佐野元春「ガラスのジェネレーション」誰もが “つまらない大人にはなりたくない”  ライブをやりながら自信を持つことが出来た佐野元春独自の世界観

セカンドアルバム「Heart Beat」のオープニングを飾った「ガラスのジェネレーション」

今から42年前、僕らのアンセムは生まれた。1980年10月21日、佐野元春2枚目のシングル「ガラスのジェネレーション」をリリース。この曲は翌年2月25日にリリースされた、さまざまな事情を抱えた都市生活者たちが、悩み、疾走し、前のめりに躓きそうになりながらも、たったひとつの真実を探し求める一夜を描いたコンセプチュアルなセカンドアルバム『Heart Beat』のオープニングを飾った。

しかし、「ガラスのジェネレーション」も「Heart Beat」もリリース直後は、一部の熱狂的なファンに支持されてはいたが、その煌めきを内包した元春独自の世界観が、全国的に浸透しているというわけではなかった。

以前、元春にインタビューした時、『佐野元春インタビュー①アンチ・シティポップ「SOMEDAY」は僕の反抗だった』で、彼はこんなことを言っていた。

「最初はあまり売れていなかった… 当時リリースした「アンジェリーナ」や「ガラスのジェネレーション」はモダンポップで少しはウケるかなと思っていたけれど、セールス的には冴えなかった。だけど、自分の音楽を求めてくれているキッズがいることを肌で感じ、ライブをやりながら自信を持つことが出来た」

―― と。

リリース当時、僕もまた、元春について知る由もなかった。しかし、感度が良好なティーンエイジャーのアンテナが彼の音楽をキャッチするのにさほどの時間は必要としなかった。

このコメントを元春が発した時、僕は心の中で思った。「あなたがリリックの中で描く、プリティ・フラミンゴやミッドナイト・カンガルーは僕らのことだと分かっていましたよ」―― と。

「ガラスのジェネレーション」で描かれる世界観

地道なライブ活動と、セルフプロデュースで、自らが思い描く世界観の輪郭をくっきりと浮かび上がらせたサードアルバム『SOMEDAY』によるブレイクで、過去にリリースされた作品を貪るように聴く。そんなキッズが多かったと思う。

ソフィスティケートされたシティポップが全盛の時代にピアノのメロディが主体となる作風を持つ元春が、荒削りで性急で、魂を剥き出したようなロックンロールというカードを選ぶことは大きな賭けだったと思う。つまり、人々の生活水準が上がり、豊さが当たり前になった時代に、そこに迎合する音楽をクリエイトするのではなく、そんな状況に疎外感を感じながら「なんで?」「どうして?」と闇雲に自分だけのたったひとつの真実を追い求める人たちのための音楽を発信する道を選んだということだと思う。だからこそ、自分が何者かも分からない、世の中の仕組みも分からない、未来がどうなるかも見えないティーンエイジャーにはダイレクトに響いた。

「つまらない大人にはなりたくない」と願うリスナーの心情とは

そして「ガラスのジェネレーション」で描かれている世界観は、気休めな励ましでも、曖昧な希望でもなく、徹底的なリアリティだった。それは、

 この街のクレイジー・プリティ・フラミンゴ
 答えはいつもミステリー

―― という一節が象徴していた。人生という荒波の海に放り出される前のティーンエイジャーが抱える見えない不安を、元春は肯定するのでもなく、ただただ現実を描いていた。だけど、その現実をわかってくれる人がいる、自分たちのことを歌にしている人がいるという共有感があった。決してメッセージではなく「つまらない大人にはなりたくない」と願うリスナーの心情の細部をストーリーテラーとしてリアルに描いてくれた。

「恋をしようぜ」「街に出ようぜ」と語りかけてくれるが、そこから先の答えは僕らに委ねられていた。メッセージソングではないからこそ、黙って近くに寄り添ってくれているような臨場感があったのだ。

僕は中学の卒業文集に「つまらない大人にはなりたくない」と書いた。そして、初めてこの曲を聴いてから40年経った今も「つまらない大人」になっていないかと時々自問自答する。

思い描いていた自分になれたのか?
自分だけの真実の真実を突き詰めたのか?

―― いや、これだけ生きてもまだまだ分からないことが多い。今も「答えはいつもミステリー」だ。だから今も「ガラスのジェネレーション」を僕たちの歌として聴き続けている。

カタリベ: 本田隆

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