巨大な星のペアが描いた17本のリング。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影したウォルフ・ライエ星「WR 140」(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, JPL-Caltech)】

こちらは「はくちょう座」の方向約5300光年先にある「Wolf-Rayet 140」(ウォルフ・ライエ140、以下「WR 140」)です。画像の中央で明るく輝くWR 140を取り囲む幾つものリングが、はっきりと捉えられています。WR 140はその名が示すように「ウォルフ・ライエ星」の一つとして知られています。

アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、ウォルフ・ライエ星は大質量の恒星であるO(オー)型星が進化した姿で、約1000万年以下とされる短い生涯の最後に近づいている段階です。大量の水素が外層から恒星風として放出され失われたために、ウォルフ・ライエ星では高温の内層がむき出しになっていると考えられています。天の川銀河には数千個のウォルフ・ライエ星があるはずだと見積もられているものの、実際には600個程度しか見つかっていません。

この画像は「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡「中間赤外線装置(MIRI)」を使って取得された画像をもとに作成されました。人の目は赤外線を捉えることができないので、この画像は取得時に使用された3種類のフィルターに応じて、赤・緑・青で着色されています(※)。

※…F2100W :赤、F1500W:緑、F770W:青でそれぞれ着色

WR 140は、実際にはウォルフ・ライエ星に進化した恒星(質量は太陽の約10倍)が、別のO型星(同・約30倍)を7.93年周期で公転している連星とされています。O型星の表面温度は摂氏約3万5000度ですが、WR 140のウォルフ・ライエ星は表面温度が摂氏約6万度(太陽の10倍以上)に達していると推定されています。ウォルフ・ライエ星に進化する過程で、この星は質量の半分以上に相当する物質を放出した可能性があるようです。

【▲ WR 140を構成するO型星(右)とウォルフ・ライエ星(左)、および太陽(左上)の大きさを比較した図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

NASAによれば、WR 140を取り囲む同心円状のリングはでできていて、O型星とウォルフ・ライエ星の恒星風どうしが衝突してガスを圧縮し、塵が生成されることで形作られたと考えられています。ただし、WR 140のウォルフ・ライエ星は細長い楕円形の軌道を公転しているため、2つの星が接近する時にしか塵は生成されません。そのため、塵のリングはあたかも木の年輪のように、約8年ごとに形成されることになります。

ウェッブ宇宙望遠鏡のMIRIが捉えたWR 140の画像には、全部で17本のリングが写っています。WR 140に関する新しい研究論文の筆頭著者である、米国科学財団(NSF)国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)の天文学者Ryan Lauさんは「私たちは、この連星における1世紀以上に渡る塵の生成を見ているのです」と語っています。過去に行われた地上の望遠鏡を使った観測では2本のリングしか見えなかったといいますから、改めてウェッブ宇宙望遠鏡の性能の高さが伺えます。

太陽とは異なる性質を持つウォルフ・ライエ星は、恒星や惑星の形成に重要な役割を果たしているかもしれません。ウォルフ・ライエ星の近くから一掃されたガスや塵といった物質は、周辺の領域に集積していき、やがてその密度は新たな星が形成されるのに十分なレベルまで高まる可能性があるといいます。短命なウォルフ・ライエ星の活動が、次世代の星の誕生を促しているかもしれないというのです。

Lauさん率いる研究チームに参加したカリフォルニア工科大学のPatrick Morrisさんは「短命なウォルフ・ライエ星は天の川銀河ではめずらしい星ですが、銀河の歴史を通して、爆発やブラックホールの形成に先立って大量の塵を生成してきた可能性があります」「これらの星が星間物質をどのように形成し、銀河の星形成を引き起こしてきたのかについて、新たな宇宙望遠鏡とともに学ぶつもりです」とコメントしています。

冒頭の画像はNASAをはじめ、欧州宇宙機関(ESA)やウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)から、2022年10月12日付で公開されています。

関連:海王星の環も鮮明に撮影 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

Source

  • Image Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, JPL-Caltech
  • NASA \- Star Duo Forms ‘Fingerprint’ in Space, NASA’s Webb Finds
  • STScI \- Webb Reveals Shells of Dust Surrounding Brilliant Binary Star System
  • ESA/Webb \- Webb Finds Star Duo Forms ‘Fingerprint’ in Space
  • Lau et al. \- Nested dust shells around the Wolf–Rayet binary WR 140 observed with JWST

文/松村武宏

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