日本のインフレは米国と違う?今後、注目を集める経済指標とは

物価に関する経済指標の発表が相場に与える影響が高まっています。インフレがどれほど継続するかによって、金融政策の行方が変わってくるためです。なかでも経済大国である米国の動向は、市場の雰囲気をガラリと変えるほどの影響力を持っています。

10月13日(木)には米国の9月分のCPI(消費者物価指数)が発表されました。結果は総合・コア両方の指数ともに市場予想を上回り、インフレ減速の兆しは見られませんでした。株式市場は9月CPI発表直後こそ大幅下落で反応したものの、米国市場がオープンしたあとは大幅反発し、NYダウは1日の値幅がコロナショック時以来となる1,500ドルを超え、激しい値動きとなりました。

今後もインフレは市場に影響を与えていくのでしょうか? 過去の値動きを振り返りながら、今後のインフレと相場の関係性について考えていきたいと思います。


今年発生した“CPIショック”を振り返る

まずは、今年の米国CPIによるマーケットの反応について、振り返ってみましょう。CPIの結果が株式市場に大きくマイナスの影響を与えたのは、5月分が発表された6月10日(金)と、8月分が発表された9月13日(火)の2回です。発表日のS&P500の値動きを見ると、6月がマイナス2.9%、9月はマイナス4.3%と大きく下落しています。

指標発表後の株価の動きは、発表までにどれくらい結果を織り込んでいたかによっても変わってきます。大きく下落した際は、市場予想より高いインフレ率が公表されたことが失望感を生み、かつその後のインフレ抑制のための利上げ幅が大きくなることによる株式市場への悪影響を嫌気しての反応と分析できます。変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数を見ると、特に大きな下落となった8月分は7月分までの下落基調から大きく反発し、かつ市場予想も上回っていたということで、インフレピークアウト期待が剥落し、強い失望を生んだのでした。

直近発表された9月分を見ても、市場予想を上回りインフレピークアウトはしていなかったため、直後は大きく売られ、前月の再来かと思われました。しかし、事前から警戒感が高かったことで下げ止まった後は痛烈なショートカバーも入り、終わってみれば大幅反発でS&P500はプラス2.6%となり、やや意外な値動きとなったのです。

米CPIが大きな注目を集めるのもあと数回?

指標の内容としては8・9月分でむしろインフレは加速気味であったものの、値動きは正反対となったというのは1つ注目すべきポイントではないでしょうか。

これまでの市場は、インフレ率を見て利上げの最終地点を探っていましたが、今回の値動きを見ると、徐々に利上げの最終地点は見えてきたこともあり、利上げが停止した後の世界を見据えはじめているようにも思えます。すでにトピックとしては触れられる機会が多くなってきていますが、今度は高金利状態がいつまで続くか、あるいは利下げがいつから行われるかの議論への注目度が高まってくるでしょう。

利上げは景気が過熱する中で増加する需要を抑える目的があり、利下げは経済の停滞を浮上させる目的があります。これまでは利上げがどこまで行われるかがポイントであったため、物価の指標の注目度が最大級でしたが、利下げを考えるとなると経済の減速度合いや雇用状況などの指標の注目度が相対的に高まることが予想されます。

直近ではまだCPIの注目度は高いままであるものの、今後のマクロ傾向を見ていくうえでは、CPIだけに固執せず、GDPや雇用統計など幅広く指標に目を向けることが投資チャンスの発見、ならびに自分の資産を守ることにつながると筆者は考えます。

日本も値上げラッシュでインフレ率が上昇か?

米国ではCPIの注目度がピーク付近に達していますが、相対的にインフレ率が進んでいない、日本のインフレ率はどうでしょうか?

日本でも、8月分のCPIは総合が前年同月比で3.0%の上昇となり、約30年ぶりの高水準となっていますが、欧米ほどの上昇率ではありません。

一方で、現在関心が高まっているのが、10月に食料品などを中心に相次いで実施された値上げの影響です。ここで、株式会社ナウキャストが提供する日次物価指数の日経CPI Nowを用いて、直近の値上げの影響を見てみると、大きく変化していることがわかります。

最新の10月上旬までのデータを7日移動平均にして見てみると、直近では前年同月比の物価上昇率が4%を超えてきているのです。このデータはPOSデータを集計しているため、あくまで観測範囲は一部の領域であるものの、11月に発表される10月分の日本のCPIは先に触れた8月分からかなりインフレが加速することが予想されます。

ここで気になるのは、日本における値上げがどこまで続くかです。ここまでのインフレは供給要因が主導であり、米国などと違いインフレが賃金上昇に波及していない日本は、需要が増加しインフレが加速するフェーズにまだ入っていません。

その中で、ついに日本でも本格的にコロナ禍経済からの脱却を目指す動きが本格化しており、水際対策の緩和や全国旅行支援策が開始しています。これらの施策が経済を盛り上げることにより、需要増加が引き起こすインフレにつながるシナリオは考えておくとよいでしょう。

加えて、デフレマインドの強い日本において商品の値上げの理解を得るのは難しく、その結果、他国より緩やかにインフレが発生していることも考えられます。つまり、急速にインフレが迫られている他国とは異なる形で日本ではインフレが継続する可能性も想定されます。米国のCPIほど日本のCPIが株式市場に影響を与える可能性は高くないですが、特に11月以降の指標発表には関心を高めてみてはいかがでしょうか。

インフレのピンチも投資家としてはチャンスに

また個別銘柄投資の観点で見ると、値上げが消費者に受容されている企業は値上げの分、企業業績が改善することが想像できます。

日々の日常の変化を投資のヒントとして活用できるのは個人投資家の利点の一つです。家計にとっては逆風ともとれるインフレではありますが、ここは少し視点を変えて、投資家の目線で社会の変化と向き合ってみてはいかがでしょうか。

© 株式会社マネーフォワード