんですけど、やはりオーラがあるんですよね。スターであるための振る舞いなどもすごいです。でも、かといってそれを真似して若いレーサーにやれと言っても、ただの生意気と言われるだけです。だから、その年齢になったスターのなり方と、若いときのスターであるアスリートの雰囲気かもしれないです。

──なるほど。なんとなく言おうとしていることは伝わります。
安田さん:細かい話ですけど、スーパーカーに乗ってサーキットに来るのもかっこいいですよね。

──それこそ我々の世代で言うと佐藤琢磨さんはやはりオーラがある(筆者は同い年です)。それこそミハエル・シューマッハーも生で見たことがありますけど、すごくオーラがあった。
安田さん:ルイス・ハミルトンもそう。カッコいいもん。

──なんならファッションモデルみたいなこともでるしね。
安田さん:でも今のスーパーGTもけっこう華やかになってきていますし、チームにもスポンサーがついて華やかにはなっていますよね。

──もうひと段階いければいいですよね。
安田さん:どうしたらいいんでしょうね。それにしても、千代の悩みというはなんで俺に来たんだろう?

──正直このお悩みは、千代くん的には坂東(正明)さんに振りたかったくらいでもあったんだけど、坂東さんに振っちゃうとこの企画終わっちゃうので、『若手を育てている安田さんに』……という流れだったのですよ。でも良い回答が来たんじゃないかな。
安田さん:でも、僕は若いドライバーを育てることはしてますけど、その選手をトップスターにするということは難しいです。

──それはメディアの役目なのかもしれない。
安田さん:……う〜ん。やっぱりこの質問難しいよ。ハードル高い!

2022年F1第18戦日本GP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

■『あのオッサンうるさいよね』と思われてないかな?

──ではこの話はこのあたりで終わりにしましょ。盛り上がりすぎました(笑)。で、安田くんは最近お悩みある?
安田さん:そっか。自分のことも言うのか(苦笑)。

──もう安田くんもベテランの域に達してきているとは思いますけど、レースのことでもいいですし、超プライベートなお悩みでも大丈夫。そのお悩みを誰かにぶつけて下さい。
安田さん:いきなりは出てこない! ちょっと一度考えます(笑)。えぇ〜。悩みぃ!?

──くっだらないことでもいいっすよ。
安田さん:どうしようかな……。最近、自分も30代後半(38歳)になってきていて、いまカートで面倒をみている子が14歳とかなんですよ。さらに、もっと若い8〜9歳の子も面倒みているんですけど、なんというか、自分が教育したり怒ったりもしていると『イヤなおっさんだな』と思われているんじゃないかと。

──まあ、思うかもね(苦笑)。
安田さん:そう思われていたら寂しいなと。その子のためにやってあげているけど、実は『あの人うるさい』とか言われていたらイヤじゃないですか。ただ、(大草)りきだと22歳くらいでもう大人なので、そのくらいの年齢だとぜんぜん何を言われても別に大丈夫ですけど、14歳の子と移動を一緒にしていたり、9歳の子にカートを教えていたりすると、思いきり怒りたくても怒れないときがあるんですよ。

──それはあるかも。たぶん子どもにしたら『うっせーな』くらいな感じに思っていて、そのときには言われていることが分からなくても、5〜10年後には分かる……みたいなことですよね。
安田さん:そうです。それが20代の子や10代前半、さらに10歳くらいの子にもしっかりと指導をしていこうと思っているんですけど、心の中で僕がいないとき『あのオッサンうるさいよね』とか話していたらイヤです。

──それはたしかに悩みかも(笑)。
安田さん:悩みです。どこまで怒っていいのか、教えたりするときもどこまで教えればいいのかは、ちょっと難しいときもあります。根本から『お前は礼儀がなってない』と怒った方がいいのか、そこは子どもだから抑えた方がいいのか……。

──その悩みをスーパーGTドライバーの誰かにぶつけてほしいんですけど、これは難しい。
安田さん:GTドライバーと言っても年齢がね。

──これを例えば(同じくカートチームをやっている)高木虎之介さんにぶつけたら答えてくれそうな気もする。
安田さん:でも虎さんはめっちゃ怒っているイメージがある(笑)。誰か子どもにカートをやらせている人いないかな。

GAINER TANAX GT-R

■『ウチにいたとき、どう思ってた?』を聞いてみましょう

──例えばヤマハFormula Blueの講師の片岡龍也くんとか。
安田さん:片岡さんのところはみんな年齢がウチより上ですね。でも、同い年でもまったくその子によって人としての性格は違うじゃないですか。そのあたりもいろいろな子がいるから難しいですよね。

──それこそ怒って伸びるタイプもいますしね。
安田さん:怒って伸びるタイプもいれば、本当にイヤになるタイプもいる。(佐々木)大樹、ロニー(クインタレッリ)さんとか……。そう考えるとあまり育成に携わっている人いないですよね?

──意外にいないねぇ。
安田さん:伊沢(拓也)! もう出た?(2021年から『CUORE(クオーレ)』を立ち上げ全日本カートに挑戦)

──出てるけど別にいいっすよ。
安田さん:いや、出ていない人にしよう。誰かいないですか? ……そもそも千代の質問が難しすぎる。

──それこそ引退したドライバーが育成をしていることはありますけど、現役ドライバーで育成をしている人はあまり聞いたことないかな〜。じゃあ最近までカートに乗っていた人に『若手は実際のところどうなの?』と聞いてみるのもアリだと思う。超若手ドライバーになってしまうかもだけど。
安田さん:例えば誰ですか?

──GT300でいちばん若いといったら野中誠太とか。
安田さん:誠太にしよう。それで『ウチのチームで走っていたとき、本当はオレのことどう思っていた?』と聞けば面白くなりそう(笑)。

──超本音で語ってくれなさそうだけど、そこは敢えて本音を言わせよう。
安田さん:任祐は年齢が行き過ぎいて面白くはならなそう。誠太は『はい』と言いながらも、ホントは心のなかで『オッサンそんなこと分かってるよ』と思っていたのかどうかを聞いてみましょう(笑)。

──それでいきましょう!

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 というわけで、2回連続でアツい内容が続きましたが、読者の皆さんも考えさせられるところもあったのでは。そんなこんなで次回はHOPPY team TSUCHIYAの野中誠太選手が登場です。カート時代、安田選手からのアドバイスをどう思ってたのでしょうか……!?

GAINER TANAX GT-Rをドライブする安田裕信/石川京侍

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