「全国旅行支援で便乗値上げ」と騒ぐ人は、3つの真実を知らない【コラム】

10月11日から「全国旅行支援」が始まった。制度が複雑なため、思うように利用できていない人も多いかと思うが、明らかに「旅行」が話題に上りやすくなったという意味で、旅行関連業界を盛り上げる「全国旅行支援」の目的がある程度達成されたといっても過言ではないだろう。

一方で、「全国旅行支援」が始まってから、宿泊施設などの値段が値上がりした、「これは便乗値上げだ」という声も聞こえてくるようになった。もちろん、消費者(旅行者)として、同じサービスの料金は安いに越したことはないが、だからと言って「全国旅行支援で便乗値上げ」と騒ぐのは、やめておいたほうがよい。

あなたの無知を誤ってさらけ出してしまう前に、3つの真実を伝えておくので、この記事を読んで、賢い旅行者として振る舞ってほしい。

当たり前な「需要と供給のバランス」

別に経済学を大学で専攻しなくても、「需要」と「供給」のバランスくらい、誰でもわかると信じたい。仮に難しい概念を置いておいても、「全国旅行支援」が始まって、スーツケースを引きずる人が増えたように、感覚として日本国内の旅行する人が増えて、交通機関や宿泊施設の利用する人が増えたという状況にあるのは、ほぼほぼ周知の事実だろう。

「全国旅行支援が始まって旅行者が増えたから値上げする」という道理に問題は一切ない。ゴールデンウイークやお盆、年末年始や3連休の旅行代金が高くても、それが社会問題になることがないのと同じように、たくさん旅行する人を増やそうとする「全国旅行支援」が始まったので、旅行の価格があがることは自然な流れなのだ。もしこの流れに抗いたいなら、いつでも値段が変わらない交通機関や宿泊施設を(頑張って探して)利用するか、いまこそ「ステイホーム」すればよいのではないだろうか。

多分躊躇している旅行代金相当額で、あなたはふかふかの布団を用意して、なんとかフリックスやなんとかプライムビデオとかとともに、いまこそ充実したおうち生活を過ごせるだろう。これもまた一興である。

ホテルの「値上げ」は今に始まったことではない

「全国旅行支援がはじまったから値上げされた!」という主張自体を否定するつもりはないけれども、「値上げ」は今に始まったことではない。

例えば、この画像は、筆者が昨年のゴールデンウイークに京都に宿泊した時の料金明細だ。宿泊施設にフォーカスするつもりはないが、開業間もないホテルで、ふかふかのベッドと、「みんなの食卓」の特別メニューの朝食が特徴のホテルだ。

「全国旅行支援」期間中の同じホテルの価格を比較すると、当然2倍以上の価格になっている日もある。しかし、その宿が不当な値上げをしているわけではない。あくまで宿を利用する人が増えたというだけだ。

そもそも宿泊施設は、その立地や、日程によって需要が大幅に変動する。そしてその需要に応じて価格が大きく変化するものであった。感染症の状況によっていままで安かっただけで、やっと適正価格に戻りつつあるというのが現状だろう。

ただ、もし宿泊施設を検討して、あまりにも高くサービスに見合わないと感じるようなところがあったなら、そういうところは避けておいたほうがよいだろう。顧客を惹きつけるようなリーズナブルな価格でサービス提供できない宿泊施設は、他の宿と比較されて淘汰されるだけだ。

海外と比較してみると?

いままでは、日本国内の状況をまとめてきたが、海外にも目を向けてみよう。世界は広いので、日本よりはるかに宿泊費が安い国も多々存在する。ただ、経済力がある程度ある先進国の中では、日本の宿泊にかかる費用は恐ろしく安い。

筆者はわけあって、9月にニューヨークやロンドンなどに足を運んだが、いずれも、1部屋あたりの宿泊費は平均で2~3万円程度で、欧米諸国では、日本と同じコストパフォーマンスで宿泊施設に泊まれる国を探すのは極めて困難だ。もし、日本円に換算して数千円で泊まれる宿泊施設があっても、ホステルや、すごく小さな部屋に寝返りをうったらすぐに落ちてしまうような狭いベッドであることがほとんどだ。

どこかの携帯電話会社のCMで聞いたフレーズに似ているけれども、「日本のホテルは安すぎる」のが、海外を回ってきた人間としての感想だ。

「全国旅行支援で便乗値上げ」なんて言っている人に、アメリカやヨーロッパの相場を見せたら、気を失ってしまうに違いないので、見せないようにするか、このTRAICYの記事を一言一句読んでもらって、大きく深呼吸してもらってから、しっかり心の準備をすることをお勧めしたい。

「全国旅行支援で便乗値上げ」とは騒がないほうがいい

別に宿泊施設側に立つつもりはないことをあらかじめ断っておくが、いままで述べてきた3つの理由で、「全国旅行支援で便乗値上げ」と騒ぐことをお勧めしない。日本国内の、ごくごく最近の動きだけしか見れていないことが露呈してしまうからだ。

別に海外と比較したり、2020年からのコロナと宿泊施設の関係を研究する必要こそないが、きわめて自然な経済の動きに対して、自分がどのような対応をすべきか、自分の頭で考えて方針を立てるくらいはしても損はないのではないだろうか。

今後、国際線の便数が増えるにつれて、訪日外国人が戻ってくるだろう。思い出してほしい、インバウンド全盛期、あの有名社長のホテルが1泊4万円と騒がれたことを。物価高やインフレ、人材不足、加えてコロナ禍で負った多大な損失を考えると、もしかしたら「便乗値上げ」と言われている今も、後から振り返ってみれば割安だったと言われる日が来るかもしれない。

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