「ヤフコメ」のヘイトは、なぜ放置されているのか 偏見や差別を許容・助長する現状、ヤフーはどう答える?

 ニュースサイト「ヤフーニュース」は、各記事の下部に読者が匿名で感想を書き込めるコメント(ヤフコメ)欄がある。このコメントには違法なヘイトスピーチが多く含まれ、問題視されている。例えば、共同通信広島支局から最近配信した複数の記事にも、明らかにデマと分かる内容や差別が投稿されていた。
 ヤフーは対策として、問題があるコメントへの違反報告を受け付けたり、削除したりする仕組みを設けているが、十分に機能しているとは言いがたい。試しにヤフー側に取材し、私たちが問題だと判断した複数のコメントを指摘したところ、それらはすぐに削除されたが、指摘から漏れたコメントは、削除されたものと同様のヘイト表現でも残ったままになっている。こうしたコメントが削除されずに放置され、多くの人の目にとまることで、偏見や差別が許容されているように受け止められる恐れがある。このためヤフコメは「ヘイトの温床」とまで言われている。
 ヤフーは新たな対策として、2022年11月から、ヤフーのサービスを利用するために取得するIDに携帯電話番号を登録しなければ、ニュースにコメントできないようにした。電話番号登録の義務化によって、複数のIDを使って違反投稿を繰り返すのを抑制する狙いだが、その効果は現時点では未知数だ。
 差別を批判する趣旨で書いた私たちの記事に、ヘイト表現があふれているのは許容できない。黙って放置していれば差別に加担することになってしまうためだ。ヤフコメの現状と課題を取材した。(共同通信広島支局)

 ※実態を正確に報道するため、記事中にはヘイトスピーチを含みます。

ニュースサイト「ヤフーニュース」に掲載された共同通信の記事

 ▽「帰れ」法務省がヘイトと定義する表現も
 8月28日に出稿した記事「『差別が子供の日常奪う』 広島、朝鮮学校現状学ぶ」は、朝鮮学校の関係者たちがパネルディスカッションした集会を紹介する内容だった。ヤフーニュースに掲載されると、すぐに250件ほどのコメントが付いた。大半が、「朝鮮学校の暴力に迷惑してきたのは日本人」と学校を中傷したり、「被害者ぶることで優位に立とうとする」などと在日コリアンへの偏見をあおったりする内容だった。
 中には「差別されるなら自国に帰った方がいい」「気に入らないなら国に帰られたらいいのでは?」「祖国に帰ってくれてもいいんですよ」との書き込みも。これらは法務省が定義するヘイトスピーチの一種「特定の民族や国籍の人々を、合理的な理由なく、一律に排除・排斥することをあおり立てるもの」に当たる。

広島朝鮮初中高級学校の関係者をパネリストにした集会の様子=2022年8月28日、広島市

 ▽「ベトナム人」「左翼組織」とデマ
 9月2日に出した記事は「外国ルーツの子供に居場所を 広島、小屋改装費募る」。海外にルーツを持つ子供たちが遊べる場所をつくるため、小屋の改装費を募っていると紹介する内容だ。
 コメント欄には、記事中に出てくる女性に対し「このベトナム人の女、左翼組織に賛同しているヤバい人だ」と書き込まれた。そもそも女性はベトナム人ではない。この女性やベトナム人全体をおとしめる意図のある悪意あるデマといえる。女性はこう話す。「特定の人を傷つけるために人種を持ち出す時点で許されないし、顔が見えない人から攻撃されることで、身の回りにも差別的な考えの人がいるかもしれないと考えてしまう」

 ▽当事者は「ヤフコメは読まないようにしていた」
 朝鮮学校の記事で取り上げた広島市在住の在日コリアン3世の女性(57)は当初、「ヤフコメはひどいと分かっていたので、読まないようにしていた」という。必要に駆られ、改めて読んでみると予想どおりで、傷ついた。
 インターネットは誰にとっても情状収集に欠かせないツールだ。それだけに女性は心配している。「何も知らない人が読むと、ここに書かれてある差別やデマをうのみにしてしまうのではないか」。ヤフーは自らの影響力の大きさを認識し、対応すべきだとも話した。

 ▽差別禁止の規定と70人態勢の監視体制
 ヤフーが設ける「コメントポリシー」には、差別投稿やヘイトスピーチ、デマは削除する規定がある。
その中にある「禁止する投稿」は以下の3種類。「人種、民族を理由に、優劣をつけたり、知能が劣る、野蛮であるなどとしたりする投稿」、「特定の国の出身であることやその子孫であることを理由に、合理的な理由なく社会から追い出そうとする投稿」や「特定の国や地域の出身である人を、著しく見下し、昆虫や動物に例える投稿」だ。具体的な例としては「〇〇人は知能が低い」「〇〇人は日本から出て行け」などを挙げている。
コメントの監視は、ヤフーの広報担当者によると24時間態勢。研修を積んだ約70人の監視員と、独自開発した人工知能(AI)が監視している。AIが、コメントポリシーを基準に不適切さを採点し、点数が高いものを優先して削除するという。微妙な点数の場合は、監視員が削除するかどうかを判断する仕組みだ。
しかし、この説明通りだとすると、私たちの記事に付いたコメントの一部は、なぜ残されているのだろうか。削除されなかった「なんなら祖国へ帰ってくれてもいいんですよ?」「これだけ差別されるなら自国北朝鮮に帰った方が良いと思います」という表現は、コメントポリシーの「社会から追い出そうとする投稿」に当たると思える。その点を尋ねたところ、担当者は「個別のコメントに関する回答は控える」と述べた。疑問は解消されないままだ。

 ▽膨大なコメント量と、削除までの高いハードル
 取材を進めるにつれて、ヤフーが抱える課題が見えてきた。AIが監視し、削除する工程について、担当者はこう説明している。「自由にコメントできる機能を提供している以上、問題のないコメントまで削除されないよう、誤削除の可能性が極めて低いものをAIが自動で削除する」。つまり、削除には相当高いハードルを設けていると言える。
 具体的にどのような表現が削除対象なのかを重ねて尋ねたが「具体例を挙げると、その言葉を避けた問題コメントが書き込まれるようになる」として明言しなかった。
 ヤフーによると、ヤフーニュースに掲載される記事は1日約7500本で、それに付くコメントは1日あたり合計約35万件。一方、ヤフーが削除したコメントは1カ月で35万件。全体の3%に過ぎない。ある記事に特に誹謗中傷が集中する場合はコメント欄そのものを非表示にする措置も取っているが、たとえば措置を開始した2021年10~12月に非表示になった記事は216件で、全体の約0・05%だった。膨大なコメントの数に、対応が追いつかない現状がうかがえる。
 

「差別コメントの放置でヤフーが差別を助長している」と話すNPO法人「共生フォーラムひろしま」の笹川俊春理事=2022年10月13日、広島市

 ▽「差別を助長している」との声
 差別問題に取り組む広島市のNPO法人「共生フォーラムひろしま」の笹川俊春理事は、ネットニュースの運営会社だけでなく、行政にも責任があると指摘する。これまでにも、ヤフコメだけでなく、被差別部落をまとめたネット掲示板などの削除を広島法務局や運営会社に訴えてきたが、改善されていないという。
 笹川さんはこう批判する。「明らかな差別表現を放置することで、特定の人が傷つけられる状況が残り続け、差別を助長している」

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