「スポーツ経営コンサルタント」ってどんな仕事?日ハム新球場のアドバイザー、NY在住の鈴木友也さんに聞いてみた

 年間の市場規模が50兆円超ともいわれる米国のスポーツビジネス。ニューヨーク在住の鈴木友也さん(49)は「スポーツ経営コンサルタント」として、その最前線に身を置き、スポーツビジネスに関するノウハウを日本に伝えている。高校時代は野球、大学ではアメリカンフットボールに打ち込んだ元スポーツマン。外資系コンサルティング会社で経営コンサルタントの基礎を身につけた後、2000年に渡米し、スポーツ界で日米の架け橋となるべく日々奔走している。スポーツ経営コンサルタントとは一体どういう仕事なのか、聞いてみた。(共同通信=小西慶三)

鈴木友也さん=6月、ニューヨーク

 ―スポーツ経営コンサルタントってどんな仕事ですか?
 「スポーツ関連組織が抱える経営上の課題を解決したり、新たな挑戦を乗り越えるパートナーとして、健全な成長を実現するお手伝いしたりするのが仕事です。スポーツ選手にとってのコーチみたいな存在と言ったら分かりやすいかもしれません。岡目八目ということわざがありますが、当事者でない方が客観的に問題の所在や解決の方向性が見えやすい時があります」

 ―今、実際にどんな仕事をやっていますか。
 「米国のスポーツ業界の進んだ取り組みなどをインプットし、日本にアウトプットします。顧客はプロ野球の球団、バスケットボール男子のBリーグや一般企業など約50団体。(来年開業する)北海道日本ハムファイターズの新球場開発には計画当初からアドバイザーとして加わっています」

日本ハムの新球場「エスコンフィールド北海道」=8月、北海道北広島市

 ―どんなところが難しいですか。
 「日本の顧客と米国の団体との“マッチング”です。顧客は米国の最新情報を求めますが、その多くは企業秘密でもあります。そこで、双方にメリットがある関係にどう持っていくか」
 「日本の顧客の多くは米国の相手に何を提供できるかという意識をあまり持たれていないので、その場で価値交換ができないケースも多い。そのときは別の案件を手伝うことなどで代替します。例えばニューヨークでは皆、ヤンキースの視察に行きたがります。そこで、いつかヤンキースが日本人選手や日本企業を獲得しようとしたとき、彼らが用意する日本語のプロモーション動画やプレゼンの監修をしてバランスを取る。同じ競技、例えば野球の球団同士ならやりやすいのですが、そうでない場合は僕が知恵を絞って何とかしなきゃいけない」

 ―仕事の「こつ」ってありますか。
 「サーフィンに例えられます。自分が何か波を起こすというより、起きてきた波に乗っかっていく。自分も経営コンサルタントの端くれですから、若い頃は事業計画をつくったりもしていましたが、今はやめました。それよりも『こんなことができませんか』というクライアントの声に耳を傾ける方がいいと気付きました。心がけているのは波待ちの法則です」

 ―仕事はどのようにして入ってきますか。
 「自分から営業はせず、口コミでの依頼がほとんど。スポーツの経営に関する仕事で、日本のスポーツ業界の健全な成長につながる話なら基本的に全て引き受けます。やっぱり、波を待つ方が自分で何か計画するよりも断然面白いことが起こるんですよ。自分の計画は自分の発想の域を超えません。最近は新しいスタジアムやアリーナを建設するプロジェクトのアドバイザーとして働くことも増えましたが、この仕事を始めた頃は大手ゼネコンやデベロッパーと一緒に仕事するなんて想像したこともなかったですから」

オンラインで取材に応じる鈴木友也さん=2月、ニューヨーク

 ―なぜ今の仕事を選んだのですか。
 「大学時代は体育会に所属していて、その頃は先輩に引っ張られて商社や銀行にいく人が多かった。いわゆる体育会採用で会社に人生をささげるみたいな時代です。でも何の知識もなく、ただ誘われるまま会社と結婚するような人生はふに落ちなかった。だからまず転職しやすいところで働いて、いろんなものを見て、これだと思うものに出会えればと。でも結局、そんな都合のいい出会いはなかったですね」

 ―転機があったのですか。
 「本当にこれでいいのかと不安になっていた頃、友人から『あなたの人生の喜怒哀楽とは』と問われてふと考えました。それまでの僕は自分の外ばかり見ていた。初めて自分の内面と向き合い、何がこれまで生きてきた中で琴線に触れてきたのかと振り返りました。それが全部スポーツに関わる出来事だった。スポーツで飯を食っていきたいと思い始めた頃、アメフト部の先輩が米国でスポーツビジネスを学ぶと聞きました。これだ、と思いましたね」

 ―実際に米スポーツ界の内情に触れて感じることは。
 「産業としてすごいなと思うのは結果を出さないとクビになることです。人間、一番力が出るのって自分の生存を懸けて戦っているときです。こちらでは皆が個人でリスクを取って勝負している。その方が圧倒的にいいアイデアが生まれるように感じます。誰がお客さんで、その人たちにどのような価値を提供すればお金になるかのノウハウを学ぶところは多い。これまでの日本は競技者目線中心。例えば、スポーツ施設も観戦者、つまり顧客のことは全然考えていなくて、やる人のために造られていた。以前のプロ野球が典型でしたが、オーナー企業が節税ツールのために保有し、翌日の新聞で会社名が出れば年間30億円の赤字でもオーケーという時代が長かった」

 ―顧客志向以外に感じることはありますか。
 「この10年で米国のスポーツ界は、その訴求価値が大きく変わったと思います。こちらの関係者は既にスポーツが非日常的な感動を味わうエンターテインメント産業というより、社会課題を解決するプラットフォームという意識が強くなってきています」

 ―具体的にはどんな活動ですか。
 「例えばプロバスケットボールNBAに現在、マス・フープという取り組みがあります。数学のマス、フープはバスケットボールのゴール。サイコロを二つ振り、それぞれ出た目を足し算、かけ算などして全部正解だとシュートを打てるというゲームです」

 ―目的は。
 「各球団が本拠地でトーナメントを行うのですが、その理由は子どもの算数の成績と貧困に相関関係があるから。地域の貧困をなくすために、NBAがそういうことをやる。プロ球団が関わるとメディアが注目し、いろんな人に活動が広がっていきます。そこにスポンサーが入ってきて活動がより持続的、広範囲になる仕組みです。自分たちの産業が持つ価値で、スポーツ界以外の競合産業、例えば音楽界や映画界がまねできないことをやろうという流れです」

昨季のNBA決勝で攻め込むウォリアーズのカリー(右)=6月、サンフランシスコ(ゲッティ=共同)

 ―役割が広がったスポーツ業界を目指す若者も多いですね。
 「スポーツが好きだからという曖昧な動機でこの世界に入ってくる人が8~9割でしょう。でも入ることをゴールに考えちゃ駄目。今のスポーツ業界をいかに革新していくか、どうすればビジネスとして大きくなっていくのか、そしてそこに自分がどう貢献できるかということを前もってイメージしておかないと後になって苦労します。この業界は一見華やかですが、多くの組織の商規模は中小企業レベルで、入った後に手取り足取り研修で教えてくれる余裕はありません。今は社会に出て50年くらい働く時代。入った後の30年後、40年後に何をしたいか、どうあるべきなのかを考え、それに必要なスキルをつけておくことで雲泥の差が生まれると思います。ですから新卒ですぐにスポーツ業界に入る必要は必ずしもありません」

 ―必要なものは。
 「へこたれないことでしょうか。スポーツ界では、ある程度大きな規模の産業ではあまりないネガティブなことが起こります。例えば派閥争いに敗れた人が追い出されるとか、ガバナンスが機能せず、何の権限もない〝偉い人〟や〝功労者〟がしゃしゃり出てくるとか。そんなイレギュラーなことで物事がうまく運ばなくなることもあります。でも、そういうことにへこたれていると持ちません。そういうことが自分の周りで起こっても、へこたれない強い気持ち。なぜ自分はここで頑張るのかという心の炎は必要だと思います。あとはどこでだって食っていけるという独立心。他人に依存していては、あるべき姿は主張できませんし、波風立つのを恐れたら、改革なんて進みませんから」
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 すずき・ともや 一橋大卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)勤務後に米留学し、独立。現在はトランスインサイト社代表。49歳。東京都出身。

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