メクル第669号 生物ライター・平坂寛さん(37)=長崎市出身= 「知る」と「分かる」は大違い!

その格好良さに、小学生の頃からあこがれ続けたグリーンイグアナの捕獲に成功=沖縄県・石垣島(平坂さん提供)

 長崎市出身の「生物ライター」平坂寛(ひらさかひろし)さん(37)は、興味(きょうみ)が向くままに世界を飛び回り、自分の手で生きものを捕(つか)まえて観察し、確(たし)かめたことを本や映像(えいぞう)にまとめています。その原点は、幼(おさな)い頃(ころ)に図鑑(ずかん)で見ていた生きものたちへのあこがれでした。

 新型コロナウイルス感染症(かんせんしょう)がはやる前は、多いときで年に20回以上は海外に出かけていたという平坂さん。大好きな生きもののことを「よく知りたい」一心で、グリーンイグアナを捕獲(ほかく)して食べてみたり、デンキウナギに感電してみたり、「かみついたら雷(かみなり)が鳴るまで離(はな)さない」というスッポンにまつわる言い伝えを確かめるために実際(じっさい)にかまれたりしてきました。その体当たりの研究成果は本や動画サイト「ユーチューブ」で見ることができます。

世界最大級の淡水魚、アリゲーターガー。1億年以上も昔から、ほとんど姿を変えていないという=アメリカ・テキサス州(平坂さん提供)

 ■岩屋山で収集(しゅうしゅう)

 平坂さんは子どもの頃、生きもの図鑑ばかり読んでいて、「大人になったら自分もこんな本を書く人になりたい!」という夢(ゆめ)を抱(いだ)いていました。幼稚園(ようちえん)や家の周りで、普段(ふだん)はあまり見かけない虫を捕まえては図鑑で調べました。小学生の頃には近所の岩屋山にも足を運ぶようになり、友だちと一緒(いっしょ)にクワガタやカブトムシ、魚を捕まえるのに熱中しました。
 成長しても夢は変わらず、大学も生きものの研究ができるところに進みました。しかし、大学では研究する種類を一つに絞(しぼ)らなければならなかったため、自由に研究成果を発信できるインターネットのブログに書き始めたそうです。

 ■「なぜ」大切に

 図鑑でしか見たことのない生きものに出合うため、各地を訪ねた平坂さん。しかし、教えてもらった場所に行き、何となく歩き回っても、姿(すがた)を見ることすらできないこともありました。「情報(じょうほう)を仕入れただけで知識(ちしき)として『知っている』のと、『分かる』は大違(おおちが)い」と実感しました。
 捕まえられなかったら、どうしていなかったのか。捕まえられても、なぜこの場所にいたのかと考える。体の特徴(とくちょう)や生活パターン、食べる物-、何が関係しているのかと考える。「答えにたどり着く過程(かてい)で、理解(りかい)の深さが全く違(ちが)ってくる」
 みんなに伝えたいのは「悩(なや)む前に動け!」ということ。実はライターの活動を始めるのに3年も悩んだそう。始めてみると、自分では予想しなかった方向に次々と変化が生まれていったそうです。
 「僕(ぼく)の本を読んでくれた子どもたちの中から、次なる研究者がそろそろ出てくる頃かも」-。幼い頃、自身が図鑑の著者(ちょしゃ)にあこがれたように、生きもの好きな人たちがどんどん後に続いてほしいと平坂さんは願っています。

 【プロフィル】1985年9月10日、長崎市生まれ。市立西町(にしまち)小―緑(みどり)が丘(おか)中―県立長崎北高―琉球(りゅうきゅう)大理学部海洋自然科学科―筑波(つくば)大大学院生命環境(かんきょう)科学研究科博士前期課程修了(かていしゅうりょう)。大学院生の時からライターとして活動。2020年2~6月、長崎新聞で「ヘンな魚を釣(つ)りたい!」を連載(れんさい)。沖縄県在住(おきなわけんざいじゅう)。


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