ザ・ビートルズ『Revolver』の印象的なアートワークとB面全曲解説

Photo: © Apple Corps Ltd.

2022年10月28日に発売されるザ・ビートルズ『Revolver』スペシャル・エディション。この発売を記念して、『Revolver』の解説を連載として掲載。その第3回目。

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『Revolver』のタイトル候補

ザ・ビートルズには秀逸なアルバム・ジャケットが数多くあるが、『Revolver』は、『With the Beatles』『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』『Abbey Road』などと並ぶ印象的なデザインとして、ファンの間で人気の高い一枚だ。

ジャケットのデザインが決まる前に、まずアルバム・タイトルの候補がいくつかあった。その有力候補のひとつは、『Revolver』のレコーディング開始直後の1966年4月15日に発売されたザ・ローリング・ストーンズの『Aftermath』をもじった『After Geography』。これは、災害の余波を意味する“Aftermath”を“After”と“math/数学”に分け、“math”ではなく“Geography/地理”にしてしまうというリンゴならではの造語だった。

それ以外にも『Abracadabra』『Beatles On Safari』『Pendulums』『Magic Circle』『Four Sides Of the Circle』『Four Sides Of the Eternal Triangle』などが候補に挙がっていた。

その後、レコードがプレイヤー上で回る(音が流れる)イメージを元に、“回転”を意味する『Revolve』からの流れでアルバム・タイトルは『Revolver』に決まった。

親友によるアルバム・ジャケット

当初は『With the Beatles』から『Rubber Soul』までのアルバム・ジャケットの写真を撮影していたロバート・フリーマンの写真をコラージュした、より“回転”したイメージが伝わるジャケット・デザインも作られたが、採用されずに終わり、代わりにクラウス・フォアマンに声がかかった。クラウス・フォアマンは、デビュー前のザ・ビートルズにハンブルクで出会うという、4人を最も古くから知る親友の一人だった。

ジョンからジャケット・デザインの依頼を電話で受けたクラウスは、EMIスタジオへと向かい、3分の2ほどのレコーディングが終わっていたアルバム『Revolver』から、まず最初に「Tomorrow Never Knows」を聴いたという(依頼を受けた時には、アルバム・タイトルはまだ決まっていないとジョンに言われたとクラウスは回想している)。聴いた曲のイメージを元にクラウスがスケッチを描いたところ、髪の毛が強調された4人の描写をザ・ビートルズ側が気に入り、その流れで作業を進めることになる。

そしてジャケットは、3週間ほどかけて仕上げられた。クラウスによると、デザインは、アパートの3階にある小さな屋根裏部屋のキッチンで、1週間ほど集中して作業したという。また、白黒にしたのは、カラフルなジャケットが当時は多かったので、より目立つと思ったからだという。

クラウスが描いたイラストを元に、ロバート・フリーマンが撮影した写真をコラージュし、斬新なイメージに満ちたポップ・アート的な『Revolver』のジャケットは、こうして完成した。その際クラウスは、ジョージの髪のなかに自分の顔写真とクレジットを入れ、さらにポールの耳に中にも自画像を描いている。

アルバムの裏ジャケットには、1966年5月19日に「Paperback Writer」と「Rain」のプロモーション・ビデオをEMIスタジオで制作中の4人をロバート・ウィタカーが撮影した写真が使われた。また各曲には、リード・ヴォーカリストの記載の他に、「Love You To」にタブラ奏者のアニール・バグワットと、「For No One」にホルン奏者のアラン・シヴィルの名前(だけ)がクレジットされている。

クラウス・フォアマンその後の活躍

『Revolver』は、1967年度のグラミー賞の最優秀カヴァー/グラフィック・アーツを受賞した。クラウス・フォアマンはその後、ビー・ジーズの『Bee Gees’ 1st』(1967年)やジャッキー・ロマックスの『Did You Ever Have That Feeling?』(1977年)などのジャケットを手掛け、リンゴ・スターの『Ringo』(1973年)では、付録ブックレット用に、収録曲をイメージしたリトグラフを描いている。さらにジョージ・ハリスンの『Cloud Nine』(1987年)からのセカンド・シングル「FAB」(ザ・ビートルズ時代を振り返った内容)では、『Revolver』をオマージュしたジャケットも手掛けた。

クラウスはベーシストとしても活動し、マンフレッド・マン、ジョン・レノンとヨーコ・オノのプラスティック・オノ・バンド、ジョージのが主宰した“コンサート・フォー・バングラ・デシュ”(1971年)に参加したほか、ジョンの『John Lennon/Plastic Ono Band』(1970年)と『Imagine』(1971年)、ジョージの『All Things Must Pass』(1970年)、リンゴの『Ringo』(1973年)をはじめ、特に70年代前半の、ポール以外のソロ・アルバムに参加した。

ちなみに『Revolver』の原画は、リンゴの義弟となったジョー・ウォルシュ(リンゴの妻バーバラの妹と結婚)が、たまたまロサンゼルスで見つけて、いまでも持っているそうだ。 

楽曲解説:B面全曲

1. Good Day Sunshine

ザ・ビートルズには天候をテーマにした曲がいくつかあるが、これもそのひとつ。「天気が良く、風が心地良い日に、ジョンの家の2階で生まれた夏の歌だった」とポールが語っているように、晴れやかで爽やかなイメージを、ラヴィン・スプーンフルの「Daydream」のような雰囲気でまとめた粋な1曲だ。リンゴのドラムやジョージ・マーティンのピアノもクールな響きで心地よい。

この曲は1テイクしか録られていないためか、今回の記念盤には唯一別テイクや別ミックスは収録されていない。

 

2. And Your Bird Can Sing

イントロからのツイン・リード・ギターと、ジョンとポールのハーモニーが印象的なジョンの曲で、ザ・ビートルズの曲の中でもソリッドなロックとして裏ベスト的な人気がある。「And I Love Her」と同じく、“アンド”を付けたのがセンスの良さだ。だが、ジョンはなぜかこの曲を気に入っていない。

『Anthology 2』には、ジョンとポールがところどころ笑いながらヴォーカルをダビングしているファースト・ヴァージョンのテイク2が収録されていたが、今回のスーパー・デラックス・エディションには、それより幾分やりとりが長く演奏のミックスも一部異なるテイクのほかに、初登場となる、2人のヴォーカルをダビングする前のテイク2とセカンド・ヴァージョンのテイク5の計3テイクが収録されている。

 

3. For No One

「Here, There And Everywhere」と並ぶポールのバラードの秀作で、この曲もジョンのお気に入りである。ポールの弾くクラヴィコードがクラシカルな曲調に溶け込み、浮遊感のある味わいが格別。ハイハット・シンバルとタンバリンで静かにアクセントを付けたリンゴの貢献度も素晴らしい(ジョンとジョージは不参加)。ジョージ・マーティンの要請で参加したアラン・シヴィルによる間奏のフレンチ・ホルンが、荘厳な雰囲気を見事に演出している。

今回のスーパー・デラックス・エディションには、初登場のテイク10(バッキング・トラック)が収録されている。

 

4. Dr. Robert

「ドラッグやピルがテーマ」とジョンが言えば、「ドラッグで元気にしてくれる医者というおかしなアイディアをパロディにした」とポールが言うドラッグ・ソング。とはいえ架空の話かというと、さにあらず。

ドクター・ロバートは、LSDを混入したコーヒーをジョン夫妻とジョージ夫妻に勝手に飲ませた歯科医のジョン・ライリーや、ニューヨーク在住のロバート・フレイマンほか、実在の人物を歌い込んだと言われているが、誰かは特定されていない。

『Revolver』の中では最も明朗快活なサウンドで、とくにジョンのリズム・ギターの響きが抜群だ。初期であれば最後まで軽快に押し切るサウンド作りに徹したかと思うが、ポールが手掛けた“Well, well, well, you’re feeling fine”で始まるサビでのテンポ・チェンジやリズムの変化の妙が、中期のザ・ビートルズ・サウンドの味わい。

今回のスーパー・デラックス・エディションには、初登場のテイク7が収録されている。

 

5. I Want To Tell You

「Eight Days A Week」と並ぶ、フェイド・インで始まる“代表曲”のひとつ。『Revolver』に収録されたジョージの3曲目になるが、1991年の日本公演のオープニングに演奏されたことで、曲の知名度が上がったかもしれない。

「Think For Yourself(嘘つき女)」や「The Word(愛のことば)」などと同じくコーラスが耳に残るブギ・ウギ調のロックで、リンゴの力強いドラムや、不協和音を奏でるポールのピアノが印象的だ。「Love You To」の“Granny Smith”と同じく、この曲も録音時のタイトルは、りんごの品種“Laxton’s Superb”で、翌日に“I Don’t Know”になった。ただし、ジョージ・マーティンに曲名を訊かれて“I Don’t Know”とジョージが答えたのは、曲名として、ではなかったかも。

今回のスーパー・デラックス・エディションには、初登場の「スピーチ&テイク4」が収録されている。

 

6. Got To Get You Into My Life

ザ・ビートルズ初のブラス・ロック。当初は「Good Day Sunshine」と同じくコーラスを多用したクールな仕上がりだったが、アレンジを大幅に変え、サウンズ・インコーポレイテッドが加わったことで、より洗練されたサウンドへと生まれ変わった。

歌詞は一見“君”との生活を思い描いたように受け取れるが、「この曲の相手は人ではなくマリファナ」(ポール)、「LSD体験の結果生まれたに違いない」(ジョン)と2人とも発言している。ジョンが絶賛する、ポールが書いたドラッグ・ソングである。

『Anthology 2』にはファースト・ヴァージョンのテイク5が収録されていたが、今回のスーパー・デラックス・エディションには、それよりも幾分長いテイク5と、初登場の「セカンド・ヴァージョン/アンナンバード・ミックス」と「セカンド・ヴァージョン/テイク8」の計3テイクが収録されている。

 

7. Tomorrow Never Knows

『Revolver』の最後を飾るサイケデリックで難解な曲が、実はセッションの一番最初にレコーディングされた曲だというのが、ザ・ビートルズが当初から革新的サウンドを求めていた証ともなる。「Mark Ⅰ」と呼ばれていた、全く表情の異なるテイク1も絶品だが、ザ・ビートルズ版現代音楽の最高峰ともいえる完成版は、何より素晴らしい。

ポールが自宅で録音した「かもめの鳴き声」を模したテープ・ループを取り込んだり、ジョンの声質をいじったり、テープの逆回転を使ったりと、奇妙奇天烈なサウンドに耳を奪われる。歌詞もジョンの最高傑作のひとつだ。

『Anthology 2』にはテイク1が収録されていたが、今回のスーパー・デラックス・エディションには、テイク1の幾分長いテイクと、初登場の「モノ・ミックス RM 11テイク5」が収録されている。

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ザ・ビートルズ『Revolver』スペシャル・エディション
2022年10月28日発売

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