<社説>民法改正案 閣議決定 より踏み込んだ見直しを

 法律上の父親を決める民法の規定「嫡出推定」を見直す法案が閣議決定された。出生届が出されない「無戸籍者」の問題を解消するためであり、法制審議会の議論や政府の決定を評価したい。ただ、あまりにも時間がかかり過ぎた。 嫡出推定の見直しは1898(明治31)年の民法施行以来初めてだ。無戸籍者が社会問題化し、議員立法による是正も模索されたが、保守層の反発などにより頓挫した経緯がある。救済から漏れる人もいる。国会で問題や課題を徹底して洗い出すべきだ。

 嫡出推定は生まれてきた子と父の関係を早期に確定するための民法の規定だ。離婚後300日以内に生まれた子は、前夫の子とする。

 夫の家庭内暴力などで離婚し、別の男性との間に子を授かった場合、離婚後300日以内の出生だと前夫の戸籍に入る。これを避けようと、無戸籍となってしまう子どもがいた。見直しで、離婚後300日以内の出産でも、女性が再婚していれば現夫の子とする例外を設ける。

 課題はすぐに浮かび上がってくる。再婚していない場合だ。例外の対象にはならず、前夫の子の推定が適用される。

 夫が離婚を認めず、再婚できない例、暴力などで新たなパートナーと再婚できないケースは救済されない。

 ことし8月時点の無戸籍者793人のうち約7割は嫡出推定を理由に出生届が出されなかった人たちだった。改正で無戸籍の解消に効果はあるだろう。

 一方、法務省の2020年の無戸籍者調査で、母親が離婚後300日以内に再婚・出産していた例は4割弱。一定数については出生届を出しやすくなるが、該当せず、状況が変わらない人たちもまた一定程度残ることになる。

 行政サービスからこぼれ落ち、さまざまな困難の中にある無戸籍の人たちを救うのが狙いであるはずだ。であるならば、親の婚姻の状況が子の戸籍に影響する可能性のある状態は放置できない。

 家族の在り方は変化を続けている。離婚した後は事実婚を選択するなど、法律上の婚姻を望まない場合も対象外だ。より柔軟な仕組みを考える必要がある。

 今回は嫡出推定を覆す「嫡出否認」の訴えを父だけでなく子や母にも広げること、親権者による子の懲戒権の削除など、評価できる点はほかにもある。これらについても、見直しまでの経緯や救済の範囲、効果についての検証が欠かせない。

 政府は民法改正案について、今臨時国会での成立を目指す。民法を巡っては親権制度の見直しも法制審で議論が進む。関心が高まる夫婦別姓についても民法がかかわる。めまぐるしく変わる家族像に対し、その在り方に直結する民法について幅広い議論を展開してほしい。制度の運用、見直しが硬直化していないかについても点検すべきだ。

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