繁華街の通りで客引きするミニブタを抱えた動物カフェ店員…考えてほしい動物の気持ち【杉本彩のEva通信】

ブタカフェで飼われていたミニブタ=東京都内

近年多くの動物ふれあいカフェが開業している。猫カフェだけでなく、フクロウなどの猛禽 類、トカゲやヘビなどの爬虫類という野生動物とのふれあいを売りにするものも増えている。利用するお客は癒しを求めて気軽に訪れ、動物とのふれあいを楽しんでいる。しかしながら、動物の立場になってみて考えてほしい。繁華街や観光地の中にある、けっして広くない店舗内の密閉した空間は、動物にとっては不自然な環境だ。野生動物なら尚更である。長時間見知らぬ人たちに見られたり触られたり、動物にとってはストレスでしかない。

先日、繁華街を歩いていたら人だかりができていたので、なんだろうと思い見てみると、小さなブタを抱っこした若い女性がいた。どうやらオープンしたばかりのブタカフェの店員のようだ。腕に抱かれて“おくるみ”から顔だけ出したブタは、腕にすっぽり収まるほど小さな幼齢のマイクロブタだ。客引きと宣伝のため、マイクロブタを表に連れ出している。普段なかなか見ることはない珍しいマイクロブタなら、子犬や子猫以上に人を引きつけるだろう。ペットショップの生体展示販売でさえ、動物福祉への配慮から、今どきは店外に子犬や子猫を連れ出し客引きする光景は見ない。

マイクロブタカフェでは、ペットとして販売もする事業者が多いようだが、2、3年もすれば20kg、更に大きくなると40kgになることもあるようだ。それに、愛玩用、商業用の区別なく家畜伝染病予防法による感染症対策や餌の与え方、習性への理解など、犬猫の飼育よりはるかに高いハードルがあるはず。近年増加しているブタカフェの存在にも、懸念することが多い。

一般的には犬猫を扱うことが多い動物カフェだが、数年前から「フクロウカフェ」が大人気 だ。見た目にもかわいい、珍しいフクロウの写真をSNSなどにアップすれば「いいね」がもらえたり、そのつぶらな瞳のフクロウに癒されるのかもしれないが、人間が一方的に欲求を満たすことで、フクロウに大きな負担がかかる。フクロウカフェでは、フクロウが見えるよう、止まり木を低くしている。そのため、人がフクロウを見下ろすか、同じ目線で見ることになる。自然界では、フクロウは本来山地や平地の林の横枝にいる。また、夜行性のため普段は鬱蒼とした森の木が生い茂る中で鳴りを潜めているのに、カフェでは隠れる場所もない。高い位置に逃げようにも足が係留されているので、飛ぶこともできず、ひたすらじっとしていることを強いられている。ふれあいだと思っているのは人間だけで、フクロウにとっては逃げられないまま天敵にさらされているのと同じことだ。

また、フクロウカフェでは数多くの種類を扱っているところが多いようだが、種類によって生息地の温度が異なるので、部屋を分けるなどの配慮も必要だ。人間に合わせた室温は、寒冷地のフクロウには暑くて苦痛だろう。これらのフクロウの習性を考えれば、大きなストレスになることがわかる。拘束されて動けない動物を見せ物にするのは悲しい光景でしかない。フクロウの身になって、その苦痛を想像してほしい。

そして他にも、ブームとなったカワウソカフェがある。ふれあい需要で希少な動物を扱うカフェが増えると、密猟・密売、違法な密輸の増加につながる。生息数の減少で絶滅の問題も懸念され、海外からも問題視されている。野生動物をこのようなビジネスに利用することは、生態系への悪影響などさまざまな問題をはらむことになる。本来、野生のカワウソは家族で群れを作り、河川や湖沼、湿地帯などに生息している。カワウソが生きるに相応しい環境をカフェで再現することは不可能だ。 

近年動物カフェにおける動物福祉が問題となり、展示動物の不適切な飼養等に対する法整備もされた。犬猫の展示において、休息できる設備を自由に移動できる状態の確保や、休息時間の設定などだ。しかし、これはあくまでも犬猫の展示に関するもので、それ以外の動物に適用されるわけではない。事業者のモラルにゆだねられているということだ。

ここで改めて、動物福祉とは何かを振り返ってみたい。「動物が感受性ある生命であることを踏まえ、動物が精神的・肉体的に健康であるために、動物の習性に合った環境を再現し、苦痛や不快を最小限に抑えるよう配慮すること」を言う。動物福祉が満たされているかを判断する国際的な基準となる「5つの自由」という指針が以下である。

・飢えや渇きからの自由 ・不快からの自由 ・痛み、外傷や病気からの自由 ・本来の行動をする 自由 ・恐怖や苦痛からの自由 

これらが満たされている動物ふれあいカフェがどれほどあるのだろうか。フクロウならば、高い場所で身を潜められる環境だ。身を潜められたら客はふれあいどころか見つけることすらできずフクロウを売りとしたカフェは成立しない。動物ふれあいカフェは、「ふれあい」というより、触ってなんぼの「おさわり」のような商売ではないか。特に野生動物においては「本来の行動をする自由」は、まずもってカフェの中では難しい。

犬や猫でも人との暮らしは約1万年と言われている中、ここ数年でようやく食事など多くのことが見直されてきた。人間は、動物を飼うにはまだまだ未熟で無知なのだ。動物福祉を理解していない人は、まったく悪気なく楽しんでいるのだと思うが、このように動物にストレスを与え続けることもぜひ虐待だと知ってほしい。

当協会Evaが今年作った啓発ポスターのテーマは「おもいやりは、想像。」野生動物こそ、その種の本来の行動欲求について学び、私たち人間が想像するべきだと思う。(Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。  

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