「過剰債務率」1.3ポイント悪化、原材料高騰など複合要因 ~ 第9回「過剰債務に関するアンケート」調査 ~

 東京商工リサーチは10月3日~12日にかけて、債務の過剰感についてアンケート調査を実施した。
 それによると、「コロナ前から過剰感がある」は11.3%、「コロナ後に過剰となった」は19.4%で、合わせて30.8%の企業が「過剰債務」と回答した。「過剰債務」と回答した企業の割合は、前回調査(2022年8月)の29.5%から1.3ポイント悪化した。
 業種別は、「娯楽業」62.5%、「飲食店」62.0%、「自動車整備業」と「農業」各57.1%など、コロナ禍が直撃した対面型サービス業が目立つ。この他、円安加速、エネルギー価格の上昇などを背景に、原材料・肥料価格の高騰、部材等の調達難の影響を受ける業種で債務の過剰感が高い。
 コロナ禍のなかで行動制限のない9月、10月の大型連休を迎えたが、コロナ前に抱えた債務や為替変動などが企業収益に影響し、過剰債務を解消しにくい構図になっているようだ。
 値上げや価格転嫁が容易でなく、短期的な利益確保も難しいなか、コロナ禍の資金繰り支援策の目玉だった実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)の返済が多くの企業で始まっている。借入返済の原資捻出が難しく既存債務の借換ニーズへの対応が遅れると、倒産増加に拍車がかかりかねない状況に入りつつある。

   

※本調査は、2022年10月3日~12日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,189社を集計・分析した。
※前回調査は、2022年8月16日公表(アンケート期間:8月1日~9日)。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。

Q1.貴社の債務(負債)の状況は、次のうちどれですか?(択一回答)

中小企業の3社に1社が「過剰債務」

 本調査は、負債比率や有利子負債比率など財務分析の定量数値に限定せず、債務の過剰感を聞いた。
 「コロナ前から過剰感」は11.3%(5,189社中、590社)、「コロナ後に過剰感」は19.4%(1,009社)で、計30.8%が「過剰債務」と回答した。
 規模別で、「過剰債務」との回答は大企業が16.2%(678社中、110社)に対し、中小企業は33.0%(4,511社中、1,489社)と、2倍の差が開いた。
 「過剰感があったが、コロナ後に解消」は、大企業が2.0%(14社)、中小企業が3.4%(154社)だった。

過剰債務

業種別「過剰債務率」、「娯楽業」がトップ

「コロナ前から過剰感」、および「コロナ後に過剰感」と回答した企業を業種別で分析した。(業種中分類、回答母数20以上)
 「過剰債務率」最高は、「娯楽業」の62.5%(24社中、15社)だった。以下、「飲食店」の62.0%(29社中、18社)、「自動車整備業」と「農業」の各57.1%(21社中、12社)、旅行や葬儀、結婚式場などの「その他の生活関連サービス業」の55.5%(27社中、15社)と続く。
 対面型サービス業が上位を占めているが、「印刷・同関連業」の51.2%(78社中、40社)、「繊維・衣服等卸売業」の49.0%(55社中、27社)のように、産業構造の変化に晒されている業種も上位だった。

「過剰感がある」「過剰となった」と回答した企業の業種(上位15業種)

Q2.「コロナ前から過剰感」、「コロナ後に過剰感」と回答された方に伺います。債務(負債)の状況が、貴社の事業再構築への取り組みに影響を与えていますか?(択一回答)

「過剰債務」が事業再構築の足かせ 3社に1社

 Q1で「コロナ前から過剰感」、「コロナ後に過剰感」と回答した企業に事業再構築への取り組みを聞いた。1,472社から回答を得た。
 「事業再構築の意向はない」は28.0%(413社)だった。一方、過剰債務が足かせで「取り組むことができない」は13.3%(196社)、「取り組み規模を縮小した」は21.4%(316社)だった。過剰債務を抱える企業のうち、34.7%が事業再構築にマイナスの影響を訴えている。
 規模別では、過剰債務が事業再構築の足かせになっている企業は、大企業で30.9%(97社中、30社)、中小企業で35.0%(1,375社中、482社)だった。  

事業再構築への取り組みに影響を与えていますか

 「過剰債務率」が悪化した。「コロナ前から過剰感がある」は11.3%、「コロナ後に過剰となった」は19.4%で、合計30.8%に達した。前回調査(2022年8月)の29.5%から1.3ポイント悪化した。コロナ第7波はピークを過ぎ、人流は復調に向かっているが、原材料やエネルギー価格の高騰、最低賃金の上昇、円安の進行など、経営を取り巻く環境は激変している。こうしたことが利益確保に暗い影を落とすと同時に、経営者の中長期的なキャッシュフローの見通しを後退させ、「過剰債務率」の悪化に繋がっているとみられる。
 政府は、9月8日に「中小企業活性化パッケージNEXT」を公表し、資金繰り支援の多様化や「収益力改善支援実務指針」(仮称)を策定し、中小企業の「稼ぐ力」の向上を打ち出した。
 また、私的整理の法制化に向けた検討も急ピッチで進んでおり、過剰債務に様々な角度から対応する方針だ。
 ただ、現在の過剰債務は過去の企業支援の帰結という側面もあり、その間に企業が自走する力を失ったとの指摘もある。今後の支援の在り方を巡っては、こうした点も踏まえ、一貫性を持った政策が求められる。

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