「メタボ健診に医療費抑制効果なし」と日本の研究者が発表、衝撃広がる

 様々な生活習慣病を引き起こすとされる肥満の抑制策として、健康増進と、医療費抑制の目的で導入された「メタボ健診(特定健診)」が学術的な岐路に立たされている。日本の研究者が過去に実施された5万以上の特定保健指導の事例を解析し、医療費抑制効果がなかったことを突き止め発表したことが波紋を広げているのだ。いったいどのような研究発表なのか解説する。

「受診率は減ったが医療費は抑制されていない」

 研究成果を発表したのは、京都大学人間健康科学科の福間真悟准教授らの研究グループ。日本全国で導入されているメタボ健診における特定保健指導が、医療機関の利用および医療費に及ぼす影響を調査するため、過去の保健指導例を解析した。この特定保健指導は、健診を受けた際、腹囲が男性85cm・女性90cm以上だった場合を「健康リスクがある」として生活習慣の指導を行うもの。受けた経験がある人も一定数いるだろう。

 研究では比較対象も抽出する必要があるため、上記の基準の前後となる±6cmまでの例で、40歳〜74歳までを対象とした(健診時期は2014年の1年間)。対象となったのは5万1,213例にのぼる。研究グループではこの解析対象例について「介入後3年間の医療機関利用(外来受診日数、投薬回数、入院回数)および医療費(総医療費、外来医療費、入院医療費)」がどうなったかを評価すると設定し、2015年1月~19年12月までの医療費請求データに基づいて解析した。

「指導を受けた多くの人がそもそも健康だった可能性」を指摘

 解析した結果、特定保健指導をした例では、していない例と比べ外来受診日数が平均して1日ほど減っていたことが分かったが、処方薬や入院など、医療行為の減少に貢献した兆候は得られなかった。

 解析結果について研究グループは、現在の特定保健指導が医療費に及ぼす影響は限定的であり、その理由として、指導基準として設定されている腹囲値(男性85cm・女性90cm)は男性の中央値に近く、指導を受けた人の多くが健康だった可能性を挙げた。つまりそもそも基準がおかしいのではないか?という研究者としての疑問を提示したわけだ。この基準値については、身長、体重を一切考慮しない絶対値であるため、例えば力士であればほとんどが指導対象になってしまうなど、導入当初から疑問を投げかけられていたのは事実。今回の解析結果は学術的にそれを裏付けたともいえる。

 研究グループでは「よりリスクが高い集団を指導対象にするよう、確かなエビデンスに基づき改善することが重要」と提言している。

 国の健康促進策の柱として早期に導入されたメタボ健診と特定保健指導には、毎年約200億円の国費が投入されている。これだけの国費を投入し続けるからには、結果として医療費の削減効果や、国民の健康寿命延伸、疾患率の低下などで、具体的には毎年200億円以上の効果を生み出していなければ意味がない。医療費を抑制しなければ国が破綻する、と言い続けている政府には、この研究者のまっとうな疑問に応える義務があるのではないだろうか。

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