南アの巨大クレーター「フレデフォート・ドーム」衝突した天体は従来予想より大きい?

【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星「ランドサット8」が撮影したフレデフォート・ドーム(左下)(Credit: NASA/Lauren Dauphin)】

ロチェスター大学の博士課程学生だったNatalie Allenさん(現在はジョンズ・ホプキンス大学)を筆頭とする研究チームは、南アフリカ共和国にある巨大な衝突クレーター「フレデフォート・ドーム」(Vredefort Dome, Vredefort Crater)を形成した天体の直径が、従来の予想よりも大きかったとする研究成果を発表しました。

フレデフォート・ドームは今から約20億2300万年前、小惑星とみられる天体が衝突した際に形成された衝突地形です。現存するものとしては最古級(※)のクレーターで、2005年にはユネスコの世界自然遺産に登録されています。長い時間をかけて地形が侵食されたため、現在のクレーターの姿は20億年前とは異なります。「ドーム」と呼ばれているのは、クレーターの中央に位置する直径70kmほどの隆起した地形です。

※…現在までに地球で確認された最古の衝突クレーターは、オーストラリアにある約22億2900万年前に形成された「ヤラババ・クレーター」です。

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■衝突した天体は推定直径20~25km、放出されたエネルギーは従来予想の最大3.7倍

研究チームによると、従来はフレデフォート・ドームが形成された天体衝突について、天体の大きさは直径15km・衝突時の速度は秒速15kmという推定値が広く受け入れられてきました。この数値は直径約172kmのクレーターが形成されたシミュレーション結果をもとに算出されたものの、最近では新しい地質学的な証拠や測定値をもとに、形成当初のクレーターは直径250~280kmだったと推定されているといいます。

そこで研究チームは、最新の知見を反映させた新たなシミュレーションを行いました。その結果、直径250kmのクレーター形成を再現するには、天体の大きさは直径20~25km・衝突時の速度は秒速15~20kmでなければならないことがわかりました。より大きな天体がより速く衝突したことになるため、衝突時に放出されたエネルギー従来の予想と比べて1.67~3.7倍になるといいます。

今から約6600万年前に地球へ衝突して「チクシュルーブ・クレーター」(Chicxulub crater、直径約180km)を形成した天体は、直径10kmクラスだったと推定されています。この時代は中生代白亜紀と新生代古第三紀の境界にあたり、チクシュルーブ・クレーターを形成した天体衝突は恐竜をはじめとした生物の大量絶滅を引き起こした原因になったと考えられています。

【▲ 約6600万年前に起きた天体衝突の様子を描いた想像図(Credit: Chase Stone)】

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研究に参加したロチェスター大学助教授の中島美紀さんによれば、チクシュルーブ・クレーターよりも大きなクレーターを形成し、より大きなエネルギーを放出した可能性があるフレデフォート・ドームの天体衝突では、さらに広い範囲に影響が及んでいたかもしれません。衝突で発生した塵やエアロゾルは太陽光を遮って寒冷化をもたらすとともに、光合成生物に壊滅的な影響を与えた可能性があります。塵とエアロゾルの影響は数時間から10年ほどで落ち着くものの、その後は衝突で放出された二酸化炭素などの温室効果ガスによって、地球の気温が長期間に渡り数度上昇した可能性もあるようです。ただし、20億年前の地球に生息していたのは単細胞生物ばかりで、樹木などはまだ存在しなかったため、大量絶滅や森林火災の発生などを示す痕跡は残っていないといいます。

また、今回のシミュレーションでは衝突時に放出された噴出物(イジェクタ)と、その噴出物がクレーターからどれくらい離れたところまで移動したのかを分析することもできました。研究チームがシミュレーションから得られた情報をもとに過去の陸地の位置関係を調べたところ、ロシア北西部のカレリアでフレデフォート・ドームに由来するイジェクタ層が見つかった場所は当時、衝突地点から2000~2500km未満しか離れていなかったことがわかったといいます。

現在のフレデフォート・ドームからカレリアまではざっと1万kmほど離れていますから、それぞれの地域を含む陸塊はこの20億年で8000kmほども離れるように移動したことになります。「はるか昔の陸塊の位置を制約するのは非常に難しいのです。現在の最良のシミュレーションでは10億年前まで遡りますが、それよりも遡ろうとすればするほど不確実性が高まります」そう語るAllenさんは、イジェクタ層のマッピングといった証拠を明確化する研究が、現在のシミュレーションモデルを検証し、過去の大陸移動をすべて見通す上で役立つかもしれないと期待を寄せています。

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文/松村武宏

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