オアシスやプライマルを見出したアラン・マッギーに訊く! 映画『クリエイション・ストーリーズ』はどこまでホント?

『クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~』 © 2020 CREATION STORIES LTD ALL RIGHTS RESERVED

伝説の男に会った。正確にはオンラインですけど。ザ・ビートルズを世界一のアイドル・バンドにしたブライアン・エプスタイン、レッド・ツェッペリンのマネジャーとして「お前らプロモーターの取り分は1割だ、俺たちが9割いただく」と後のロック・バンドが神のように君臨できる音楽ビジネスを作ったピーター・グラント、そしてパンクという音楽でロックの歴史を変え、若者の価値観まで変えたセックス・ピストルズのマネジャー、マルコム・マクラーレンと並ぶ、伝説のマネジャー/レーベル・オーナー、アラン・マッギーに。

そんな彼の波乱万丈の人生を描いた映画『クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~』が、エプスタインやグラント、マクラーレンを差し置いて完成した。

アランもリスペクトする<ファクトリー・レコード>のオーナー、トニー・ウィルソンの映画『24アワー・パーティー・ピープル』(2022年)に匹敵するくらい、『クリエイション・ストーリーズ』は面白い。やっぱりそれは脚本が、あの『トレインスポッティング』(1996年)の原作を書いたアーヴィン・ウェルシュだからかもしれないし、ロンドンでパブの2階を借りてコンサートを仕切り、ファンジンを作り、その儲かったお金でレーベルを作り、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやオアシス、プライマル・スクリームなどイギリスを代表するバンドのレコードをリリースしてきたアランの人生が面白すぎるからなのかもしれない。そんなアランに映画の内幕を訊いた。

「ドント・ビリーヴ・ザ・ハイプだよ」

―アラン、現在は何をされているのですか?

バンドのマネージメントだね。ハッピー・マンデーズ、オーシャン・カラー・シーン、キャスト、セックス・ピストルズのポール・クックのバンド、ザ・プロフェッショナルズのマネージャーなどをやっているよ。

―おー! ついにアランもピストルズと関わりだしているのですね。『クリエイション・ストーリーズ』と今、一番比較される作品はドラマ『セックス・ピストルズ』(2022年)だと思うのですが、観ましたか?

試写会にプロデューサーと一緒に観に行っただけだから、まだ1話と2話しか観てないんだ。

―あまり面白くなかった?

そんなことないよ。ハッピー・マンデーズのショーン・ライダーは全部観て、ファッキン・アメイジング(スゴい)って言ってたよ。

―あなたがロック・フェスティバルを開催するという噂があるのですが、どんなフェスティバルになるのですか?

何も考えてないよ、やるかどうかも分からない。一応、2023年9月23日のスケジュールだけは押さえているんだけど。

―あなたの新しいレーベル名は<クリエイション23>です。23は神秘主義者にとって重要なナンバーですが、そういうものを信じているのですか? 映画でアレイスター・クロウリー(イギリスのオカルティスト)の崇拝者だったと知って、びっくりしました。

あれは脚本を書いたアーヴィン・ウェルシュが勝手に作ったんだ。面白いからいいけど、ドント・ビリーヴ・ザ・ハイプだよ。

―よかった。あなたの自伝ではアレイスター・クロウリーについて一切触れられていなかったので、不思議だなと思っていたんです。

「ボビーのことは彼が11歳の頃から知っている」

―オアシスとの出会いも、自伝では妹に女性を紹介してもらいに行ったのに、映画では電車に乗り遅れたから、と変わっていました。でも世界一のロック・バンドと出会ったことは間違いありません。彼らを観て「これは次のビートルズになる」と思いましたか?

いや、全然。

―本当ですか!? プライマル・スクリームのボビー(・ギレスピー)、アンドリュー(・イネス)と何十年も友情関係を結ぶことになるとは思っていましたか?

ボビーのことは彼が11歳の頃から知っているけど、こんなに長く友情が続くなんて思いもしなかったよ。

―そんなボビーとも一時は喧嘩して口もきかなくなっていましたよね。

50年間の間での5年ほどだよ。そういう時期も必要だったんじゃないかな。

―でもまさか、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン(・シールズ)に、映画で描かれいるような酷い仕打ちを受けるとは思いもしなかったのでは? すごく笑えるエピソードでしたが、あれもアーヴィンが作ったのでしょうか?

あれは本当にあった。

―じゃあ、ケヴィンとは今も口をきいていないとか?

そんなことないよ、ケヴィンとは6、7年前にダブリンで会ったけど、普通に話したよ。とてもいい感じだった。僕の側からそう見えていただけかもしれないけど。

「一番好きな“音楽映画”は……」

―アーヴィンが『トレインスポッティング』に匹敵する面白いエピソードを付け足したとしても、あなたの自伝とこの映画の関係性はブレません。労働者階級の子供が、無茶をやりながら音楽業界でトップに立つというストーリーは誰もが感動すると思うのですが、現代の若者にはあなたと同じような体験をすることは難しいのではないでしょうか?

確かにね、昔の方が簡単だったかもしれない。でも、今は携帯一つで全てを変えてしまう可能性もあるよね。

―映画では、音楽ビジネスのドタバタ以上に当時のいろんな音楽が楽しめますが、その中でも個人的に一番良かったのは、あなたとプライマル・スクリームのアンドリューが一緒にやっていたバンド、ザ・ラフィン・アップルです。映画用に録音しなおしたんですか?

何もしてない。当時のままだよ。

―えっ! すごいポスト・パンクでカッコよかったです。

―では最後の質問です。あなたの音楽の趣味はよく分かるのですが、一番好きな音楽映画は何ですか?

うーん、10歳くらいの頃に観た『ビートルズがやって来る/ヤァ!ヤァ!ヤァ!』(1963年)かな。

―意外! でも『クリエイション・ストーリーズ』とテーマは同じですね。音楽の疾走感、音楽の楽しさ、バンド生活の不条理さ満載の、フェリーニーもびっくりなイギリスのヌーヴェルヴァーグな映画です。彼らのような人生を送れたあなたが羨ましい。そして映画の完成、おめでとうございます!

取材・文:久保憲司

『クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~』は2022年10月21日(金)より新宿シネマカリテほか全国公開

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