岡山のタクシー 来秋にも値上げ 申請率7割超、運輸局が審査へ

JR岡山駅東口広場のタクシー乗り場。利用低迷や燃料費の高騰でタクシー料金にも値上げの波が広がろうとしている=14日

 岡山県内の一部のタクシー事業者が中国運輸局に提出していた料金の値上げ申請率が車両ベースで7割を超え、国が審査を始める基準に達したことが14日、分かった。11月18日までの期限内に申請の取り下げがなければ、中国運輸局が審査をスタート。認可されれば来年秋にも値上げが行われる見込み。

 県内事業者で最も早く手続きをした下電観光バス(岡山市北区厚生町)の申請は、岡山市・倉敷交通圏(倉敷市、早島町)での初乗り運賃を普通車788メートル480円から700メートル500円に改定し、距離や時間に応じた加算額も引き上げるなどの内容。中国運輸局は各社の申請内容を審査し、認可する場合は適正な値上げ幅を決定。下電観光バスの申請通りになった場合、岡山市・倉敷交通圏の初乗り区間料金は約16%の値上げになる。他社の申請内容は公表されていない。

 中国運輸局岡山運輸支局によると、14日時点で全142社2862台のうち、81社2029台が手続きを終えており、申請率は70.9%。新型コロナウイルス禍での利用低迷や燃料費の高騰などによる経営環境の悪化が背景にあるという。

 値上げが認可されれば、県内では運転手の待遇改善などに向けて実施した2020年2月以来となる。

重ねたコスト削減「限界」

 8月中旬、県内事業者の先陣を切って値上げ申請を行った下電観光バス(岡山市北区厚生町)の担当者は「車両数の削減に人件費の抑制…。さまざまなコストカットに努めてきたが、限界に達した」とため息交じりに話す。

 新型コロナウイルス禍で2020、21年度の売上高が例年の約4割に落ち込んだ同社。22年度は大型連休や盆休みに行動制限がなく、8割ほどまで回復したが「テレワークの普及で県外からの出張者は減り、終電後まで街で酒を飲む人も少ない。これ以上の回復は見込めない」。

 アフターコロナを見据え、同社が値上げ申請に踏み切ったところ、せきを切ったように他社も後に続いた。14日までに中国運輸局への値上げ申請を終えたのは全142社のうち、81社に上る。

 コロナ禍による利用低迷を受け、下電観光バスはタクシーの台数を約1割減らして車検代を圧縮。24時間対応の配車担当者の出勤を調整するなどして人件費を切り詰めてきた。

 9月中旬に値上げ申請した平和タクシー(同十日市西町)も運転手の勤務時間を減らすなどして稼働台数を制限し、運行経費を削ってきたが、ロシアのウクライナ侵攻などで燃料費が高騰。「コストカット分が全て吹き飛んでしまった」と言う。

 一方、利用者の思いは複雑だ。持病の検査のため、月に1回、岡山市内の病院に通う女性(80)=総社市=は「日用品や光熱費など、何もかもが値上げになっている。家計が一層苦しくなりそうで不安」とこぼす。会社員(35)=岡山市南区=は、業界を取り巻く厳しい環境に理解を示しつつも「取引先などとの親睦会が徐々に復活し、タクシーの利用回数が増えてきただけに値上げされるとつらい。飲み会の回数を減らすしかないですね」と諦め顔だった。

 タクシー料金の値上げの動きは全国各地に広がっており、東京23区エリアや香川県(島しょ部を除く)では既に決定。広島市中心部エリアでは申請率が7割に達し、12月にも審査が始まる見通しだ。

 「10月から引き上げられた最低賃金をタクシー料金に反映すべきだと訴える事業者は少なくない」と中国運輸局。「急激な社会情勢の変化で、各社の経営が悪化している状況を受け止め、しっかりと検討していきたい」としている。

 タクシー料金 初乗り運賃と、距離や時間に応じて加算される運賃の合計額。過当競争を避けるため、いずれも国が基準を設けている。岡山県内では普通車の初乗り運賃は2種類。788メートル480円と、1300メートル640円で事業者がどちらかを設定する。加算額は国が定める範囲内で自由に決定できる仕組み。経営環境の悪化などから、県内の多くの事業者は上限額に設定している。

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