代替たんぱく事業者向けのESG情報開示枠組み誕生

代替肉のソーセージ Photo by LikeMeat on Unsplash

畜産関連の投資家ネットワーク「FAIRRイニシアティブ」(英ロンドン)と、代替たんぱくを推進する国際非営利団体「Good Food Institute」(以下GFI、米ワシントンD.C.)はこのほど、代替の肉や水産物、卵、乳製品を生産・販売する企業が気候変動・生物多様性・栄養といったESG課題への自社のインパクトをより正確に評価できるようにするためのESG情報開示ガイドラインを開発した。

ガイドラインの誕生により、代替たんぱく事業を行う生産者や小売業者、製造業者は自社のESG関連のインパクトを正確に報告できるようになる。

68兆ドル(約9800兆円)の総資産を有するFAIRRイニシアティブとGFI の2団体は今回、ユニリーバやダノン、アレフファームズ、英国のWWFなど50以上の企業や投資家、NGOのほか、ESG・LCA(ライフサイクルアセスメント)の専門家らの知見をもとにフレームワークを共同開発した。今後は二酸化炭素の排出量や土地利用、水、栄養に関する事業活動のインパクトなどESGへの取り組みを報告するためにこのガイドラインを活用したいと考える企業と連携していく方針だ。

畜産が抱える課題解決と投資の促進に期待

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人類がこれまで行ってきた肉や卵、乳製品の生産は非常に資源集約的で、農地利用の77%、水の使用量の約3分の1、世界の温室効果ガス排出量の約14.5%を占め、森林破壊を引き起こし、他のどの産業よりも多くの抗生物質を使用するなどさまざまな課題を抱えている。それでも、既存の畜産業は人類が消費するたんぱく質の3分の1しか供給できていない。

こうしたことに加え、気候変動や自然資本、食料安全保障に関する懸念は重大な財務リスクとしてますます深刻になっている。例えば、IPCCによると、熱帯・亜熱帯地域では熱ストレス(高温により引き起こされる健康被害)が原因で、牛肉の世界生産額が今世紀末までに14%ほど下がるという。

気候・自然関連の情報開示は特定の地域でまもなく義務化される見通しだ。新たなガイドラインは、食品産業が代替たんぱく事業を通してESG関連の自社のインパクトを高め、ベストプラクティスを確立していく上でも不可欠だ。

一方、金融機関は、このガイドラインによって企業活動に関する透明性があり現実的な洞察を含んだ情報開示や指標を得られるため、投資が促進されることが期待されている。

専門企業、総合企業向けの2種類のガイドライン

FAIRRとGFIが無償で公開するガイドラインには、「専門企業向け代替たんぱくESG報告フレームワーク」と「総合企業向け代替たんぱくESG報告フレームワーク」の2種類がある。フレームワークは業界の最良事例をもとにつくられており、投資家や行政、消費者が一つひとつの代替たんぱく事業について、正確な情報を得るための手段となる。

情報開示に伴う企業負担を考慮し、既存の情報開示フレームワークにもある程度一致するように設計されている

GFIのシャーリン・マレー氏は、「代替たんぱく事業を手がける企業が、ESGの観点から見た自社の事業の優位性を多く伝えることができる情報開示のためのツールをつくり出せたことを嬉しく思います」と語る。

「代替たんぱくは、従来の動物性たんぱくに比べて温室効果ガスの排出量が大幅に少なく、食品の安全性や栄養面においても高い優位性があります。代替たんぱく産業は、責任ある持続可能なビジネスを構築するために民間セクターと連携を進めており、各社は今回のフレームワークによってESGの観点から自社が先進的な企業であることを示せるようになります」

調査によると、多くの植物由来の代替肉製品の環境負荷は、既存の動物由来の食肉製品の5分の1から10分の1以下であることが分かっている。植物性や発酵性、そして培養された肉、水産物、卵、乳製品などの代替たんぱくは、増加するたんぱく質の世界的需要を満たしながら、食料生産の脱炭素化を促進するものとして期待が高まる。

事実、持続可能な食料システムの構築に特化したインパクト投資会社「ブルー・ホライズン(Blue Horizon)」と ボストン・コンサルティング・グループが今年公表した報告書によると、世界の温室効果ガスの排出量の25%は食品バリューチェーンからで、代替たんぱくへの世界規模での転換は気候危機に対処するための最も資本効率が良く、インパクトの高い解決策だということが分かった。

求められてきた産業共通のフレームワーク

代替たんぱくへの投資は2021年までの5年間で91%の平均成長率を記録しており、2040年までに売上高は最大で1兆1000億ドル(144兆円)に達し、食肉市場の60%を席巻すると予測されている。しかしこれまで、代替たんぱくの製造・販売を手がける企業の豊富なESGデータを評価・開示するための包括的基準はなかった。

食料システムの変革を目指す投資運用会社「シンセシス・キャピタル(Synthesis Capital)」の共同創業者ロージー・ワードル氏は「フレームワークは、サステナビリティのインパクトを測定するために切望されてきた構造と一貫性を兼ね備えています。既存のESGポリシーや投資プロセスに統合し、企業のパフォーマンスをより詳細に理解し、長期的インパクトを評価するのに役立てたいです。代替たんぱく事業を行うスタートアップが成長し、やがて未来の食品業界で大手企業になる上でも、今回の専門企業向けのフレームワークに沿って情報開示に取り組むことは役立ちます」と語る。

専門企業向けのフレームワークは、肉や乳製品、乳清たんぱく、ゼラチンなどの代替たんぱくを主に扱うメーカーや原料サプライヤー向けに設計されている。フレームワークには、調達や認証、消費者エンゲージメント、土壌の健全性、プラスチック廃棄物、水の消費量と栄養といったESGの全領域において最も重大なリスクと機会に関する項目が含まれている。

菌類由来のたんぱく質「マイコプロテイン」を生産・販売する米コロラド州の企業「マイコ・テクノロジー(MycoTechnology, Inc.)」のリサ・ウェットストーン氏は企業にとってのメリットをこう話す。

「このフレームワークがあることで、企業の社内戦略や意思決定においても、さらに消費者にとっても、理にかない、意義のある方法でポジティブインパクトを測定し、伝えられるようになります。当社のような小規模なスタートアップから成長段階にあるスタートアップ、大手企業にいたるまで、ESGデータを収集し、解釈する方法は非常に多く存在します。私たちの産業はまさにそういう状況で、共通言語がないのです。このフレームワークを標準化して土台とすることは、全ての企業にとっての手引きとなり、産業全体の底上げにつながります」

一方で、総合企業向けのフレームワークは、従来のたんぱく質と代替たんぱく質両方の製品ポートフォリオを有する食品会社や小売、製造、動物性たんぱく質の製造業者向けにつくられている。このフレームワークは、既存のフレームワークをもとにすでに報告・情報開示しているデータを補完する目的で設計され、ロビー活動や水管理、資源循環などの代替たんぱく事業に関するESG情報の開示について案内するものだ。意思決定者が動物性たんぱく事業と代替たんぱく事業を比較できるようにし、企業が気候や生物多様性、社会、ガバナンスに関連する目標を達成するために事業転換する支援を行う役割を果たす。

総合企業向けのフレームワークについて、植物由来の食品を販売する米イリノイ州のプラントプラス・フーズ(PlantPlus Foods)のベアトリス・フラヴニツカ氏は「これは包括的なフレームワークです。代替たんぱくと従来の動物由来のたんぱくのESGのリスクと機会を比較し、それに対処できるようにし、ESGのベストプラクティスに沿って、ステークホルダーにとって本当に重要な情報を開示するものです」と評している。

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この記事の原文は www.sustainablebrands.com に掲載されています。

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