20年超の苦境が続く絶版漫画専門店 主人が語る「刀匠が存在するように、趣味の世界はなくならない」

絶版になった漫画本、特撮本、アニメソフトなどレトロなサブカル商品が高額な値段で取引されるようになって久しいが、近年は電子版での復刻、動画配信サービスの拡充などの影響を受け、ニッチな古書店は苦境が続いていている。大阪・松屋町で絶版漫画専門店「バナナクレープ」を営む小谷和豊さんは「私は50歳を超えましたが、なんとかできる限り紙の本を売ることを続けたい。一般の方が刀を保持していないのに刀匠が存在しているように、漫画本という趣味の世界は完全になくなることはないと思います」と語った。

雑居ビルの一室に膨大なサブカル系の書籍が並ぶ。パラフィン紙のカバーで日焼けを防ぎ、ビニールでパッケージして防水。内容を確かめたい客には、小谷店長が作品の成り立ちから裏話まで、膨大な知識に基づく解説を行う。

「この前、若い男性が来店して『カムイ伝』の問い合わせがありました。話を聞くと、本を欲しいというよりも、作品を読みたい、という方だったので、発売中の書籍と、取り扱っている大型書店を紹介しました。そちらの方が収録作品も多くてトクですから。当時の白土三平のことなど、私の知ってることを1時間以上お話しして、『ありがとう』と言って帰られました。売り上げはゼロですが、喜んでくれたので良かったです」

「カムイ伝」などの名作は新装版が発刊されることが珍しくない。80年代から00年代のややマイナーな絶版作品でも、一定の知名度があれば電子版で復刻されるケースが増えてきた。「私は当時の古い本を所有したい、本がほしいという、コレクターを相手に商売をしています」と話した上で「『まんだらけ』のようなグループ、東京での個人店と違って、関西では私のような店は厳しい。知り合いにも店舗を閉じて、ネット販売のみ、古本まつりなどの即売会の開催時に倉庫から書籍を運ぶような形の店が増えています。会社を定年したマニアが終活で〝引き取ってほしい〟という相談を持ちかけられることもありますが、店の体力的に厳しく、お断りせざるを得ませんでした」と続けた。

小谷さんは大阪・狭山市の出身。小学生時代は実家が玩具店を営み、近所の駄菓子店では菓子を買わずに仮面ライダー、ウルトラマンのめんこを集めるような子どもだった。その後、母親がゲームセンターで働いていた影響もあり、漫画、特撮、ゲームなどサブカル好きのオタクに育った。学生時代に発生した連続幼女誘拐殺人事件の際は、「アニメや漫画に詳しい友人にいつものように話しかけたら『なにそれ、俺はオタクと違うで。サッカーの話ならする』と避けられるようになりました」と、世間の逆風を体感した。高校卒業後はバイトをしながら、演劇活動に青春を謳歌した。

転機は1993年。フィギュア好きの友人と、漫画好きの小谷さんで雑貨古書店「漫画道」をスタートした。当時はバブル景気の残り香で、腕時計のGショック、スニーカーのエアジョーダンとともに、レトロな漫画本やフィギュアの価格が高騰。土日のみの営業だったが、プレミア価格の商品が飛ぶように売れた。

小谷さんは当時、大阪・上本町のゲームキャラクターグッズ販売店「マルゲ屋」でアルバイトをしていた。親会社はアーケードゲーム専門誌「ゲーメスト」で知られる出版社・新声社で、雑誌の編集補助として江坂のネオジオランドや、「真サムライスピリッツ覇王丸地獄変」でチャムチャムの声優を務めたアイドル・千葉麗子のインタビューにも同行したという。

「上本町ではゲーム大会の司会をやっていました。参加者に中島らもさんの息子がいらして、仲間に〝こらも〟と呼ばれていたのを覚えています」と楽しい思い出とともに「営業先に『餓狼伝説スペシャル』のグッズを届ける際に『餓狼伝説2』のものを抱き合わせで持って行かされ、福袋をつくる時には『ダルシムがいるから大丈夫やろ』と新声社が出してゾッキ本になったヨガの本を入れさせられるのが嫌でしたね」とつらいものもあった。

1996年、フィギュア担当の友人がゲーム会社を立ち上げ、現在の店名と形式に移行するとともに、「マルゲ屋」のバイトを辞め、古書店の経営に本腰を入れた。「まだまだ売れ行きは好調で、劇団から声がかかれば、店を休みにして舞台に立っていました」と回想した。

しかし、2000年ごろからインターネット上のオークション、後にフリマサービスが普及し、状況が一変した。「そこから20年以上、経営は厳しいままですね」と小谷さん。ネットで古書店を介さず、マニア同士で直接やり取りするようになり、販売実績が激減した。現在はネット販売も行っているが「ネットで注文が来て儲かると考える人がいるかもしれませんが、コロナ禍もあって、どの人も趣味に使えるお金は減り続けています」と説明。20年以上、夫婦で別の仕事をこなしながら、店舗の維持に努めている。同時期に、演劇活動からも足が遠のいた。

90年代後半には同じビルに中古CDショップ、レトロおもちゃショップが同居し、「大阪の中野ブロードウェイをつくろう」と店主同士で誓い合ったが、古書店以外は既に閉店。小谷さんは古書店の経営について「2020年には私の店に電話で、『鬼滅の刃』売っていませんか、と問い合わせがあるくらい、やはり今のヒット作品を扱うことは商売の上では大きい。レトロものではフィギュアやおもちゃは今も人気があります。漫画の電子版、アニメの動画配信のように、フィギュアの3D画像でお客さんが満足するかというと、そうではない。まだモノが強いジャンルですね」と語った。フィギュア、写真集、成人向きの本、流行中の人気作を扱わず、レトロなサブカル系への特化は商売的に厳しいことは自覚している。

それでは、店舗を持ってニッチな古書店を経営する理由はあるのだろうか。「若い男性が『カムイ伝』を探しに来たときのように、結局僕は漫画や特撮の話をするのが好きなんですよ。こんな内容で、しかも長い話を飲み屋、スナックでやったら、お金を取られますよ。そして、この長い話を聞いてもらえるのは、僕が古本屋の主人だからです。長く続けるよりも、辞める方がずっと大変だと思います。それでも、僕自身が楽しいから続けていられると思います」と語った。

絶版漫画古書店「バナナクレープ」の入り口=大阪市内

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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