工場から排出された一酸化炭素を原料に使ったランニングシューズ スイス企業が開発

The Cloudprime © On

スイスのスポーツブランド「On(オン)」はこのほど、工場から排出された一酸化炭素をリサイクルしてつくった高性能クッション材を使用したランニングシューズ「クラウドプライム」を発表した。シューズのアッパー部分には同じく工場から排出された二酸化炭素を原料につくられたポリエステル繊維が使われている。

一足のランニングシューズが生産され廃棄されるまでに排出される二酸化炭素の量は約13キログラムといわれる。伸縮性があり、泡のような触感を持つ、石油由来のエチレン酢酸ビニル(EVA)は靴底に使われる素材として人気がある一方、製造に伴う二酸化炭素の排出が課題だ。また近年は、オールバーズやリーボック、ティンバーランドなど、製品のサステナビリティを高めるために植物由来の代替素材を取り入れるブランドが増えてきた。

こうしたなか、オンはシューズ業界で初めて、靴のミッドソールに使われるエチレン酢酸ビニルフォームの原材料として一酸化炭素を利用する技術開発に取り組んできた。日本の大手企業なども連携する米バイオテクノロジー企業「ランザテック(LanzaTech)」やオーストラリアの樹脂メーカー「ボレアリス(Borealis)」、フランスのエンジニアリング・テクノロジー企業「テクニップエナジーズ(Technip Energies)」との協働で開発を進めてきた。

そしてこのほど、一酸化炭素からできたエチレン酢酸ビニルフォームを使った高性能クッション材「クリーンクラウド」を使ったランニングシューズを誕生させたのだ。クリーンクラウドは今後、靴の別のパーツやほかの製品にも使用される予定だという。

オンは将来的に、すべての製品に化石燃料由来の資源を使わず、完全に資源循環型の靴づくりを目指す方針だ。

新素材の製造過程は、まず、ランザテックが製鉄所などの工場から排出される一酸化炭素を空気中に放出される前に回収する。一酸化炭素は大気汚染物質の一種だ。そして、回収した一酸化炭素を独自の発酵技術によってエタノールに変換し、テクニップエナジーズがエタノールから水分を取り除きエチレンを生成。ボレアリスがこれを重合し、ペレット状のエチレン酢酸ビニルができる。

協業は、炭素の調達に対する世界の見方を変えるだろう

オンの共同創業者キャスパー・コペッティ氏は「排気ガスが環境汚染を引き起こす前に一酸化炭素を回収し、同時に石油燃料由来の資源からも脱却できるので一石二鳥です。新製品の誕生は、われわれの会社のみならずスポーツ業界にとっても非常に画期的なことです。5年前は夢のまた夢の技術でした」と語る。

ランザテックのジェニファー・ホルムグレンCEOは、「炭素が負債ではなく資源であると世界に示すことに継続して取り組んでいます。地球を汚染するものを日用品に変えていけば、地上から炭素を吸収する必要性を減らせると思います。今回の4社の協業は、炭素の調達に対する世界の見方を変えるでしょう」と話す。

ランザテックは、米サステナブル・ブランドが2015年に開催したイノベーションコンテストでの受賞経験を持つ企業だ。合成生物学やバイオインフォマティクス(生物情報科学)、人工知能、機械学習の専門知識と工学を活用し、工場から排出された一酸化炭素や二酸化炭素を含むガスが大気中に放出される前に回収し、独自の発酵技術を使って新たな日用品に生まれ変わらせるプラットホームを構築している。同社は、この革新的な炭素の回収・変換技術の応用を進めており、化粧品大手コティやブリヂストン、ダノンなどの大手企業と提携し、循環型社会の構築にむけて取り組みを加速させている。

ランニングシューズ「クラウドプライム」の靴底には、消費者から回収したプラスチック廃棄物をケミカルアップサイクルした熱可塑性ポリウレタン(TPU)を使用した素材が使われている。米カリフォルニアに本拠を置き、プラスチックの循環利用に取り組む「ノボループ(Novoloop)」と協働し開発した。アスリートも交えて実施した厳しい検査でも従来の化石燃料由来のTPUと遜色ないスペックが証明され、二酸化炭素の排出量の大幅な削減が実現した。アッパー部分には、フランスの繊維スタートアップ「フェアブリックス(Fairbrics)」と連携して開発した、工場から排出された二酸化炭素からできたポリエステル素材が使われている。

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この記事の原文は www.sustainablebrands.com に掲載されています。

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